「可哀想に、俺が何か食べ物を探してくるからルーク、お前はここで待っていてくれ」


「えっ?!あ、アッシュ……?!」


ルークの戸惑った声が背後から聞こえるが、アッシュは意気揚々と歩き出した。慌てたルークがすぐに立ち上がり、後ろについてくる。


「ま、待てってば、俺も行く!」
「何故だ?腹が減っているんだろうが」
「そ、そうだけど……それはアッシュもだろ?」
「お前ほどじゃない。いいから待っておけ、俺に任せろ」
「……いいや、やっぱ行く」


ルークは頑として戻ろうとしなかった。問いかけるように振り返れば、ふいと視線を逸らしたルークがぼそりと呟く。


「こんなに素直でおかしいアッシュに任せるのは何か心配だし……」
「?何だ、今何と言った?」
「何でもない!ほら、早く行こう、お腹ぺこぺこだよ俺」


アッシュをするりと追い越し、先へ歩くルーク。さっきまであんなに腹を空かしてへこたれていたのに、と首を傾げるが、今は割と元気そうなのでそのまま二人で行くことにした。道中ちらちらと、様子を窺うようにルークが振り返ってくるのが少し目についた。

幸いここは緑の多い渓谷の中だ。さほど時間をかける事無く赤い実をつけた一本の木を見つけることが出来た。アッシュの脳内の知識を総動員させ、この実は普通に食べられる実だろうと見当をつける。そういう思考をしないままルークは大喜びで手を伸ばし、すでにいくつか赤い実をもいでいるが。


「ほらアッシュ見ろよ、なかなか美味そうな実だな!」


そのまま食べるかと思いきや、目の前に駆けてきて両手に持った戦利品を見せてくる。その様子はさながら、狩った獲物を咥えて褒めて褒めてと飼い主に駆け寄ってくるわんこそのものである。やや小ぶりな熟れた赤い実を手に嬉しそうに笑うルークの腕の中から一つとって、目の前に掲げた。
見れば見るほど、鮮やかな赤色だ。赤、といえば自分たちのカラーでもあるが、この眩しいほどの赤に近い色を持っているのはアッシュよりも色素の薄いルークだろう。そう、自然と考えた。考えながら口に出していた。



「この色、お前に似ているな……実に美味そうだ、ふふふ」

「この色、お前に似ているな……まあそんな事はどうでもいい。全部寄越せ」

「この色、お前に似ているな……って何言わすんだ屑がっ!」