一向は無事にカイツールを抜ける事ができた。
「おいおい重要な部分をはしょりすぎてないか?」
ガイのつっこみが入ったので今までの経歴を大まかに説明しよう。
いきなり旅券を渡して消えろと言われたヴァンもさすがに動揺したらしく、あっさりと人数分の旅券を渡してきた。さらにクロが「それでは先に行ってさっさと船の出港準備をしてきやがれお願いします」と言えば、戸惑いながらも先に進んでくれたのだ。神託の盾騎士団主席総長も形無しである。まあそれだけ混乱していたクロの迫力がすごかったのだが。その勢いはどういう事だと問いかけてくる仲間達もねじ伏せて、カイツールの軍港へと出発させた。
今現在その尻拭いをしているのはシロだった。
「えーっとつまり、ヴァン師匠は現在では怪しいと見せかけて無実なんだって所なんだけど実は本当に怪しかったりして、まあつまり怪しいんだけどさ」
「つまり、何だ」
「えーとえーっと……怪しいんだけど今倒してもいいものかどうか」
「はっきり言ってちょうだい、兄さんは敵なの?味方なの?」
「うーそれはそのだから……味方に見せかけた敵というか」
「じゃあ主席総長は敵ってことですかぁ?」
「あーそりゃそうって事になるんだけど……くっクロー!」
どこまで話していいのか自分で判別がつけられないシロがとうとうクロに泣きついた。1人皆から離れて自分を落ち着かせていたらしいクロはため息をつきながら言った。
「とりあえずバチカルに帰るまでは無害だから、それまで髭の事は置いておく」
納得できるような言葉ではなかったが、皆それで落ち着く事にした。ティアだけは自分の実兄を髭呼ばわりされた事に少しだけ不満そうだった。その時、ヒヤヒヤしていたシロが何かを思い出した。
「あっそうだ、コーラル城はどうしよう」
「コーラル城って、ファブレ公爵家の別荘だろう?そこがどうしたんだ?」
ガイに尋ねられてシロは言葉に詰まった。あの城の地下には不可思議な装置があって、そしてそれはレプリカを生み出す装置なのだと、言っていいものかどうか。再びクロを見ると、彼は苦い顔をしていた。コーラル城であった「前」の出来事を思い出しているのだろう。
「回線、か……。そういえば今は開いていない状態だったな」
「便利は便利だけど痛いからなあ」
シロは「前」にそこで同調フォンスロットを開かれて、クロと同位体同士を繋ぐ回線を繋げるようになったのだ。しかし今のルークとアッシュの間にはまだそれが開かれていないため、やろうと思っても回線を繋ぐ事は難しい事だろう。一方通行だし受ける側はひどい頭痛を伴うので、いくら便利でも開いてもいいものか、2人は決めかねていた。
と、その時。バサッという大きな羽音が頭上からいきなり響いてきた。
「何だ?!」
「うわあっ!」
「くそっルーク!」
アッシュが慌てて剣を振りかざすが、素早い怪鳥はすぐに大空へと飛び去った。その足にルークを引っ掛けて。いきなりの事に皆が驚いていると、ふいにもう一匹の大きな鳥が近づいてきた。その足にはさきほど別れを済ませたはずのアリエッタがぶら下がっていた。
「アリエッタ?!あんたどーしてルーク様?を連れてくのよ!」
「アリエッタは今すぐ遊んで欲しい、です。返して欲しければコーラル城に来るですアッシュとシロ!」
「うええっ?!」
それだけのために?!それだけのためにルークを?!ていうかイオンはいいの?!シロは驚いたが目の前でルークを掻っ攫われたアッシュは憤怒の形相でアリエッタを指差した。
「っ上等だあ!てめえあいつに何かしたら承知しねえからな!」
「鬼ごっこ、久しぶりです」
「こら聞けアリエッタ!待ちやがれ!」
「あ、アッシュ!とりあえず落ち着け!な?な?」
飛び去るアリエッタに今すぐ追いすがろうとするアッシュをシロが必死で止める。鳥達が見えなくなるまで見送った後、呆れたため息を吐いてクロが仲間達を振り返れば、目の合ったジェイドが眼鏡を押し上げながら言った。
「それで?関係ない私達もあなた方の遊び相手の取り合いの喧嘩につき合わされるという訳ですか」
「……すまん」
本当に特に関係ない仲間達にちょっと同情してクロも思わず謝っていた。
場所は変わって、ここはコーラル城、の地下にある不気味な巨大な装置の前。そこには仮面を被った緑色の髪の少年が仁王立ちで立っていた。目の前にはぬいぐるみを抱きしめた桃色の髪の少女、その後ろには赤い髪をした少年が所在無く立っている。
「そう、いきなりいなくなったアッシュとシロが恋しくて、どうしても遊んで欲しかった、と」
「……シンク、怒ってる?」
「怒るよ!何勝手に呼び出してるのさ!そりゃ確かに完全同位体を調べたいって駄々こねた馬鹿はディストだけどさ、本当に連れてくる馬鹿がいるか!」
ビシッと指を突きつけられてルークがびくりと反応するが、その前に立っていたアリエッタは慌てて首を横に振った。
「違う、ディストのために連れてきたんじゃない」
「は?じゃあ何でこいつ連れてきてるのさ、直接アッシュかシロを連れてくればよかったじゃんか」
シンクの背後ではどーせ私の願いなんて誰も叶えてくれないんですとか何とか豪華な椅子に座りながらブツブツ呟く寂しい背中があったが誰も気にしてはいなかった。アリエッタはちらりとルークを見て、そっとはにかむように笑った。
「三つ編み、したくなった、です」
「………」
そういえば以前アッシュの髪が散々アリエッタのおもちゃになっていた事を思い出したシンクは、何もかもどうでもよくなって思わず頭上を振り仰いでいた。三つ編みをしたいがためだけに連れてこられた事を知った可哀想なルークは、ぐったりと座り込んで呟く。
「帰りたい……」
しかし残念ながら、同情してくれる人はこの中に1人もいなかったのである。
もうひとつの結末 6
06/09/13
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