本当は朝早いのは苦手だけれど、きっちりと毎日参加したという証拠のスタンプを貰わなければ気がすまない生真面目な性格が災いして、今年の夏休み初日もアッシュは時間ぴったりに広場に集まっていた。もちろん夏休みのお約束、ラジオ体操をするためだ。あくびをかみ殺しながら、ラジオ体操のスタンプカードを首からぶら下げたアッシュは集まる子どもたちの一番後ろに移動する。何となく、あまり体操する姿を人に見られたくないお年頃なのだ。
そうして聞こえてきたなじみの音楽に沿って、毎年通りいつも通りにダラダラと体操を始めようとしたアッシュだったが、目の前に現れた見慣れぬ色に動きを止めてしまっていた。
それは、びっくりするぐらい明るい赤だった。太陽の色だ、とアッシュは思った。
「お前、見かけない顔だな」
気付けば話しかけていた。普段口数も少なくどちらかといえば声をかけられる側のアッシュにしてはとても珍しい事だった。それほどまでに、目の前の色に見惚れていたのかもしれない。自分の濃い赤とは違う、淡い焔色に。
アッシュの声に、赤色の主はパッと振り返ってきた。どこか不安そうに歪んだ新緑の瞳がアッシュを見る。本当に見かけない顔だった。最近引っ越してきたのだろうかと考えていると、少し遠慮がちの声が届いてきた。
「お、俺、本当は別の所に家があるんだけど、今はヨミガエリでこっちに来てるんだ」
「……まさか、里帰りの事か?」
「あ!それだ!サトガエリ!俺サトガエリでここにいるんだ」
こいつは綺麗だけど馬鹿だ。アッシュの第一印象だった。そんなアッシュの内心を知る由も無い赤色の子どもは、さっきのオドオドした態度が嘘のように明るく笑ってみせた。もしかしたら、知らない子どもたちの中で寂しい思いをしていたのかもしれない。
「俺、ルークっていうんだ!お前は?」
「……アッシュだ」
話しかけておいて名乗らない訳にはいかない。アッシュアッシュ、と噛み砕くように何回か呟いてみせた赤色の子ども、ルークは、その輝くような髪の色と同じような太陽の笑みを浮かべて、アッシュの手を握った。
その手は、まるで太陽のように暖かかった。
「アッシュ!よろしくな!」
思わずその顔から視線を逸らしてしまったのは、昇ったばかりの太陽が眩しかったからだ。心の中でアッシュは誰かに言い訳した。言い訳の聞こえないルークはニコニコとアッシュを見続ける。
その後二人で並んで、他の人より早かったり遅かったりで少し変わったルークの体操を横目で眺めながら、初日のラジオ体操は終了した。
これが、アッシュとルークの出会いだった。
ラジオ体操
08/07/04
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