「俺は俺の食料を探してくる。お前はお前で勝手にしろ」


「あ、アッシュ……!」


ルークの戸惑った声が背後から聞こえるが、アッシュは振り返ることなく歩き出した。しばらくそのまま真っ直ぐ歩けば、背後から駆け足でこちらに近づく足音が聞こえる。気にする事無く歩みを進めれば、足音はアッシュの背後を少し間を開けてついてきた。いくら無視してもつかず離れずの距離で追ってくる気配に、溜息を零したアッシュが一瞥する。


「……お前はお前で勝手にしろ、と言ったはずだが?」


睨み付けられたルークが一瞬だけ怯むが、すぐに首を振ってアッシュを必死に見つめてきた。


「うん、言われた。だから俺が勝手にアッシュについていく事にしたんだ。バラバラに探して俺だけ見つけても、アッシュにすぐに分けてあげられないし。だから、いいだろ?邪魔はしないからさ……」


まるで縋るようなその瞳に、ふんと息を吐いたアッシュは何も言わずに前を向き直し、歩みを再開させた。……何も言わないのは、一応ついてくることを認めた証だ。それが正確にルークにも伝わったようで、ほっと息をついてすぐに後についてくる。そのまま二人の間で無言が流れるまま、食糧探しは続く。

幸いここは緑の多い渓谷の中だ。さほど時間をかける事無く赤い実をつけた一本の木を見つけることが出来た。アッシュの脳内の知識を総動員させ、この実は普通に食べられる実だろうと見当をつける。そういう思考をしないままルークは大喜びで手を伸ばし、すでにいくつか赤い実をもいでいるが。


「ほらアッシュ見ろよ、なかなか美味そうな実だな!」


そのまま食べるかと思いきや、目の前に駆けてきて両手に持った戦利品を見せてくる。その様子はさながら、狩った獲物を咥えて褒めて褒めてと飼い主に駆け寄ってくるわんこそのものである。やや小ぶりな熟れた赤い実を手に嬉しそうに笑うルークの腕の中から一つとって、目の前に掲げた。
見れば見るほど、鮮やかな赤色だ。赤、といえば自分たちのカラーでもあるが、この眩しいほどの赤に近い色を持っているのはアッシュよりも色素の薄いルークだろう。そう、自然と考えた。考えながら口に出していた。



「この色、お前に似ているな……実に美味そうだ、ふふふ」

「この色、お前に似ているな……まあそんな事はどうでもいい。全部寄越せ」

「この色、お前に似ているな……って何言わすんだ屑がっ!」