1、仕方がねえ、行ってやる。
「ちっ……てめえがそこまで言うんじゃ、仕方ねえな……」
「ほんとか?アッシュありがとうー!」
「ひ、引っ付いてくるんじゃねえこの屑がっ!」
ぱっと笑顔になって手の中から抜け出しほっぺに擦り寄ってきたルークに、アッシュは心の中で悲鳴を上げながら猛烈な勢いで首を振った。コロンと空中にはじき出されたルークはしかし、それでも嬉しそうにニコニコと笑っている。
「それじゃさっそく魔法の箒アルビオール号でユキダルマンを探しに行こうぜ!」
「ちょっと待て」
傍に立てかけてあった箒の元へ飛んでいったルークにアッシュは待ったをかけた。首をかしげて振り返ってくるその鼻先に、指先を突きつける。キョトンとした顔を見て、思わず指先をぐるぐる回して目を回させてやりたい衝動に駆られるがどうにか抑えた。
「ひとつ確認させろ。俺は魔法使いで、お前はその使い魔だよな?」
「ああ。何当たり前の事を言ってるんだよ」
「じゃあ何でお前はトナカイの着ぐるみを着て俺はサンタもどきの格好をしなけりゃならねんだ!魔法使いなら別にクリスマスに合わせて着替える必要なんてないだろうが!」
どうしてもアッシュは納得がいかなかった。百歩、いや千歩譲って魔法使いの格好は許そう。しかしそれがふわふわな赤と白のサンタ色に変わる必然性はどこにも無いはずだ。そういう一見どうでも良い所に妙に拘ってしまうのがアッシュという男なのだ。
ルークは箒の柄にしがみつきながら、実にあっけらかんといった表情で答えた。
「だってこの方が雰囲気出るでしょ、って母上が作ってくれた分だけど」
「また母上手作りか?!」
「んな事どうでもいいだろ、早く行こうぜ!」
無理矢理箒を押し付けられてアッシュは無意識のうちに跨っていた。ハッと気づいた時にはルークの「アルビオール号発進!」という号令と共にぷかりと宙に浮く。箒に跨ってしまえばもう何だかどうでもよくなってきて、アッシュは窓ガラスをバリンと突き抜けて外へと飛び出した。
さて、ユキダルマンとやらは一体どっちにいるのだろうか。
1、南に違いない
2、北に違いない