2、ひとまず足を絶つ。トクナガを狙う。



目標はカメラだが、その前に逃走する足を絶つ方が良いとアッシュは判断した。ドスドスと雪の上に足跡をつけながら背を向けて走るトクナガに肉薄する。その足元に、アッシュは躊躇う事無く杖を放り込んだ。


「きゃあっ!ちょっと何すんのよ私のトクナガに!」
「これでこの人形は走れまい!てめえの負け……って何?!」
「でもまあトクナガ無くったって自分の足があるんだもんねー」


アニスはあっさりとトクナガを乗り捨ててサッサと逃走を開始した。何だかいつもトクナガに乗っているから盲点を突かれた感じだ。思わず立ち尽くしてしまったアッシュはそのせいで出遅れてしまった。アニスは意外にも逃げ足が早い。このままでは、逃げられてしまう。


「っへへ、これでアニスちゃんの勝ちー!」
「そうはさせるかー!」
「あだっ!」


突然横から飛び出してきた塊にカメラを奪われてアニスはずっこけてしまう。怒り顔で奪い取ったカメラを抱えているのは、何とルークだった。いつの間にあんな所に行っていたのだろう。


「アッシュの丸秘写真だなんて、絶っ対に見せないんだからな!見ていいのは俺だけ……って俺何言ってんだ……そうじゃなくてえっと、その……」


何やらとんでもない事を言いかけて一人赤面したり汗をかいたりし始めたが、とりあえずルークのおかげで最大の脅威は去った。アッシュは持ち主から離れたせいで小さくなったトクナガをぶら下げながら、起き上がったアニスへと不敵に笑いかける。


「さあ、どうするガキ」
「ううーっ、分かった分かったわよ!アニスちゃんの負けー!せっかくの金儲けのチャンスだったのにーっ」


アニスは悔しそうに地団太を踏んでからアッシュの手にあったトクナガを奪い取って、ちくしょーっとか何やら叫びながら去っていった。他愛も無い。
さて、これで手下は一掃できた。後はラスボスのみ。そのラスボスこそが裏技でも使わない限り勝てなさそうな反則級のボスなのだが、サンタを助け出すためには戦わなければならない。カメラを叩き壊してアッシュの元へと帰って来たルークの頭を軽く撫でて労ってやってから、覚悟を決めて振り返る。


「次は貴様の番だ、覚悟しやがれユキダルマン!」


しかしそこにユキダルマンはいなかった。


「……何?」
「アッシュ、あそこに紙切れが落ちてるぞ」


ルークが指を差した雪の上には確かに一枚の紙が落ちていた。慎重に近づいて、すっかり冷えてパリパリの紙を拾い上げ、読んでみる。


『年寄りにこの寒さは辛いので帰ります。サンタクロースは近くの洞穴に置いておきましたのでご自由に。また暇つぶしに遊んでくださいね。メリークリスマス☆ ジェントルマンなユキダルマンより』

「あんの眼鏡がああああ!」
「ああアッシュ落ち着けって!戦わなくてすんだから良かったじゃんか!」


こみ上げてきた衝動にユキダルマンの書置きを粉々に破くアッシュを慌ててルークが抑える。冷静に考えてみれば確かに、あのでかさのユキダルマンと戦わずしてサンタクロースを助け出すことが出来るのだから幸運にも程があるぐらいだ。ムカつくのは仕方が無いが。

とにかくサンタクロースは近くの洞穴の中にいるらしい。それらしいものを探せば、すぐに見つかった。誰が見ても疑わないぐらいまごう事なき洞穴だった。そっと中を覗き込めば、鮮やかな赤色が見える。サンタの服の色だ。


「……あら、遅かったのね。クリスマスが終わってしまうかと思ったわ」


こちらに気付いたらしいサンタが歩み寄ってくる。その姿を見たアッシュはさっと隣にいたルークを引っつかんで自分の後ろに隠していた。赤い帽子を被り赤い服を着て白い袋を抱える間違いなくサンタの目の前の人間が、可愛いからとルークを付け狙う天敵ティアだったからだ。


「ちょっと、今日の私はティアサンタよ。残念だけど可愛いルークを攫ったりはしないわ。だからちゃんと見せなさい」
「信用できないんだよ女。いいからさっさとプレゼントを配りにいってきやがれ」


これで目標達成だ。そう安堵の息をつくアッシュの目の前に、すっと白い袋が突きつけられた。サンタには定番の白い袋で、その中には世界中の子ども達に配るべくプレゼントがたくさん詰まっているはずである。アッシュは怪訝な視線をティアへと向けた。


「お礼よ。助けて貰ったお礼。この中から一つだけプレゼントを選んでちょうだい」
「え!貰っていいのか?」
「もちろん。ルークには全部あげたいぐらいだけど、仕事があるから出来ないの。ごめんなさい」


アッシュの肩の向こうからひょっこりとルークが顔を出せば途端にティアは笑顔になった。現金なサンタだ。ティアがルークに見惚れている隙に、アッシュは袋の中を覗き込んでみる。さて、どれを選ぼう。



1、大きな箱を選ぶ。

2、小さな箱を選ぶ。