「まあ、どちら様ですの?このルークに良く似た方は」
可愛らしい金髪の少女がこちらを見上げてくる。その好奇心旺盛なくりくりとした目で見つめられると、何故だか落ち着かない。その視線に邪気はまったくないのだけど、その分真剣なものだからそれが多分落ち着かないんだ。昔からそうなんだよな。何事にも真剣に、呆れるほど真剣に取り組むんだ、この未来のキムラスカ王妃様は。
「こいつは俺の使用人のシロだ」
「あらそうでしたの。犬っぽくて可愛い名前ですわ」
俺の隣に立って偉そうに紹介するルーク。それに笑うナタリアは本気で可愛い名前だと思っているんだろう。何だかなあ、どっちも微妙に世間からずれてる天然さんだからな、この中でつっこむガイは大変だっただろうな。……あれ、俺実は今そのポジション?
「それではシロ、さっそくお茶の準備をしてちょうだい」
ナタリアが優雅に命令する。何故だか俺の名を呼ぶ時嬉しそうだった。はいはいと踵を返すと、後ろから「まるでペットを呼んでるようですわ」とやはり嬉しそうな声。見えないけど多分ルークも頷いている。使用人というより、俺ペット感覚なのかな……。
2人分のお茶の準備をしていると、いつの間にかそれが3人分に増えていた。俺は準備してない。ふと隣を見ると、ガイが立っていた。
「え、何で?」
「ナタリア様が来てるんだろう?3人分じゃないか」
「ルークとナタリア……様で2人じゃんか」
危ない危ない……。ルークの呼び捨てはルーク公認だからいいとして(様なんてつけると逆上する)ナタリアはさすがに様付けだよな。何てったってお姫様だもんな。俺ちゃんとした言葉遣い出来るかな……何だかんだいってルークとばかり一緒にいるから敬語使う機会が無いんだよな、使用人なのに。
取りとめも無くそんな事を考えながらガイを見ると、苦笑に近い形の表情で俺を見ていた。
「ルーク様とナタリア様と、そしてお前だろ?」
ガイに言われて、そうかと思い当たった。そういやここんとこずっとルークのお茶の時間に俺も一緒に楽しんでるんだった。いやそれもルークの命令なんだけどさ。でも今ナタリアが来てるんだぞ?そこに俺が入ってもいいのか?だって2人は確かすでに、婚約した関係じゃないか。そこに使用人が一緒にお茶なんてしていいのか?助けを求めるようにガイを見ても、肩をすくめてみせるだけだった。つ、つれない。
「ま、用意しなくて怒られるのは嫌だから、持っていっとけよ」
確かにそれは嫌なのでありがたく持っていく事にした。今も昔も(今も、未来も?)怒る……ルークは苦手だ。その姿がいくら子どもでもあの鋭い目つきは頂けない。内側から怒りのオーラがビシバシとこっちを叩いてくるのだ。俺には出来ない。
3人分持っていったら、ルークが当然という顔をして迎えてくれた。これでよかったらしい、ありがとうガイ。……いやちょっと待てよ。お前婚約者がいるのにその2人きりのお茶の時間に使用人を混ぜるのか。いいのかそれで。ほら、ナタリアも目を丸くしてるじゃないか。
「あら……シロもご一緒なさるの?」
「当然だ」
何が当然だ!俺が心の中で叫んでも妙に得意げなルークはケロリとした顔だ。例え実際に声に出しててもこんな顔してるんだろう。ナタリアは戸惑いながらも俺を受け入れてくれた。ありがとう、そしてごめんなナタリア。せっかくルークと2人だったのに。
「どうぞ、ナタリア様」
「ありがとうシロ」
お茶を入れてやるとナタリアは笑顔で礼を言った。昔はナタリア、俺よりいっこ年上だからあんまり思わなかったんだけど、可愛いよなあ、小さくて。それを言うならガイとか、ルークだって可愛いものだけど。
「はいルーク」
「ん」
ルークにも同じように入れてやる。するとナタリアがぽかんとした顔になった。しまった、ついいつものくせでルークに渡してしまった。ナタリアはお姫様だから、使用人が主人にタメ口なんて許さないだろう、どうしよう。でも敬語使うとルークが怒るし。ああ俺は一体どうすれば……!
内心頭を抱えた俺の目の前で、ナタリアが憤慨した様子で言った。
「ずるいですわ!」
ほら怒った……ん?ずるい?
「シロ、何故ルークは呼び捨てで私には様付けですの!私だけ仲間はずれじゃありませんか!」
「な、仲間はずれ?!いやルークに敬語はやめろって言われてるので……」
「では私にもそうして下さいませ。いいですわね!」
ナタリアに指を突きつけられて俺は途方にくれた。かつてのガイを思い出した。ガイ、俺今ならガイにもっとずっと優しくなれる気がする。
そうだよな、いくらお姫様でも、まわりが皆使用人ばっかりじゃ息が詰まりそうになるもんな。俺もそうだった。何をしてもこっちに恭しい態度ばかりのメイドや護衛騎士ばっかりだったら、俺もっとひどい人間になってた。ガイやナタリアがいてよかったって思う。でもな?それとこれとは話違うだろ?
俺に拒否権はないけどさ!
「わ、わかりまし……わかった、わかった!」
「よろしい。ルーク、いい使用人を見つけましたわね」
楽しそうに笑いながらナタリアに言われて、お茶を飲みながらルークはかすかに胸を張った。
「当然だ」
だからなんでお前が自慢するみたいにいばるんだよ。
親愛なる 5
06/07/15
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