ルークは頭が混乱していた。タルタロス艦内で告げられた真実は簡単に信じられるものではなかった。しかしルークはまだマシな方だ。状況がまったく理解出来ないであろうティアは口元に手を当てて何も言えないままだし、ジェイドはお得意の微笑みを浮かべるのも忘れて考え込んでいる。特にひどいのは、ルークの隣で膝を突いて床をダンダン叩いてるアッシュだった。
「認めねえ!俺は認めねえぞ!こんなでくのぼうが俺の未来だなんて!」
「誰がでくのぼうだ」
必死に叫んでいるアッシュにクロが眉を寄せる。そう、ルークを育ててくれたクロは別の世界?のアッシュの未来の姿で、アッシュにくっついてたシロはルークの未来の姿だというのだ。ルークがぽかんとシロを見ると、にへらと笑い返された。
「黙っててごめんな、話しても信じてもらえる話じゃないしさー」
「それでも言え!一言ぐらい!言っておけ!」
「まーまーとりあえず落ち着けアッシュ」
「大体この姿を見て感づけ」
シロに宥められてアッシュがようやく落ち着きを取り戻すのを見ながらクロが呆れた顔で腕を組んだ。シロもクロも色は若干違えど見事な赤髪だ。そんな綺麗な赤髪といえばキムラスカ王家なのだから、少しぐらい疑ってくれてもバチは当たるまい。するとシロがはっとした顔で振り返ってきた。
「そういえば誰も怪しんでなかったな、これちょっとおかしくないか?!」
「今更気付きやがったのか屑がっ!」
「ぎゃーっお前すぐに叩く癖やめろよ!」
大人が大人気なくどたばたじゃれ合っていると、脇に立っていたジェイドが眼鏡を押し上げながら話しかけてきた。その顔にはもういつもの嘘臭い笑顔が戻っている。
「百歩譲って、あなた方が未来からやって来た、という事にしましょう」
「素直に信じないところがジェイドだよな……」
「ありがとうございます。という事は、あなた方はこれからこの世界に起こる出来事を知っているわけですね」
ジェイドの言葉に、シロとクロが顔を見合わせる。ルークは固唾を呑んで2人を見守った。相変わらずさっぱり話は分からないままだが、2人が未来のルークとアッシュだったとしたら、これから起こる、つまり未来の事を知っているはずなのだ。期待と不安にドキドキしながら待っていると、言葉を交わす事無く目で語り合った2人は、神妙な面持ちで向き直ってきた。代表としてシロがジェイドの目をひたりと見据えて口を開いた。
「確かに知ってる、けど、俺達は俺達の知っている未来を話すことは出来ない」
「それは……何故なの?」
慎重にティアが言葉を紡いだ。それは責めるような言葉ではなく、純粋に疑問に思ったから尋ねた、という様子だった。ルークもとっさに文句が出てこない。正面に立つ2人の顔は、それほどまでに真剣なものだったのだ。
「何故なら、これから俺達がやろうとしている事は、その未来からこの世界を遠ざける事だからだ」
クロがはっきりとそう言った。ルークはどきりとした。その未来がどんなものかは分からない。しかしそこからきた2人が自分達の未来を変えようとしている。変えようと思う未来とは、一体どんなものだったのだろうか。隣に並ぶアッシュもどこか緊張した面持ちだった。その顔がよほど不安そうだったのだろうか、こちらに顔を向けたシロがにっこりと笑いかけてきた。
「大丈夫!お前らの事は絶対に守ってやるから、約束だ」
その言葉は軽い調子で言われたものなのにひどく重く感じた。きっとそれは、シロが本当に心から約束してくれたからなのだとルークは気付いた。そっと顔を伏せる。これ以上あの顔を見ていられない。自分にはあんな人を安心させるような笑顔ができるとは思えなかったのだ。あの人は本当にルークの未来の姿なのだろうか。ルークが考え込んでいる間に、相変わらず飄々とした態度のジェイドにクロが牽制するような視線を向けていた。
「だから俺達の邪魔はするんじゃねえぞ。いくらお前らでも容赦はしねえからな」
「どうぞご自由に。私はあなた方の話をまだ信じたわけではありませんから」
ジェイドは肩をすくめてみせた。今優先すべき事は他にあるということだ。ルークは今いる場所がタルタロスの中だった事を思い出した。そうだ、六神将に襲われて、タルタロスを奪い返そうとしていて……そういえば六神将であるアッシュはここにいていいのだろうか。ルークがアッシュを見ると、お前の考えている事はお見通しだというようにアッシュはふんと鼻を鳴らしてみせただけだった。とりあえずいいらしい。
「あっそうだ、もうすぐ連れてかれたイオンが帰ってくる頃じゃないか?」
「そうか……待ち伏せして取り返さねえとな」
「!そうだったわ、イオン様と、アニスも大丈夫かしら」
途中で別れたイオンとアニス。シロとクロの話によれば、イオンは今ある事をさせられるためにどこかに連れて行かれているらしい。ジェイドが近くにあった機械に何かを呟いてタルタロスの機能を停止させると、全員で移動を始めた。目指すは唯一出入口が開くはずの、左舷出口だ。
「ところでミュウはどこいったんだ?」
「誰もつっこまなかった部分にあえてつっこむな屑がっ!」
もうひとつの結末 2
06/09/03
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