お年玉は子どもだけの特権である。歳を取るごとに地味に増えていく金額に少々の申し訳無さを感じつつも、アッシュは有り難くカラフルなお年玉袋を親戚から頂いていた。もちろん今年もだ。大人になれば途端に貰えなくなるお金なのだから、貰えるうちに貰っておいて損は無い。とは言っても、アッシュはお年玉を真面目に貯金しておく派だったりする。
そしておそらく今年に貰ったお年玉は今年の、いや今月中に全て使い切ってしまうだろうなあと思っていたルークは、まさしくその通りの人間だった。


「なあなあアッシュ!お年玉いくら貰った?何に使うんだ?」
「その口ぶりからすると、さっそくそのお年玉を使うつもりか」
「何言ってんだよ、使ってこそのお年玉だろ?」


それぞれ元旦を過ぎ実家に帰り正月を過ごした後再会した学校の始業式の日。さっそくアッシュに突撃してきたルークはけろりとした表情で言う。貯金をするという考え自体が頭の中に無いようだ。しかしそこがルークらしいという気がするので、アッシュは何も言わない事にする。


「お前は何に使うか決めてるのか」
「もちろん!アッシュ、決まってないなら俺に付き合えよ!」


笑顔で誘ってくるルークに、少し考えたアッシュは結局頷いていた。使い道は無いし全額貯金するつもりであったし、たまにはパーッとお年玉を使ってみるのも悪くは無いかなと思ったのだ。


「よし!そんじゃ、次の日曜な!それまでお年玉使い込むなよ?」
「お前がな」


指を突きつけてくる相手に指を突き返しながら、アッシュは次の日曜を密かに楽しみに思った。どんなお年玉の消費の仕方が来ても、ルークと一緒であれば楽しむ事が出来るからだ。




「さあそんな訳でやってまいりましたここ!今日こそ!念願の!焼き鳥焼きそばイカ焼きわたあめとうもろこしにお団子そしてりんご飴ー!」
「……なるほどな」


日曜日、ルークに連れられてやってきたのは、元旦に初詣に来た神社、の前に並ぶ屋台だった。当日ほどの数は並んではいないが、休みの日は未だに参拝客の人が絶えないこの神社には屋台もそれなりに並んでいるのだ。
ルークはお年玉が入れてあるだろうガマグチ財布(昔あの近所のお姉さんティアに作ってもらった人気アニメマスコット「チーグル」型)を握り締めながら、ハンターの目つきで左右に並ぶ屋台を眺め回す。


「さーて、どこから制覇しようかな」
「まだ諦めてなかったのか、買い食い」
「だってアッシュが後で来ればいいとか言ったじゃねえか!」


ルークはきっちり覚えていたらしい。よほどこの立ち並ぶ屋台達に未練があったようだ。最初からルークに付き合う予定であったアッシュはそれ以上つっこまずに、拳を固めるルークの背中を押した。


「分かったから、さっさと行くぞ。何から買うんだ」
「そりゃあ、あれだよあれ」


こっちこっち、と気を取り直したルークは今度は機嫌よく笑いながらアッシュの手を引っ張った。その冬だというのに暖かな手が、昔の記憶を呼び起こす。夏の蒸し暑い夜の空気の中でもこの手は暖かかった。良い年の男同士手を繋ぐという行為に羞恥を覚えるが、周りの人間は他の事に夢中でこちらを見てはいないだろうと無理矢理自分をごまかして、アッシュはそのままにした。
引き摺る勢いでアッシュを引っ張るルークは、一つの屋台の前で足を止めた。財布を誇らしげに抱えて、屋台の親父さんに指を二本、見せ付ける。


「おっさん!りんご飴、二つ!」
「あいよ!」
「俺の分もか……」


夏休みのお祭りで、ルークが屋台で一番最初に買うものは決まってりんご飴と決まっていた。それは今も同じのようで、手渡された真っ赤なりんご飴を嬉しそうに舐めた。そのままもう一本のりんご飴をアッシュに突きつけた。ルークはどうやらアッシュと二人で真っ赤なりんご飴を食べるのがお気に入りのようなのだ。


「俺がおごるからさ、はい」
「ったく、何がいいんだか」
「真っ赤なアッシュと真っ赤なりんご飴がお揃いで見てるだけで楽しいんだよ」
「………」


複雑な心境でアッシュは甘くて仕方がないりんご飴を口にする。それを言うならルークだってりんご飴とお揃いなのだが、そう言えば二倍四倍の威力の言葉が返ってくる事は実証済みだ。大人しくおごられたりんご飴を頬張るしかない。
ちらと隣を見れば、ルークがガリガリとりんご飴をかじっている。アッシュは飴などはずっと舐めておくタイプなのだが、ルークはどうしても噛んでしまうらしい。一度舐めるか齧るかで盛大にもめたこともあったが、最早懐かしい過去の話だ。
半分以上りんご飴をかじったルークが、さっそく歩き出した。


「よーっし!この調子でばんばん買って食って遊びまくるぞー!」
「はいは……ってお前、お年玉全額にしては、その金は少なくないか」


次に意気込むルークが財布の中身を確認しているのを横からこっそり覗き込んだアッシュは、少しだけ驚いた。明らかに一万円、いや五千円以下の金額しか確認できない。親戚が少ないとか、もしかして金銭的に余裕が無いのだろうかとか余計な事を考えたアッシュだったが、ルークはあっけらかんと首を横に振った。


「いや、半分以上貯金に回された。俺はパーッと使い切りたいと思ってるんだけど毎年取り上げられちまうんだよなあ」
「とても賢明な判断だな」
「仕方がないから残りを思いきり使うんだ!ほら次行くぞアッシュー!」


まだりんご飴が結構残っているアッシュを構わずに、再び片手を奪ったルークが引っ張り始める。それでもアッシュはその温度に文句を言えないのだった。





「あー買った食べた遊んだ、俺大満足ー」
「そりゃ良かったな。……財布の中にはまだいくらか残っているようだが?」
「え?あ、これは、その……よ、予備だよ、予備!気にすんなって!」
「?そうか」


その日の帰り道、アッシュと別れた後、手芸店へと入り毛糸や棒針、かぎ針が並ぶ棚を財布を手に真剣に見つめるルークの姿があったという。






   お年玉の行方

09/01/14