「……待てよ、アッシュ」
「………」
突然かけられた声に一瞬だけ立ち止まったアッシュだったが、すぐに振り返ることなく再び歩き出す。その背中に、ルークが駆け寄った。頑なにこちらへ振り向かない体に、必死に縋りつく。
「アッシュっ……!」
「……。俺は行けと、言ったはずだ。うっとおしい約束までしておいて、まだ俺の前で醜態を晒す気か」
向けられた視線は氷のように冷たい。しかしそれでもルークは握りしめたアッシュの服を離そうとはしなかった。ただただ置いていかれたくない思いだけで、アッシュを見つめる。
「……どんな醜態を晒したっていい。やっぱり俺はアッシュと一緒じゃなきゃダメなんだ。アッシュと一緒じゃなきゃ俺は、生きられない……!だからアッシュ、俺も連れて行ってくれ」
「ほう?」
アッシュがルークに向き直る。しかしその顔に浮かぶ表情はルークを受け入れるような優しいものではなく、ただひたすら突き放す固いものであった。
「俺が先ほど、あえて優しく手放してやったというのに……俺に連れて行ってほしいと?今まで俺にどんな扱いをされてきたか、いくら馬鹿なお前でも分からねえ訳ないだろう」
「分かってる……でもそれは、当然の事だから」
ルークの瞳には決意が灯っていた。どんな未来が待ち受けていても、それをすべて受け入れる決死とした覚悟であった。
「アッシュは俺のオリジナルだから、俺をどんな扱いしたって、いいと思う。そして俺は……アッシュがいないと生きられないんだ。だって俺は、できそこないの劣化レプリカだから……」
悲痛に顔をゆがませるルークは、自分の放った言葉に傷ついている訳ではない。自分ができそこないの劣化レプリカだから、アッシュに負担を強いているだろうと本気で思って、その事に胸を痛めているのだ。
ルークはその場で膝をついた。そしてアッシュの服の袖を握りしめながら、必死な顔で懇願した。
「お願いだアッシュ、俺を連れて行ってくれ!アッシュのためなら俺、何でもするから!アッシュになら、罵られても虐げられてもいい!どんな扱いされたって受け入れられるから!だからっ……!」
アッシュは静かにルークを見下ろしていた。ルークが俯き、震える手でそれでも放そうとしない姿をいっそ憐れむような目で見下ろしていた。やがてへたり込むルークの傍に屈み、耳元でささやく。
「覚悟は、出来ているんだろうな?」
「……っ!」
「劣化レプリカ風情が、生温い仲間たちの元ではなく俺を選んだんだ。俺にどんな扱いをされ、何をされても文句も何も言わせねえからな。それでも、いいんだな?」
その声は温かみのかけらも無いほど冷たく、そしてドロドロに甘かった。ゆっくりと顔を上げたルークは、目の前にあるアッシュの顔を見つめる。
「……もちろんだ。アッシュから与えられるもの全てが、俺の喜びだから。身体の痛みも、心の痛みも、全て……」
恍惚とした表情で、心から幸せそうに、ルークは笑った。
「……俺は、アッシュのものだよ」
二人の選択 バッドED2
14/04/01
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