「なあアッシュ!かまくら作ろうかまくら!」
「出来るか屑が」


真っ赤なマフラーと真っ赤なてぶくろ、そして真っ赤な頭で本当に赤尽くしの人間が真っ白な世界に飛び込んできた。赤色は楽しそうに人気の無い雪に埋もれた公園に入ってくると、まっさらな雪の絨毯にせっせと足跡をつけ始める。風邪が治ったばかりだというのに大はしゃぎの赤色、ルークが、アッシュは内心心配で仕方がなかったが、一日じっと部屋の中で雪と遊ぶのを我慢していたルークが今止めたって聞きゃあしないのは十分分かっていた。だから呆れたため息を吐いただけで、音を立てて歩き回るルークを止めるようなことはしなかった。
ちなみにアッシュも赤いマフラー赤いてぶくろ赤い頭とそっくりルークとお揃いの格好だったりするのだが、アッシュはそれをあまり考えないようにしている。


「出来ねえの?」
「少なくとも人間が入れるサイズのものを作るには、もっと雪が必要だ」
「ええーこれだけあるのにまだ足りないのかよ」


ルークは名残惜しそうにしゃがみこんで両手で雪を掴み上げてみせる。手作りのてぶくろは雪からの冷たさからルークを守り、ルークのぬくもりから雪を守っていた。
公園中の雪をかき集めれば出来ないことも無いかもしれないが、かまくらを作るための雪は出来るだけ真っ白で純粋な雪が良い、らしい。土の混じった雪はあまり適さないようだ。前日にかまくらの事を密かに調べていた準備の良すぎるアッシュだった。


「でも俺、夢に見るぐらいかまくら作るの楽しみにしてたのに」
「夢に見たのか……」
「こんなでっかいかまくらでな、中で俺とアッシュが餅とかみかんとか食べてすっげえ美味そうだったんだぜ」
「お前はかまくらより餅やみかんが食いたいだけだろうが」
「あー、今思えばそうかも」


アッシュの言葉に笑ってみせたルークは、そのまま立ち上がっても手の中の雪をじっと見つめたままだった。その瞳はまったく諦めてはいない。
かまくらの作り方もまともに知ってはいないだろうに、一度やろうと決めたらとことん突っ走っていくのがルークだ。そんなルークを知り尽くしているアッシュは、大きなため息を吐いてからルークの頭を掴んで、顔を上げさせた。


「公園の雪をかき集めろ。汚れていない綺麗な雪の部分だぞ」
「へっ?」
「頑張れば、入れない事もない大きさのかまくらぐらいなら作れるかもしれねえ」
「……!アッシュ!さすがアッシュだー!」
「っ分かったから早く動け!」
「アイアイサー!」


ビシッと敬礼してみせたルークは張り切って動き始めた。かまくらを作るつもりだったくせにスコップなどの道具をまったく持ってきていないルークは手で雪をかき集めている。てぶくろを作らせておいて本当によかったと思いながら、同じく道具を持ってきていないアッシュもルークにならっててぶくろに覆われた手で雪を集め始める。正直てぶくろをしていても冷たいものは冷たいのだが、冷えた手を休ませ足も使いながら、公園の中央に雪を集めていく。

雪を山のように積んで固めて、崩さぬよう中をくりぬくように掘ればかまくらの完成だ。そのためにはある程度雪を集めなければならないという訳だ。せっせと雪を集めて押し付けるように雪の山を作りながら、ルークが真っ白な息を吐き出した。


「あー疲れた……!かまくら作るのって大変なんだなー」
「知らずに作ろうとしていやがったのか」
「いや確かに作り方は具体的に知らなかったけどさあ。そういうのはアッシュが教えてくれるからつい、な」
「………」


これは自然と甘やかしている事になってしまうのだろうかとアッシュは悩んだ。頼りにされるのは正直嬉しいのだが、ルークが自力で学ぶ機会を奪っているのではないかとまるで親のように心配してしまう。そんな事をアッシュが考えているとはつゆ知らず、ルークは考え込むアッシュの横顔をじっと眺めた。そして、思いつく。足元の雪を掬い上げぎゅうっと丸めて、静かに振りかぶった。


「アーッシュ!」
「ん?……ぐはっ!」


呼ばれて振り返ったアッシュの顔面に凍るほど冷たい何かが叩きつけられる。考えるまでも無い、この雪まみれの公園で凍るほど冷たい何かといったら、一つしかないのだ。顔にかかる粉雪を振り払ったアッシュの目の前には、腹を抱えて笑い転げるルークの姿があった。


「あははは当たった当たった、しかもど真ん中!」
「てめえ……ルーク!」
「だって雪がこんなにあるんだから、誰かに当てたくなるだろ?」
「どんな理屈だ屑がっ!」


アッシュは素早く身をかがめると、手の中の雪玉を勢い良くルークへと投げる。笑うのに夢中になっていたルークが避けられるはずも無く、先ほどのアッシュと同じように顔面で受け止める事となった。


「ぶはっ!」
「ふん、無様だな」
「おっ同じように食らったくせに……!ちくしょー負けねえーっ!」
「二度と同じ手に引っかかるかー!」


にらみ合った二人の頭上で、即座にゴングが鳴り響いた。最早頭の中には相手をいかに雪まみれにして打ち勝つかという事しか残っていない。拾い上げた雪を雪玉に固める暇も無いほど次々と雪を投げ合う白熱した戦いが始まった。突然このような勝負になる事は、幼い頃から変わっていなかった。


「うおおおお!これでも食らえー!」
「はっ、その程度か、まだまだだな!砕け散れっ!」
「いたっつめたっくそ、アッシュめー!全てを滅する刃と化せぇー!」
「ほ、本気を出しすぎだろ屑がぐふっ!」


雪玉というより雪の塊のぶつけ合いへと発展している焔色同士の戦いは、今まで何を作ろうとしていたのかすっかり忘れたままいつまでも続いた。狭く静かで真っ白な公園に、周りを気にせずにはしゃぎまわるペアルックの高校生二人の笑い声が響き渡る。雪玉を作るために削られていく雪の山の事も忘れて。
かまくら作りは、次のお楽しみとなりそうである。





   雪とかまくらと雪合戦

09/02/07