最初はこういうギャグテイストな話を書く予定だったんだよ的なおまけ
※超ギャグキャラ崩壊注意




突然ですがリィンが手の平サイズにまで縮んでしまいました。

「うっううっ一体どうしてこんないきなり変な事にっ……!」

さめざめとリィンがふさぎ込んでいるのは、クロウが広げた手の平の上だった。ここまで体が縮んでしまった時、一番傍にいたのが彼なのだから当然だ。クロウは自分の手の平にチョンと収まってしまうほどの小さなリィンを見つめて、難しい顔で考え込んでいた。

「……クロウ、どうしたんだ?何か原因でも分かったのか?」

その視線があまりにも熱心だったもので、リィンも悲しみに暮れる前にどうしても気になって尋ねていた。ああ、と声を上げたクロウは、至極残念そうに何も握っていない方の拳を振り上げる。

「何でよりによって服まで一緒に縮んじまったのかと思ってよ!普通こういう場合服はそのまま体だけが縮んで素っ裸になるのがお約束じゃねえの!?」
「なっなっ何をくだらない事を考えてるんだー!」

あんまりな言い草にリィンは渾身の力でバシバシと傍にあった親指を叩いた。しかしいくら叩かれてもまったく痛みなど感じない。いじらしいその感触に、思わずクロウの頬の筋肉も緩む。

「いやー、さすがにこのサイズじゃ不便すぎるだろ。元の大きさに戻るまでお兄さんがちゃーんと守ってやるからありがたく思えよ、ミニリィン後輩」
「変な事ばっかり考えてるクロウに守られなくたっていい!降ろしてくれ!」
「ふーん?オレ様が普通にこうやって立っているだけの高さからもろくに降りられないくせにか?」
「う、ううううーっ」

何も言い返せず、この高さから飛び降りることも出来ないリィンはクロウの手の平の上でガクリと肩を落とす事しか出来ない。そんなしょげる頬を、つんつんと突いてくる大きな指。ぺしっと払いのけても、すぐにまたつんつんと突いてくる。今度は勢いよく投げ飛ばせば、指は頭をうりうりと押してきた。どうしてもちょっかいを掛けたいらしい。落ち込むのは置いといて、リィンはキッと頭上の顔を睨み付けていた。そこには心から楽しんでいる、緩み切った紅色の瞳があった。

「おお怒ってる怒ってる。普段から別に睨まれても怖くなかったけどよ、このサイズになったらまた一段と可愛いだけだなー」
「かわっ?!い、いい加減にしろよクロウ!俺は真剣に怒っているし、落ち込んでいるんだからな!」
「うんうん。そうだなーそうだよなー可哀想に。仕方ねえ、慰めてやろう」

へにゃりと微笑ましそうに笑ったクロウがリィンを乗せた手を動かした。ぐらついて倒れそうになった小さな体を長い指が支える。急激に景色が変わってリィンが目を白黒させている間に、その体は何だか柔らかい壁にふにっと押し付けられていた。何だこれ。両手を押し当て目で見て確認してようやくそれが、クロウの頬だと分かった。

「ふぁっ?!」
「よーしよしよしよし、チビ助リィン君元気になれーっと」
「やややや、やめろー!」

すりすりと頬ずりされて、顔どころか全身まで赤く染まってしまったかのように熱くなる。元の大きさでこんな事をされた経験はないうえに、クロウの大きな顔が視界に入りきらないほど目の前にある。お人形のようにかっちこちに固まってしまった赤面リィンに、クロウは笑いを堪えきれずに肩を震わせた。

「ックク、さーて、いい加減お前を元に戻す方法を探すとするかね。俺としてはしばらくこのままでも構わねえんだが」
「そんな、冗談じゃない……!早く元の大きさに戻らないと、これじゃ何もできないだろ!」
「その分俺が何でもやってやるって。大事な大事な俺の親指姫のためには一肌も二肌も脱げるってもんよ」
「ま、またそういう気障ったらしいことを……!少なくとも俺は、親指より大きいから!」
「つっこむ所はそこか?」

気が済んだのかようやく顔からリィンを離し、元のように慎重に手の平に乗せた後。さて移動しようとしたクロウの目の前に突然、何者かが飛び込んでくる。

「お話は聞かせて頂きました!」
「うおっ?!」
「そ、その声は?!」

思わず飛び上がり、その拍子に落としてしまわないように慌てて両手で小さくも温かい温度を包むクロウ。その指にしがみつきながらも聞き覚えのある声に反応し、隙間から顔をのぞかせるリィン。二人の前に立ち、不敵に眼鏡を光らせ、意志の強い瞳でこちらを見つめるその三つ編みの少女は、彼らの所属する一年Z組の委員長、エマ・ミルスティンであった。

「委員長!」
「い、いったいどこから現れたんだ?委員長ちゃん」
「私の事はどうでもいいんです。それよりリィンさんの事の方が何億倍も大事です」

キリッと言い切ったエマ。その両手にはアタッシュケースが握られている。アタッシュケースとエマというなかなか珍しい光景に二の句が継げられずにいると、視線に気付いたエマがよくぞ気付いたとばかりにそれを差し出してきた。

「これ、リィンさんが縮んでしまわれたと聞いて急いで準備してきたものです。どうか使って下さい!」
「いや、こいつが縮んだのは今さっきのはずなんだけどな?」
「俺が縮んだから、って事は、その中にもしかして、元の姿に戻れる何かが入っているのか?!」

些細な疑問は、確かな希望を前にすれば簡単に吹っ飛ばされる。瞳を輝かせるリィンに、エマは慈母のような微笑を浮かべて、厳かにケースの蓋を開けた。歩み寄ったクロウが、その手の平の上からリィンが、それぞれ覗き込む。そこに燦然と並べられたもの、とは……!

「………、服?」
「しかも人形の、服?」
「はいそうです!元々はお人形の服なのですが、見て下さい、たまたまなんですが今のリィンさんのサイズにぴったり!そう、本当にたまたまで!私、人形の服を作るのが趣味で!たまたまなんですけど!こういう事もあろうかと、と別に事前に用意していた訳ではないんですけど!たまたま!ここにより取り見取り、たまたま揃っているので、リィンさんに差し上げます!その体じゃ替えの服にお困りでしょうし!どれでも、お好きに着てみて下さい!何なら今すぐにでも!さあ!」

信じられないほどの勢いで迫りくるエマ。ひえっと狭い手の平の上で後ずさりながらもリィンの視界には、きれいに並べられた無数の服が輝いている。あの、これ気のせいでなければ、女の子用の衣装も並んでいるような気がするのですが。そういう内心の声さえ言葉に出せずに呆然とするリィンの背後では、クロウが大きな大きな溜息をついていた。

「あのなあ、委員長ちゃん……」

ああさすがクロウ、いつもはおちゃらけているのにこういう緊急事態にはきちんと真面目に取り組んでくれる。エマに注意してくれる。そんな期待を込めた瞳で、頼りがいのある顔を見上げるリィン。任せておけと片目を閉じてみせたクロウは、エマへと一歩踏み出し。

「ちゃーんと、導力カメラの準備は出来てんだろうな!」
「もっちろんです!」

すぐさまカメラを取り出したエマと、がっちり握手を交わした。リィンはそれを、ぽかんと口を開けて見つめるしかなかった。
麻痺する頭が理解出来る事実はただ一つだけ。どうやらこれからしばらく自分は、怪しい笑みを浮かべるこの巨人たちの着せ替え人形にされてしまうらしいという、確かな未来の光景だけであった。




ごめんなさい。




15/05/13


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