今日はとてもいい天気だった。ぽかぽかとしたお日様の光はとても暖かく、窓から吹いてくる風は優しく包んでくれる。つまり、絶好のお昼寝日和だ。窓を開け放った部屋の中で、猫ルークは惰眠を貪っていた。元来猫というものは昼寝が大好きなのだから仕方ない。猫ルークだって例外ではなかった。幸せそうな寝顔の後ろでは、朱色の尻尾がご機嫌そうにぱたりぱたりと動いている。いつもなら、通りかかったルークが頭を撫でてくれたり一緒にいつの間にかお昼寝したり、通りかかったアッシュが悪態をつきながらも近くに座ってやっぱり撫でてくれたりする。その時間が猫ルークはとても大好きだった。
しかし、今日はいつもと違った。小さな気配が背後に現れたかと思うと、駆け足で一気に近づいてきた足跡は猫ルークへと思いっきりダイブしてきたのだ。
「にゃんにゃんー!」
「ぐえっ!」
勢いよく押しつぶされた猫ルークは思わず息を吐いた後、がばりと身を起こして涙目で背後を振り返った。かなり痛かったのだ。
「なっにしやがんだてめーっ!……あ?」
そこで猫ルークは目を瞬かせた。そこにいたのは双子であるアッシュとルークの家であるのにアッシュでもルークでもない初めて見る人物であった。しかしとてもよく見慣れたような姿だった。見事な赤毛だったのもあるが、その顔がどこか双子と似ていたのだ。ただし、若干小さい体で。
「……お前誰だよ」
猫ルークが尋ねると、子どもはにこりと笑った。そしてすぐに猫ルークへとしがみついてくる。
「にゃんにゃんーっ!」
「ぎゃーっ引っ付くのはやめろてめえっ!」
「何だもう仲良くなったのかー」
子どもを引き剥がそうと奮闘する猫ルークに今度こそ聞き覚えのある声が届く。ばっと振り返れば、こちらを微笑ましそうに見守るルークの姿があった。何となくムカつく。
「おいっ何なんだよこいつ!」
「その子俺のいとこなんだ。猫が大好きで、ルークの話したらどうしても見たいって言うもんだから」
「誰でも彼でも連れてくるんじゃぬぇー!俺は見せ物じゃねえぞ!」
ルークは同級生の女子約3名を連れてきて猫ルークを瀕死に追いやった前科がある。こいつ懲りてないのかと猫ルークが精一杯睨みつけてもルークはさっと顔を逸らすだけだった。その間にもそのいとことやらは猫ルークから離れようとしない。
「にゃんにゃん、よしよしー」
「頭を撫でんな!」
「ルウっていうんだ。仲良くしてくれよルーク」
「絶対嫌だーっ!」
小さな手を伸ばしてくる子どもルウから一生懸命に逃れながら猫ルークは叫んだ。猫にとって子どもは天敵なのだ。無邪気だからこそいつまでも追い掛け回すし、捕まったら最後どんないたずらをされるか分からない。野生の世界で暮らしていた猫ルークももちろん小さな子どもが苦手なので、必死にルークへ助けを求めるのだが、ルークはにこにこ笑うだけでちっとも助けてくれない。猫ルークは必死に逃げに走っていると、纏わりついてきていたルウがふと瞳を潤ませた。
「……にゃんにゃん、るうきらい?」
「う……」
さっき笑ってたのに何で泣きそうなんだ!猫ルークは心の中で叫んだ。子どもの喜怒哀楽の激しすぎるこんなところも苦手の1つなのに。しばらく唸っていた猫ルークは、やがて観念したようにがっくりとうなだれた。
「あー嫌いじゃねえ嫌いじゃねえよ!ちくしょう好きにしやがれ!」
「!にゃんにゃんーっすきーっ!」
とたんに全力でぶつかってくる小さな体に、猫ルークは遠くを見るような目になった。まあ、その体は子ども体温でぽかぽか温かいし、子ども特有の高い声はそれでも別に癇に障るものでもないし、べたべたひっつかれるのはうっとおしいけど嫌ではないし……。そう思うと荒んでいた心も落ち着いてくる。温かな空間に、猫ルークはあくびを止められなかった。
数時間後。
「ただい……」
「アッシュアッシュー!」
「まっ?!」
帰って来た早々腹に突撃を食らったアッシュは後ろに倒れこみそうになったのを腹筋の力でどうにか持ちこたえてみせた。元の姿勢に戻ったついでに、そこにある頭に拳を振り下ろしてやる。
「いきなり飛びつくな、危ねえだろうが!」
「あだっ!」
拳骨を食らったルークは頭を押さえてしばらく震えていたが、すぐに復活して立ち上がった。
「そうだアッシュ大変なんだ、今ルウが来てるんだけどさ!」
「ああ、そういえば今日来る日だったな……。で、ルウがどうした」
「カメラどこだっけ!」
「……はあ?」
カメラカメラとうるさいルークに連れられて部屋の中に入ったアッシュは、それをみた。少々日が翳って昼間ほど快適ではないが、それでも気持ちのいい風に吹かれて窓の下で眠る2つの塊。ぱたりぱたりとご機嫌に動く尻尾、を握り締めて眠る子ども。猫ルークとルウはぴったり引っ付きながら、2人(1人と1匹?)で気持ち良さそうに昼寝をしていたのだ。
「……っ!!」
「な?可愛いだろ?是非これは撮っとかなくちゃって思ったんだけどカメラが無いんだよー」
一体どこにやっちゃったんだーとルークが部屋中を探し回っている間に、アッシュは自分の携帯を取り出してこっそり写メっていたとかいなかったとか。
「アッシュ?」
「ばっちがっこれはメールをしていただけだ別にベストショットを収めていたわけじゃぬぇーっ!」
猫と双子といとこの子
06/10/25
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