そこでアッシュは目を覚ました。


「………」


しばらくアッシュはベッドの上でじっと天井を見つめながら身動きが取れなかった。言いたい事叫びたい事思った事が全部頭の中を駆け巡って行動に移れなかったのだ。
夢オチなのはわかっていた。ああわかっていたともさ。前回だってこのパターンだったから。でも!とにかく!これからだったじゃないか!様々な呆れるほどの苦難を乗り越えて、これからがやっとハッピーエンドの始まりだったじゃないか。どうしてエンディングをスキップしやがった。肝心な所を飛ばしてどうする。全てはこれからだったのに!!


「おーいアッシュ、起きてるか?珍しいなあアッシュが俺より起きるのが遅いなんて」


しばらく心の中の激情に飲まれて放心状態だったアッシュの頭の上で、カーテンを開ける涼やかな音が鳴り響いた。一緒に聞こえてきたとても聞きなれた声が「おおっ銀世界だ」と感嘆のため息を吐いている。ようやくゆっくりと回り始めた思考で、アッシュはこのベッドの上に沈むまでの昨日の事を思い出していた。

そうだ、昨日は懐かしい仲間たちを呼んでクリスマスパーティをファブレ邸で行ったのだ。最近手芸にはまっているらしい母上手作りのサンタの衣装やトナカイの衣装を皆で着て(そうじゃないと母上が心底悲しんでしまう)、美味しいクリスマス料理を食べたり時に激しくふざけあったりしたのだった。アッシュも無理矢理引っ張られて参加させられた身ではあったが、はしゃぎまくるルークが心底楽しんでいるようだったので、まあいいかーと満足していたのだが。
最後に、最後にジェイドに騙されて、お酒を一気飲みしてしまったのだ。そこでぷっつりと記憶が途切れている。まず間違いなく今までの夢の原因は、これだ。眼鏡の呪いとしか思えない。


「アッシュ、大丈夫か?さっきから全然反応無いけど」
「……大体あんな恥ずかしい呪文を言わせておいて結局魔法を一切使わなかったじゃねえか、タイトルの魔法使いはどうしたんだ屑が……」
「うおっ何かブツブツ呟き出したし……もしかしてまだ酒が抜けてないのか?」


仰向けに転がったままのアッシュの剥き出しおでこにテシテシと誰かの手の平の温度を感じた。まだまだ回転不足の思考で、それでもアッシュは考える。この手の持ち主を。
いや、考えるまでもない。朝からこうやって堂々とアッシュの部屋へとやってきて、何のためらいも無くアッシュに触れてくる人物は一人しかいない。というか、触れられてアッシュが不快に思うどころかこんなに安らぎを覚える人物なんて、この世に一人しかいないのだ。宙に固定されていた視線を少しずらしてみれば、やはりそこには先ほど夢に見ていたものと同じ顔があった。いつもと違うアッシュの様子が面白いのか、楽しそうに目を細めている。その顔を見ていれば、自然と夢の最後を思い出していた。
思い出した瞬間、ペタペタと己に触れるその手をガッシと掴んでいた。


「へ?あ、あれ?アッシュ?……うわ!」


ぐいっと引っ張ればどうやら思いっきり油断していたらしく、簡単にベッドへと転がり落ちてきた。突然の出来事に目をパチクリさせているルークに、むくりと起き上がったアッシュはにやりと笑いかけた。それを見た相手が何故か口元を引きつらせる。


「あ、アッシュー……その目の据わり具合、俺最近見たんだけど……」
「ほおそうか、奇遇だな」
「そんでもってその時俺、理由も分からずにとんでもない目に合わされちゃったんだけど……」
「ほおそうか、奇遇だな」
「奇遇じゃぬぇーっ!起き抜けになんなんだよ!何か悪い夢でも見たのかよー!」


ああ見たとも。飛びっきりの夢をな。

嫌な予感にジタバタ暴れ出したルークを軽く押さえ込んだアッシュは心の中で答えてから、ゆっくりと笑った。
夢の続きのハッピーエンドを、見るために。






  

 HAPPY END!





07/12/25



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とんでもないクソゲークリアーおめでとうございます!

……いや、本当にすみませんでした…。
特別なクリスマスの小説がこんなもので本当にすみません…。
少しでも楽しんで読んで頂けたのなら、本望です。

それでは遅くなりましたが、メリークリスマス!