暑い日は誰だって暑い。いくら涼しそうな顔をしていたって、暑いものは暑い。ぐったりとソファに身を投げ出して暑さを全身で表現しているルークは、隣に座って涼しそうな顔で本を読んでいるアッシュだって自分と同じぐらい暑がっていることを知っていた。何せその首元には、その長い真紅の髪も相まって汗が噴き出ているのが見えるからだ。
「なあ、アッシュ、今日めっちゃ暑くね……?」
「ああ、そうだな」
「あ、そこは認めるんだ……ていうか絶対俺よりアッシュの方が暑いだろ、特にその髪」
「………」
アッシュは答えずにじろりと隣に這いつくばるルークを見下ろしてきたが、答えないという事は図星なのだろう。目が合うとふいと視線をそらしてしまったのを見て、ルークはこっそり吹き出した。うつぶせの状態から両肘をついて上半身を起こすと、アッシュの横顔をじっと見つめる。
見れば見るほど暑そうな頭だ。その長さもさることながら、炎を写し取ったかのようなその赤がいけない。アッシュの混じりけのない赤髪を眺めるたびにルークはこっそり惚れ惚れと見惚れているのだが、今だけは少し気の毒になる。ルークほどに切ってしまえばその色でもまだ涼しげだろう。もしアッシュが髪を切るなどと言い出したら全力で止めに入るが。
「せめてさ、首元涼しくするために括っちゃえば?」
何気なく言ったルークだったが、アッシュはしばらく本を眺めた後、しおりを挟んでパンと閉じ、
「……それもそうだな」
珍しくルークの意見を聞き入れた。お、と思っているうちに脇に本をどけたアッシュは、どこからともなくゴムを取り出す。こういう事もあろうかとポケットにでも入れていたのかもしれない。それを一旦手首に嵌めると、ソファから背中を浮かせて両手で背中の髪を纏めはじめた。サラサラの真っ直ぐな赤毛がアッシュの背中を離れて一本に纏まっていく。
アッシュが髪を結ぶのはそう多い事ではない。ルークはなぜか目が離せなくなり、アッシュの動向を見守った。特に注目したのは、普段はめったに露わにならない首の後ろ側だった。日頃はずっと髪に包まれているその場所が見えているだけで、何とも言えない気分になってくる。なんだこの気持ちは。思わず自分の胸を押さえたルークを気にすることなく、アッシュはそのままゴムを使ってあっという間に髪を纏め上げた。ゴムに通されるたびに空中を舞う赤い束がルークの目の前で揺れる。背中に集中しているために伏し目がちの目元とか、すっきりと全貌が露わになった汗をかいた首元とか、空中を淀みなく華麗に動いて髪を結ぶ右手の閃きとか、その全てにルークの目は釘づけとなった。
やがて軽く首を振ってみせたアッシュは、完成したポニーテールに満足そうに再び背中をソファに沈ませる。
「ふん、これだけでも大分違うものだな」
そうして本の続きを読むために手を伸ばしかけたアッシュがふと隣を見下ろしてみれば、ルークが顔を伏せてじたばたと足を動かしているところだった。見えている両耳が何故だか赤い。
「何だ、何してやがる屑」
「……お前見てたらさらに暑くなったんだよ……」
「ああ?髪を括れっつったのはてめえだろうが」
「だって!髪を結ぶしぐさがあんなに色っぽいとか反則だろ!何なんだよ!」
「何なんだはこっちの台詞だ屑が!触るな!」
がばりと起き上がった赤い顔のルークが、アッシュに肘で押し返されながらも伸ばした手で触れたその首元は、汗のせいかぴたりと手の平に吸い付いた。
魅惑のテール
13/05/25
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