「のたれ死なれても困るからな……仕方ねえ、適当に何か見つけてくるからお前はここで大人しく待っていろ」


「えっ!アッシュ何か探してきてくれんの?」
「俺も腹が減っているだけだ。ついでに何かあればおこぼれを分けてやってもいい、期待はするなよ」
「いやいやありがたい!っと言いたい所だけど、アッシュが行くなら俺も行くっ!」


歩き始めたアッシュの後ろから、ひょいと立ちあがったルークがくっついてくる。アッシュは呆れた顔で振り返った。


「さっきまで情けなく項垂れてたのはどこのどいつだ」
「だってアッシュばかりに働かせられないだろ?せっかく二人揃ってるんだから、二人で頑張ろうぜ!」


隣に追い付いてきて、嬉しそうに笑うルーク。そのまま追い越して何かないかとあたりを見回すその背中を見つめて、アッシュは足を止めていた。
二人で。そう発したルークの声が、奇跡の様に輝いて聞こえたのはきっと、本当にそれが奇跡と同じような事なのだと感じているからだ、ルークも、アッシュも。そもそも争い合う事無くこうして二人で並んで歩いている事自体、前に比べたら奇跡のようなものだ。言葉に言い表せない途方のなさを感じて、アッシュは少しだけ遠い目で空を見た。
本当にこの状況は一体何なのか、この空の向こう側にいるであろう存在に問い質したい。


「……アッシュ、何してるんだー?」
「いや……」


不思議そうなルークの声がかけられて、とりあえずアッシュは気を取り直す。とにかく今は、目の前に転がる問題を片づけていくしかないのだ。

幸いここは緑の多い渓谷の中だ。さほど時間をかける事無く赤い実をつけた一本の木を見つけることが出来た。アッシュの脳内の知識を総動員させ、この実は普通に食べられる実だろうと見当をつける。そういう思考をしないままルークは大喜びで手を伸ばし、すでにいくつか赤い実をもいでいるが。


「ほらアッシュ見ろよ、なかなか美味そうな実だな!」


そのまま食べるかと思いきや、目の前に駆けてきて両手に持った戦利品を見せてくる。その様子はさながら、狩った獲物を咥えて褒めて褒めてと飼い主に駆け寄ってくるわんこそのものである。やや小ぶりな熟れた赤い実を手に嬉しそうに笑うルークの腕の中から一つとって、目の前に掲げた。
見れば見るほど、鮮やかな赤色だ。赤、といえば自分たちのカラーでもあるが、この眩しいほどの赤に近い色を持っているのはアッシュよりも色素の薄いルークだろう。そう、自然と考えた。考えながら口に出していた。



「この色、お前に似ているな……実に美味そうだ、ふふふ」

「この色、お前に似ているな……まあそんな事はどうでもいい。全部寄越せ」

「この色、お前に似ているな……って何言わすんだ屑がっ!」