2、小さな箱を選ぶ。
アッシュは何となく、袋の中から小さな箱を選んだ。大きな箱と見比べている途中、ふと小さなルークの姿が思い浮かんだのだ。小さな箱に入っているものといえば、小さなものしかない。それが一体何であるかまだ分からないが、アッシュの手は自然と小さな箱を掴んでいたのだった。
「そう、それでいいのね」
「ああ」
「それじゃ、私はこれで。今日は本当にありがとう。メリークリスマス」
白い袋を背負いなおして、ティアはスタスタと去っていった。去り際に「チッ」という舌打ちが聞こえたような気がしたがきっと何か聞き間違えたのだろう。そうに違いない、とアッシュは思うことにした。
「なあ、開けてみてくれよ!」
「そうだな」
ワクワクしながらその辺を飛びまわるルークの言葉を受けて、アッシュは箱に掛かっていたリボンを解いた。内心密かに胸を躍らせながら、ゆっくりと箱の蓋を開ける。すると……目の前に真っ白な煙が吹き出した。
「なっ何だ?!」
「うわっゲホッゴホゴホッ!」
ちょうど煙が直撃してしまったらしい、激しく咳き込むルークの姿が煙の向こうに消えてしまったのだ。アッシュは慌ててルークが浮かんでいたあたりに手を伸ばす。不意打ちに気が緩んで落ちてしまったら大変だからだ。
しかしアッシュの手が掴んだものはルークの小さな体ではなかった。鷲づかみにできるほど大きくてふわふわしていて触り心地の良い何かだった。はて、とそのまま固まって煙を凝視するアッシュの目の前に、うっすらと明るい赤色が見えてきた。クリスマスカラーという事で今まで散々赤色を見てきたが、今日見た中で一番綺麗な赤い色だと思った。
「うーっ何なんだよいきなりー……。……お?」
煙が綺麗に晴れた向こうには、咽たショックで少しだけ涙目になった翡翠の瞳、サンタの赤い服も色褪せて見えるぐらい綺麗な明るい赤色の髪、アッシュと同じようで、浮かべる表情は全然違う整った顔、そしてもこもこのトナカイ衣装。さっきまでアッシュの周りを楽しげに飛び回っていたルーク以外の何者でもなかった。ただし、その大きさ以外は。
「あっあれ?俺、大きくなってる!やったー!アッシュと同じぐらいー!」
アッシュが鷲づかんでいたのはルークの頭だったようだ。嬉しさのあまりぽんぽん飛び跳ねるルークの勢いでその手も離れてしまう。ひとしきり体全体で喜びを表現した後、ルークは改めてアッシュの目の前へと戻ってきた。これが当たり前なのに、何故だかルークとこうして普通に立って目が合うという今の状況が不思議なものだと感じてしまう。
「アッシュ、俺、最高のクリスマスプレゼントを貰ったよ。ありがとう!」
「いや、そいつはさっきのサンタのプレゼントだろうが」
「でもそのサンタを助けて、プレゼントを貰ったのはアッシュだろ?だから、ありがとう」
「……ふん」
ニコニコと笑うルークの感謝の言葉を、照れ隠しにそっぽを向きながら受け取る。そんなアッシュの様子にますます嬉しそうにクスクス笑いながら、ルークはアッシュの手をとった。
「さあアッシュ、帰ろうぜ。せっかくのクリスマスなんだから、2人で楽しもう!」
「……そうだな、それも悪くない」
この時ばかりは素直になって、アッシュも握り締められたルークの手にぎゅっと力を込めた。洞穴から外へと出てきてみれば、真っ白な雪がちらほらと天から降り注ぎ始めている。今日は美しいホワイトクリスマスになる事だろう。
隣のルークと顔を見合わせ、笑いあいながら、正義の魔法使い鮮血のアッシュは家路へとついた。
☆メリークリスマス☆
魔法使い鮮血のアッシュと聖夜の妖怪ユキダルマン 完