「アッシュ、知ってるか……ウサギって、寂しいと死んじゃうらしいぞ」
深刻な顔でそうのたまうルークの頭を見て、アッシュは目を細めた。どこから調達してきたのか、髪の色と似た赤色のウサギの耳がぴょんと生えている。もちろん本物ではない。片耳が折れ曲がっているのがちょっぴりキュート、なポイントなのか。アッシュにはよく分からない。
無視しようかとも思ったが、一旦そうすればしつこく縋ってきそうなので溜息をつきつつつっこんでやる事とする。
「お前の目は赤くねえ。よってウサギじゃねえ」
「ガーン?!いっいや、赤い目じゃないウサギだっているし!絶対いるし!」
「それにお前にはあの丸い尻尾もねえ。よってウサギじゃねえ」
「はっ!そ、そこまでは気が回らなかっ……いやいや、見えないだけで実は服の下にあるんだって、うん」
「ほう?どれ、」
「ぎゃーっ!セクハラ!変態!」
生意気にも見苦しい言い訳をかますものだからこの目で確かめてやっただけなのに、大変失礼なことを叫ばれた。とりあえず尻にふさふさとした丸い尻尾が生えていなかった事だけは確かだ。
若干涙目で睨み付けてくるうさ耳をつけた己のレプリカに、アッシュはとどめの一言を投げつけてやる。
「そもそも、そのウサギは寂しいと死ぬなんていう話自体が迷信だろうが」
「……えっそうなの?!」
今度こそルークは本気でショックを受けたらしい。丸く目を見開いたかと思えば、明らかに落ち込んだ様子でズンと肩を落とす。心なしか、作り物のうさ耳までしゅんと垂れ下がっているようにも見える。
「ちぇっ……せっかくいい話聞いたって思ったのに……」
一人でブツブツ言っているウサギの耳が生えた頭を、アッシュは呆れた目で見つめた。誰にどんな話を聞いたのかは分からないが、どうしてこんなトンチンカンな行動を取ったのか意味が分からない。だが、ルークが一体何を求めているのかは分かる。分かるからこそ、分からない。
はあ、とこれ見よがしに溜息をついてみせてから、今まで書き進めてきた書類から手を放す。
「おい」
「……ん?」
寂しそうなウサギの頭に声を投げかけたアッシュは、見上げてきた緑の瞳に見えるように、己の膝をぽんぽんと叩いた。
「来い、ルーク」
寂しくて構って欲しいなら、そうやって直接言えと。半ば睨み付けるように視線でそうやって語りかけてくるアッシュを、ルークはぽかんとした表情で見つめた。躊躇うようにふらりと傾ぐその体につられるように、ぴこっとウサギの耳も跳ねる。
「え、でもアッシュ、仕事……」
「うるせえ。つべこべ言ってないで、来るのか、来ないのか?」
今更な遠慮や戸惑いなど吹き飛ばすように問答無用でそう言えば、あっけにとられていた表情が見る見るうちに満面の笑みとなり、
「行くっ!」
飛びついてきた寂しがりなウサギを受け止めたアッシュの表情は、仕方がないとぼやきながらも、まんざらでもない顔で。
ウサギの耳を生やしたルークがそれなりに似合っていたので、ウサギが寂しいと死んでしまうなどというくだらない話も、たまには真に受けてもいいかななどと思ったりしているのは、アッシュのここだけの秘密だ。
寂しがり赤ウサギ
14/06/24
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