近頃めっきり寒くなってきたので、双子の家にもとうとうコタツが出される事となった。ストーブの無い部屋にはコタツは必需品なのだ。朝起きたらまずコタツのスイッチを入れて中に制服を放り込み、十分に温まったものでなければ着られないと駄々をこねる弟のためにアッシュがブツブツ言いながら用意してやった。アッシュ自身毎年やっている事なので出さない訳にはいかない。
翌日寒い風が吹くようになった外から帰って来たアッシュは、さっそくいそいそとコタツに入ろうとした。しかしコタツの中に足を入れた途端、何か柔らかいものに行く手を阻まれてしまった。
「いてっ」
しかもコタツの中から声まで聞こえてくる。怪訝に思ってコタツ布団をめくってみれば、そこに横になった赤くて長い髪から覗く赤い耳がぴくぴく動いているのが見えたので、アッシュは呆れてしまった。
「おいこら、出ろ」
「いだだだだ!こらどこ引っ張ってやがる!」
アッシュが目の前でくたりと落ちていた尻尾を掴んで引っ張り出すと、しぶしぶと上半身がコタツの外に出てきた。もちろん家で大人しく留守番していたらしい猫ルークだった。それ以上は出てこようとしない猫ルークを、アッシュは半眼で見下ろす。
「何で全身潜ってるんだ。これじゃ他に誰も入れんだろうが」
「んだよ何か文句あんのかよ。猫はコタツで丸くなるもんなんだろー」
1人ぬくぬくしている猫ルークに少し殺意を覚えながら、アッシュは一体誰がそれを教えやがったんだと考えた。確かに猫がコタツで丸くなる事を歌った有名なものがあるが、今まで野生で生きてた猫ルークが最初から知っていたとは思えない。と、そこに答えが自ら近づいてきた。
「犬は喜び庭駆け回りー猫はコタツで丸くなるーっと」
「お前か……」
何やらご機嫌に歌いながら顔を出したルークにアッシュは脱力した。ルークは力の抜けたアッシュに首をかしげながらも猫ルークを見てぱっと笑顔になった。
「おお、ルーク潜ってるな!やっぱり猫はこうじゃなくっちゃ」
「こうじゃなくっちゃ、じゃねえ!これじゃあ俺たちが入れねえだろうが!」
呑気に感心するルークにアッシュはつっこんでやった。するとようやくルークもその事実に気付いたようで、ぽんと手を打ってみせる。
「ああ、本当だ。普通の猫より大きいもんなー」
「えー俺ここから出るのやだ。あたたけえ」
コタツの魅力にすっかりとりつかれた様子の猫ルークはまたごそごそと潜っていってしまった。のぼせないのだろうかとアッシュは別な事を心配してしまう。どうするんだ、とじろりと睨みつければ、一応責任を感じたらしいルークが屈んでコタツを覗き込む。
「なールーク。丸くなっていいから俺たちの分のスペースも空けてくれよ」
「ああ?んな隙間ねーよ」
「お前がせめて顔出せばいいことだろうがっ!」
「ぎゃーっ引っ張るなっつーのー!」
再び乱暴にアッシュに引っ張られて猫ルークは仕方なく肩まで外に出てきた。すかさず反対側からルークが足を入れてスペースを確保する。ルークが勝ち取った隙間を半分貰って、やっとアッシュもコタツに入ることが出来た。
「あーあったかー。やっぱ冬はこれだよなー」
「……狭いな。もう少しそっちに寄れ」
「蹴るなっての!」
3人(2人と1匹)はしばらく足元の縄張り争いを繰り返して、ようやく落ち着いた。ほう、と自然と満足げなため息がこぼれてくる。外はすぐに暗くなって、相変わらず寒そうだったが、部屋の中はコタツ1個しかないのにそんなに寒く感じることはなかった。それを不思議に思ったルークは、やがて答えにたどり着く。
「そうか、多いからだ」
「は?」
「何が?」
「人数が多いとそれだけあったかいだろ?だから今もあったかいんだ」
にこにこと笑いながらルークが言う。一瞬面食らったアッシュを尻目に、猫ルークもぽかぽかした表情でなるほどと頷く。
「俺、こんなにあったけーの、はじめて」
コタツってすごいのな、と猫ルークが本気で感心したような声を出すので、一見なんでもない普通のコタツでもすごいものに見えてしまうのだから、人間というものは現金だなとアッシュは思った。外で冷えた体は、とっくの昔にあたたまっていた。
猫も双子も丸くなる
06/11/18
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