2、自分を信じて、ナタリアと戦う。
「男に二言はねえ……さっきそう言ったはずだ、ナタリア!」
アッシュは箒に跨りながらもナタリアを迎え撃つべく身構えた。弓矢で射られれば一発でやられてしまうのは百も承知だ。しかし例え相手が黒獅子と呼ばれた巨体の男の遺伝子を受け継ぐ幼馴染だとしても、アッシュにも譲れぬものがあるのだ。肩の上では「くだらないなあ」といった呆れた顔でルークが様子を見ているが余計なお世話だと怒鳴っている場合ではない。
一瞬、ナタリアとアッシュの視線が交差する。ナタリアはその手に弓を持ったまま、ゆっくりと口を開き、そして
「……素晴らしいですわ、アッシュ!」
感激に弓も矢もぽいと空中に放り投げた。
「……は?」
「それでこそ男の中の男!わたくし、見直しましたわ!」
「そ、そうか……」
「ええっ!この男の決意にわたくしが口を挟むものではありませんわね……!どうぞ先へとお進み下さいませ!」
ナタリアはアッシュの両手を掴んでブンブン振り回しひとしきり感動した後、すぐにどこかへと飛んでいってしまった。一体なんだったんだ。
「……確かナタリアも正義の魔法使いを名乗っていたな。なのにどうして一緒に」
「さあっアッシュ!ナタリアも納得してくれたことだし先に行こうぜ!」
アッシュの呟きを無理矢理打ち消すように元気よくルークが声を上げた。何か突っ込んではいけない部分に突っ込みそうになったらしい。仕方なくアッシュはさっきまで進んでいた方向へと再び箒を走らせた。
しかしその飛行も長くは続かなかった。突然箒アルビオール号がガッタガッタと揺れ始めたのだ。
「な、何だ?!」
「大変だ、アルビオール号が故障しちゃったみたいだ!」
不安定にふらふらと宙を浮かぶ箒を見て、アッシュもルークも慌てた。こんな空中から落ちてしまえばアッシュはひとたまりも無いだろう。ルークは何も無くとも宙に浮かべるがアッシュを支えられるほど力も強くないし体の大きさが足りない。何故突然故障というか壊れるんだこの箒はっと心の中で毒づいていると、オロオロしていたルークが何かを見つけたようだった。
「あ!アッシュ見ろよ、あそこにちょうど箒職人の家があるぞ!」
「箒職人だと?」
「アルビオール号を直してくれるかもしれない!」
不自然なぐらい都合の良い展開だが、この緊急事態だ、仕方が無い。アッシュは何とかフラフラな箒を駆使し箒職人とやらの家の前まで辿り着いた。なるほど、家の上にデカデカと「箒職人の家」と書かれた看板が刺さっている。これは分かりやすい。
「……いや、怪しすぎるだろ」
「すいませーん!誰かいませんかー?」
あまりの怪しさにアッシュが呆れている間にルークが勝手にドアをドンドン叩き出してしまった。まあここまで来てしまえばこの箒職人に頼るしかない。地面に足をつけたと同時に、アルビオール号も力尽きたようにパタリと倒れてしまったのだから。
ルークの呼びかけから数秒後、家の中からこちらへと近づいてくる足音が聞こえた。箒職人が留守ではなかったことにひとまず安心して、誰が出てくるのか内心で身構える。
かくして、ドアを開けて出てきた箒職人の正体とは。
1、ギンジだった。
2、ノエルだった。