「ガイ様華麗に参上!」
そうやって叫びながら空から降ってきた人物は、何故か力の限りクロへと斬りかかっていったので、敵も味方もポカンとしてしまった。背後にイオンを立たせながら構えるリグレットの銃は僅かに下を向いてしまっているし、アリエッタの従えるライガたちもどこか呆けているように見える。お互いに絶好の機会なのだがそれに気付けない。そんな中振り下ろされた剣をとっさに真剣白刃取りしてみせたクロは蹴りを繰り出しながら怒鳴り散らした。
「てっめえどさくさに紛れて何しやがる!時と場所を考えやがれ!」
「うるさい!旦那様からルーク捜索を任される前にさっさと1人で出発しやがって……おかげで俺は出遅れたじゃないか!」
「世話係でもない使用人は大人しく留守番してればいいんだよ屑が」
「いいい言ったなああぁぁお前が奪い取ったくせにー!」
「ガイ?!」
いきなりクロと決闘を始めたのはガイだった。シロは2人が突然険悪なムードなのでおろおろし始めたが、ルークはまたかという顔で普通に立っていた。対照的な2人を見比べて、アッシュが眉を寄せる。
「おいルーク、こいつらはいつもこんな様子だったのか」
「あ?ああ……さすがに屋敷の中じゃこんなに堂々と決闘してなかったけど」
「何で?何でこいつらいつの間にこんなに仲悪いんだ?何かあったのか?」
現在進行形で斬り合ってる2人を戸惑いながら眺めたシロは、やがて納得したかのようにぽんと手を叩いて見せた。
「ああ、これが『喧嘩するほど仲がいい』ってやつか!」
「「違うっ!」」
しかしその言葉は真顔で否定されてしまった。その顔には互いに嫌悪感がありありと見えて、シロはひくりと口元を引きつらせた。本当になんでこんなに仲が悪いのだろう。自分が知らない間に何があったのか。と、ようやくこちらを見たガイがルークを見て顔を綻ばせた。
「ああっ(俺の)ルーク!無事だったか!」
「おーもちろん」
「今余計な一言が付け足されていなかったか……?」
「ん?やけに人数が多くないか……な?!ルークが2人?!」
アッシュの呟きを聞いていなかったガイは一瞬驚愕した顔でルークとシロを指差したが、すぐにはたと思い直したようだ。髪の長さが違うのですぐに分かったのかもしれない。
「いや違う……あっ、お前いつの間にか行方をくらましてたシロか!」
「よっガイ!久しぶり!」
「俺は普通にスルーか……」
片手を上げるシロの横でアッシュが遠い目をしていた。シロとクロはともかく一応昔の主人なのだから少しぐらい気付いて欲しいと思ったりもする。ガイが睨みつけるクロから逃れルークに向かって駆け出そうとして、そこでぴたりと足を止めた。向かおうとした先には、何故か軍服眼鏡が立っていて。
「はい、そこまでです」
にっこりと笑いながら槍を突きつける先には顔を真っ青にしながらガタガタ震え上がるルークがいた。あれ、人質とる相手違くね?とシロが内心つっこみを入れるが、誰も聞いているはずがない。ジェイドは笑いながら、しかし全然笑ってない目で辺りを見回して、リグレットに言った。
「さあ、武器を捨てて、タルタロスの中へ戻ってもらいましょうか」
「……くっ、仕方が無い」
リグレットは至極悔しそうにその場に銃を捨てた。神託の盾騎士団の兵士達もどこかうなだれながら武器を捨ててタルタロスへと戻っていく。最後にアリエッタがイオンに名残惜しそうな視線を投げて、お供の獣たちと階段を上っていった。いいの?人質ルークでいいの?とシロがオロオロしていれば、目の合ったクロが肩をすくめてみせた。……まあ、いいか。
「これでしばらくはすべての昇降口が開きません。逃げ切るには十分とは言えませんが、時間稼ぎにはなるでしょう」
昇降口が閉まったのを確認したジェイドがそう言った。しかしルークに突きつける槍は消えないままだ。ガタガタと怯えるルークを見かねてアッシュが一歩前に踏み出した。
「おい眼鏡、いい加減ルークを離しやがれ!」
「駄目です。離した途端にまた決闘でもされたら困りますからね」
ジェイドの眼鏡が光る。クロとガイがうっと黙り込んだ。ああ、つまりどっちかっていうとこの2人の人質だったのか、シロは納得した。納得してルークに同情した。昔の俺、頑張れ。
「それで?そちらの方はお友達か何かですか?」
「あ、ああ、ルークの家の使用人だよ。あんたは……」
「そうですか。ところでイオン様、アニスはどうしました?」
聞く耳持たずにジェイドはイオンの方へと顔を向けた。よほどイラついているのだろうなあとシロは他人事のように思う。ほとんど他人事なのだから仕方がない。イオンはアニスが親書を取り返そうとして艦内から吹っ飛ばされた事を説明した。
「ただ、遺体が見つからないと話しているのを聞いたので無事でいてくれるかと」
「それならセントビナーへ向かいましょう。アニスとの合流が先です。いいですねそこの使用人方」
「「はい……」」
ジェイドの迫力に圧されて2人とも神妙に返事をする。そこでようやくルークは解放された。槍が引っ込められて、ルークは思わずぜーはーと深呼吸をする。間近でジェイドの怒気を受けたのだから相当のプレッシャーとなっただろう。傍にアッシュが駆け寄る……前に、ティアとイオンがルークの元へ向かった。
「ルーク、大丈夫?……変な大人に囲まれてあなたも大変ね」
「え?あ、まあ昔からあんなんだし」
「それにしてもルーク、すごいですね」
「?何が?」
「分身できるだけじゃなく大きくもなれるなんて、すごいです。あの方々は何という譜術なんですか?」
「いやあれはその……お前も天然だよな……」
3人でほのぼのやっているのを遠くから見て、アッシュは踏み出しかけた足を舌打ちと共にこっそり元の位置に戻した。その肩を背後から叩かれて怪訝に振り向けば、そこにはいい笑顔のシロがいた。
「…………何だ」
「アッシュ、ファイト☆」
「ええい無駄に可愛らしく言うなっ!俺は別に駆け寄りそうになったとかそんなんじゃぬぇー!」
どかんと顔を真っ赤にしながら癇癪を起こすアッシュをシロが照れるなよーと笑顔で宥める。そんな2人とほのぼの会話をしている3人の様子を、大人しくなったクロとガイは黙ったまま眺めていた。ルークとシロを見比べながら、ガイが少し躊躇いがちに言う。
「おかしいな……こうやって並べて見てみると、ルークとシロがどこか似ているように思うんだ。何というかこう、根本的な所が」
「まあ、な。だがお前に忠告しておく事がある」
「何……?」
ガイがクロを見ると、ほとんど同じ目線上にある顔がにやりと得意げに笑った。
「どっちも、俺のだ」
(シロは当たり前に、ルークの方もまあ間違ってはいるまい、と思いながらの発言だった)
その後一瞬絶句したガイが再び斬りかかり大乱闘に発展し、それを笑顔で眺めていたジェイドが再び可哀想なルークを人質にとるのも、時間の問題だった。
もうひとつの結末 3
06/09/03
→
←
□