ある日ルークが、あまり見慣れない機械を持ち出してきた。


「じゃーん!アッシュ、これで遊ぼうぜ!」
「何だそれは、ゲーム機か」
「おう!フローリアンに借りたんだー。二人でプレイ出来るんだってさ」


どうやらゲーム機ごと借りてきたらしい。アッシュが返事をする前にテレビの前にどんとそれを置き、淀みない動きで接続していく。経験が無いとここまでスムーズに接続は出来ないだろう。


「お前、これをやった事あるのか」
「うん、この機械は家にあった。借りてきたのはこれ、チーグルレーシング!」


水色のマスコットが載ったパッケージを見せられて、アッシュは軽く目を見張る。その題名の通りこのマスコットの名前はチーグルで、色とりどりのそれらが乗り物に乗ってレースをするゲーム、だったはずだ。大昔アッシュは少しだけプレイした事があった。つまりはそれぐらい古いソフトという事だ。良く見ればゲーム機もどこか色あせている。だからこそ本体ごと借りてこれたのだろう。


「また随分と懐かしいものを……」
「あれ、アッシュこれやったことあんの?」
「昔シンクの奴に誘われて何度か、な。お前はやった事あるのか」
「いや、他のレースゲーはいくつかやった事あるけど、このソフト自体は初めてだなー」


ルークがふーふーとソフトに息を吹きかけ、がしゃんとセットし、パチンとスイッチを入れれば、旧型のゲーム機はきちんと起動してテレビに画面を映し出した。懐かしさこみ上げる若干レトロな起動画面である。
いそいそと二つ繋がったコントローラーの一つを持って座り込んだルークが、己の隣を叩いてここに座れと主張する。大人しく従って、昔何度か握った事のあるコントローラーを手に持った。操作なんてろくに覚えていない。覚えている事といえば、この十字キーでキャラクターやカーソルを上下左右に操作する、ぐらいだ。


「おい、説明書はどこだ」
「えー、アッシュは説明書から入るタイプかよ。中古で買ったから無いって言ってたぞ。多分これがアクセルで、これがブレーキだろ!」


このソフト自体をやっていなくても大体わかるものらしい。ルークがぽちぽちと何度か操作すれば、画面は問題なく先に進んでいく。キャラクターを選ぶ画面で少々もめながら、ルークは水色のチーグルを、アッシュは黄色のチーグルを選んで、とうとうレースは始まりの時を迎えた。
ルークとアッシュと他はコンピューターたちで争われるレース。上下に分割された画面の下の方がアッシュだ。カウントダウンされる数秒の緊張した瞬間。ランプが青になりドンと勢いよく始まったレースの画面で、ルークとアッシュは二人してスタートダッシュに失敗していた。


「ああっ失敗!」
「お前、このゲーム初めてのくせに何でスタートダッシュ知ってやがった!」
「こういうレースゲームにはあったりするだろうなあって思って……ってアッシュ、俺に黙ってダッシュしようとしやがったんだな、ずりい!」
「ふん、勝負は非情なんだよ!」
「結局失敗してるじゃねーかっ!」
「ひ、久しぶりだから仕方ねえだろうが!」


口で盛大に争いながら、テレビ画面の向こうでも最下位争いで爆走する二人。しばらく慣れない操作に必死になっていたアッシュは、やがて少しだけ慣れて余裕が持てるようになった頃、気付いた。
隣でルークが、テレビゲームらしからぬ動きをしている事に。


「くっ、このカーブを曲がってー……とう!ここでアイテム!ああーっ惜しい当たらねえー!」


いちいち実況するように一人で大騒ぎしているルークは、動作も忙しそうだった。画面の中で跳ねたら自分の手も跳ねる。カーブを曲がったらコントローラーどころか自分の体も傾く。じたばたとコントローラーを振り回す様は、道路を滑るように走るチーグルよりも忙しない。
思わずアッシュはルークに目がいって、自分の黄色いチーグルを水の中に落としてしまった。


「……おい、このゲームはコントローラーを振り回して操作するタイプのものだったか?」
「は?んな訳ねーじゃん、これ昔のゲーム機だぜ?」


どうやらルークは自分がじたばた動きまくっている事に気付いていないらしい。完全に無意識なその動きは見ていて飽きなかった。思わず背後からビデオか何かに撮っておきたい衝動に駆られる。


(こいつ、可愛……いいや、面白すぎる)


どうしてもゲームに夢中なルークに夢中になってしまうアッシュは、気付いていない。
ルークほどではないが、己も画面のチーグルの動きに連動して、腕や体を傾けさせている事に。
気付くのは数日後、ゲームを貸してくれた緑っこ三兄弟と共に同じゲームを遊んだ時に、笑われながら指摘されてからだったという。





   ゲーム


14/06/13