ある日のお昼時に暇を持て余していたので、唐突にガイの家に突撃してみた。
「ガイー!おっはよー!起きてるかー!」
「昨日夜中まで機械弄ってたら、まだ寝ている時間だな」
「ガーイー!」
玄関口でしばらく叫んでいれば、中からドッタンバッタン音が聞こえてきた。案の定寝ていたらしい。とりあえずガイが出てくるのを、真上から容赦なく照り付けてくる太陽から隠れるように玄関にぴったりとくっつき、小さな影に入って待つ。その間にルークは、そっとガイの家を見上げた。
親戚の、今は使っていない古い大きめな家を番という名目で一人で使っているのだと本人やアッシュに教えてもらったが、正直ルークにはよく分からなかった。とりあえずガイがこの家に一人で住んでいて、暇さえあれば趣味の機械弄りをして夜更かしをしているという事だけ知っていればいいのだ。
向かいにあるアッシュの家も結構な大きさなので、最初家に招かれた時はおっかなびっくりお邪魔させてもらったものだ。
そうしているうちに、ようやく玄関の扉が開かれた。頭に寝癖をつけたままのガイがひょっこり顔を出してくる。
「やあ、アッシュとルークか。おはようさん」
「はよー!」
「やっぱり寝てやがったか」
元気良く挨拶を返してくれたルークとは対照的にアッシュがどこか冷たい目で見つめてきた。予想大当たりといった所か。またへんてこな機械にかまけ過ぎて徹夜でもしたのだろうと視線で責めてくるアッシュに、ガイは頭を掻いてみせた。いくら小さいと言えども、この幼馴染はやっぱり鋭い。
「夢中になるとどうも時間を忘れてしまうんだよなあ。ところでお前たちは、暇つぶしか?」
「ああ!暇つぶしにガイんちに来た!」
こっくりと頷いてみせる正直なルークに苦笑した後、ガイは扉を開けて二人を招き入れてくれた。
「ちょうどいい、今から朝飯兼昼飯に何か作るから、食べていくか?」
「いいのか?!俺ちょうど腹減ってたんだ!」
「悪いな」
大はしゃぎで上がりこんでくるルークにアッシュも続く。もしかしてアッシュはこの事を見越してルークと共に家にやってきたのではないだろうかという考えが頭をよぎったりもしたが、ガイは気にしないことにした。意図的にせよ偶然にせよ、この可愛い赤毛の頭たちにご飯をご馳走するのは、悪い気分ではない。
「ほら、簡単なものだけど、たーんと食えな」
「あっソーメンだ!」
目の前に出された真っ白な麺の山を見てルークが歓声を上げた。ソーメンでこんなに喜んで貰えるとは思わなくて、ガイは内心ちょっぴり驚く。アッシュも同じような事を思ったのか、素麺の汁が入った器を受け取りながらルークへと目を向けた。
「素麺が好きなのか?」
「うん、冷たくて美味しいし、嫌いなもの入ってねーし!」
「……なるほど」
ルークは食べ物の好き嫌いが多いのだ。だから嫌いな食べ物が入っていない素麺が、必然的に「好き」になるのだろう。まあ好きならいいか、とアッシュも素麺に向き直った。何の飾り付けもされていない、付け合わせも何も無いそのままの素麺が目の前にドンと置かれている。むしろこれが男の料理であり、飾り付けされていない夏らしい食べ物なのかもしれない。
「それじゃ、いただきまーす!」
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
両手を合わせて挨拶をしてから、箸を手に取る。白い塊に箸の先をつっこめば、ごちゃごちゃに絡まった麺がごっそりと取れた。水分が少し足りない。しかしルークはそのまま汁が足りないぐらい器に放り込んで、豪快に麺を吸い上げた。
「っんまい!冷たいしつるつるしてる!けど何かいつも食べてる汁と違うぞ、これ」
「ルークの家の汁とうちの汁が違うんだな。口に合うか?」
「うん、うちのも美味いけど、これも美味い!」
「そうかそうか」
ガイは自分の箸には手をつけずに、何やらニヤニヤしながら実に美味そうに素麺をすするルークを眺めている。アッシュがジッと見つめていれば、視線に気がついたのかガイが顔を向けてくる。
「な、何だ?アッシュ」
「何気持ち悪い顔でルークを見ているんだ」
「あ、いや、違うぞ、ルークがあまりに良い食いっぷりだから、感心してたんだ。それだけだぞ」
「ふぁ?」
自分の名前が挙がったのでルークが素麺を頬張りながら顔を上げてきた。その頭を何でもないから食っておけと再び沈めさせてから、アッシュも素麺を食べ始めた。何だかんだ言って今は昼飯時だ、お腹が空いていたのだ。
しばらくルークと並んで素麺を啜っていたアッシュは、ふと顔を上げた。そこには相変わらず箸を持たずに頬杖をついてにやついているガイがいる。しかも目が合った。つまり、ガイは今度はアッシュの事も見ていたのだ。
「……何見ていやがる」
「ん?いや、二人の食べ方をちょっとな、見比べてただけさ」
実に微笑ましいと言わんばかりの表情で、ガイは二人を交互に見てきた。素麺に夢中なルークと、こっちを不審そうに見つめてくるアッシュ。
「二人はどこか似てるけど、食べ方は違うんだなあ。ルークは豪快で、アッシュは上品で、どっちも変わらず可愛いけどな」
「かっ!」
アッシュは絶句した。頬に熱が集まるのを感じる。ガイは自分がアッシュにとってどれほど驚愕な言葉を吐いたか知らないのか、自覚しながらそれ故にさらに微笑ましいとでも思っているのか、にやけた笑いのままだ。言われ慣れない言葉にアッシュが固まっている間に、目ざとく聴きつけたルークがアッシュとガイを交互に見遣って、顔を覗き込んできた。
「アッシュが可愛い?アッシュの食べ方可愛いのか!俺にも見せて見せて!」
「ばっばばば馬鹿なこと言うなくずっ!可愛いと言うならお前の方が可愛いだろうが!」
「えーっ俺かっこいいのが良い!可愛いのはアッシュに譲る!」
「譲んな!お前が可愛い方を取れ!」
「嫌だ!アッシュのが可愛い!」
「ルークが可愛い!」
「アッシュが可愛い!」
訳の分からない「可愛い」の押し付け合いになってしまったちびっこたちを、ガイはさらにニマニマしながら眺めていた。何だか、この光景を見ているだけでお腹が一杯な気分になってきたぐらいだ。せっかく冷やした素麺だったが、しばらくは手がつけられそうもない。
「ルークが可愛い!」
「アッシュが可愛い!」
(どっちも可愛い)
可愛いの応酬が疲れと空腹により終結される頃には、冷やし素麺は夏の暑さにか言い合いの熱さにか、すっかり温かくなっていた。
冷やし素麺
08/08/05
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