こたつにはみかんが定番だと一番最初に決めた人間はどこのどいつなのだろうと、つまらないテレビ番組をぼんやり眺めながらアッシュは思った。もし今目の前にいれば、ありがとうと握手を求めたい所である。それぐらい、やっぱりこたつに入って食べるみかんというものは美味しい。中央に鎮座する籠いっぱいに盛られたみかんの山から無意識にひとつ、またひとつ手に取って次々と口の中に運び入れる作業を、アッシュは先ほどから一人延々と繰り返していた。テーブルの上にずっと出された両手が冷たくなろうとも、みかんの皮を剥ぐことはやめられない。

「ううーっ寒い寒い、最近いきなり寒くなったよなー」

がらりとふすまを行儀悪く足で開けながらルークが部屋に入ってくる。背中を丸め、はんてんを身に纏い、こたつに蹲りながらただただみかんを食べるアッシュを眺めてルークは遠い目をした。

「うわあ……アッシュ、今のお前をクラスの女子、いや男子にも絶対に見せられないなこれは。10人中10人が幻滅する事必須だろ」
「ほっとけ」

口にスプーンを加えながら器用に話しかけてきたお揃いの赤いはんてんを着たルークを、アッシュはじろりと下から睨み付ける。いくら睨んでもその場から動こうとはしないグータラアッシュに、ルークは肩を竦めるだけでそれ以上のことは言わなかった。両手に持っていた湯呑みとカップアイスをテーブルに置き、いそいそとこたつの中に足を突っ込んでくる。それによって、比較的狭いこたつの中で向かい合わせに座る二人の足は必然的に触れ合う事となる。
こたつの熱でぬくぬくしていたアッシュの脛に、冷たいルークの素足がべたりとつけられとっさに蹴りを入れた。

「屑が、冷てえだろうが!素足でうろうろするな!」
「いや、アッシュだって素足だろ」
「こたつに入る時は素足が一番気持ちいいだろうが!」
「だよなー、こうじんわり温まっていくのが気持ちいんだよなー」

アッシュの抵抗を掻い潜って冷たい武器を何度もくっつけてこようと足を動かしながらも、こたつの上に出たルークの上半身は呑気なものだった。はんてんの裾を腕まくり、意気揚々とアイスカップの蓋を剥がしにかかっている。ルークの足裏がアッシュの足裏にべったり触れ合うが、暴れたせいかこたつのおかげか、もうそろそろ冷たさも薄まっていた。
くっつけ合った足の指にぎゅっと力を入れて押し返しながら呆れた目でアッシュが眺める中、咥えていたスプーンを手に取り固めのバニラアイスを掬ったルークは、ぱくりと口に入れてたまらない笑顔になる。

「んーっんまい!最高!」
「寒い日に、冷たいアイス……」
「あーっアッシュお前分かってないなあ。こたつで温まりながら風呂上がりに食べるアイスが至高なんだろ!」
「こたつにはみかんって昔から相場が決まってんだよ!」
「いやいや、アイスも良いってマジで!」

ルークは大目にアイスを掬って目の前に差し出し、丸めた背中を少しだけ伸ばしてアッシュがそれを口に含む。
今度はアッシュが白い筋まで綺麗に取り除いたみかんを3,4粒塊で一気に差し出し、大きく開けたルークの口に押し込む。
互いにトレードしたものをしばらくもぐもぐと味わった二人は、ほぼ同時に項垂れて敗北を認めていた。

「なかなかいけるじゃねえか、アイスの野郎……」
「ううっやっぱりこたつに入りながら食うみかんは美味い……」
「おいルーク、そのアイス半分寄越せ」
「俺の分までアッシュがみかん剥いてくれたらいーよ」

取引は成立した。ただし上半身だけ。足はいまだに狭いこたつの中で蹴ったりくっついたりとせわしない。
足ではルークの向こう脛を蹴り上げ、腕はルークに食わせるみかんを剥いてやるためまた一個手に取りながら、とりあえずアッシュはもう見る暇も無いであろうテレビの電源を消した。





   こたつ


13/11/19