見慣れないご飯に、朱色の耳がぴくぴくと動いた。
「な、何だこれ」
「それうなぎだよ」
「う、うなぎ?」
猫ルークはそっと目の前のご飯を突いてみた。もちろん動かない。香ばしい匂いは大変美味しそうなのだが、何しろ見たことも無い食べ物なのだ、野良で生きてきた分警戒心が強い。恐々とうなぎを見つめるその姿をアッシュは頬杖をつきながら面白そうに見ていたのだが、すぐにはっとなって視線を外した。別に見とれてた訳じゃねえ!
「今日は土用の丑の日っていってな、うなぎを食べる日なんだって、な!アッシュ!」
「そうだな」
2人分のうな重を持ってきたルークにアッシュが頷く。朝、今日が土用の丑の日だと教えたのはアッシュだった。年中行事を何でもやりたがるルークはもちろんうなぎを買ってきたわけだ。ふーんと生返事をした猫ルークは、とりあえず目の前にあるものが食べ物であることは認めたようだった。
「それじゃ、いただきます」
「いただきまーす」
ルークが手を合わせてそう言えば、猫ルークも手を合わせて復唱する。アッシュは無言で手を合わせて箸に手をつけた。
箸を上手く使えない猫ルークはフォークでうなぎを刺して、しばらく見つめた後思い切って口の中に放り込んだ。もぐもぐと口を動かしてから、ぱっと瞳を輝かせる。
「美味い!」
「そうか、よかったなー」
ぱたぱたと嬉しそうに動く長い尻尾を見つめながらルークが嬉しそうに笑った。双子なのにずっと弟扱いされてきたので、兄性に目覚めたのかもしれない。その微笑ましい光景に目を奪われていたアッシュはすぐにはっとなって慌ててご飯をかき込んだ。俺は断じて見とれていた訳じゃねえ!
機嫌が良さそうに食べていた猫ルークは、ふとルークの方を見て目を丸くした。
「お前、うなぎ入ってねえじゃん」
「あー……俺は、な」
気まずそうに目を逸らしたルークのご飯には、うな重のたれだけがかかっている。うなぎの姿はどこにも無かった。
「苦手なんだよ、うなぎ……」
「何でだよ、こんなに美味いじゃねえか」
「駄目なんだよ何かこの、感触がなー」
でもたれご飯は好きだぞ、とご飯を口に含むルーク。釈然としないまま、猫ルークはアッシュを見た。ルークは好き嫌いが多い。それをいつもアッシュが怒っているのだが、今日は何も言わなかった。はて、と猫ルークは首をかしげる。うなぎは例外なのだろうか。しかし何故例外なのだろう。アッシュのお椀の中を見た猫ルークは目と耳と尻尾を同時にピンと吊り上げた。
「……現金なやつー」
「な、何が言いたい」
ぎくりと反応するアッシュのうなぎは、猫ルークのものより多い。つまり、ルークの分を貰っているのだ。うなぎ欲しさに怒らなかったのかと、猫ルークはアッシュを睨みつけた。
「ずりいの!いつもはガミガミうるっせえくせに!」
「くっ……だ、黙れ!」
「俺だってうなぎ欲しい!よこせよ!」
「他人の皿から飯を奪うな!行儀が悪い!」
箸とフォークを飛び交わして騒ぎ始めたアッシュと猫ルークの傍らで、ルークはどこか諦めたような幸せそうな笑みでうな重のたれのかかったご飯を食べていた。
何だかんだいって仲がいいんだよな、この2人(1人と1匹?)。
猫と双子と土用の丑の日
06/07/23
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