そうして何やかんやあって赤毛四人は、二人のヴァンを倒す事が出来たのだった。
「やったー!髭……じゃなくてヴァンせんせーを二人とも倒せた!これで世界は救われるんだな!」
「ああ、外郭大地も無事に降ろせたし、もうこれで全てが終わったな」
飛び上がって喜ぶルークと、飛び上がりこそしないものの嬉しそうな空気を発するアッシュ。しかしシロとクロは険しい表情のまま、ヴァンたちが倒れ伏した地面をじっと見つめている。ただならぬ空気に気付いた二人が、おそるおそる尋ねてきた。
「ど、どうしたんだクロにシロまで。せっかくヴァン師匠倒したのに」
「いや……これで終わりじゃない」
「えっ?」
シロが言い、ルークとアッシュが驚きの声を上げた瞬間、倒れていたヴァン達が急に光り始めた。あまりの眩しさに全員が直視出来ない中、光はみるみるうちに大きくなっていく。その光はどこか第七音素の光に似ていた。まだ剣と譜歌で解放していないというのに、ローレライの野郎が早とちって先に出て来ちゃったのだろうか。しかし真実はもっと残酷であった。
どんどんと大きくなっていった光は、しばらくした後収束していく。眩しい光が消えた後、そこに残っていたのは……光と同じように巨大化した人影が一つ。空を覆うような大きさのその人影に開いた口がふさがらない面々の中、何とかクロが声を上げた。
「くっ、ヴァンめ……合体して超巨大キングヴァンになりやがった!」
「「合体?!」」
『はははは!ローレライの力を利用して空気中の第七音素を取り込んでやったのだ、これで私を倒す事など出来まい!』
あの低音ダンディなボイスが頭の上から降ってくる。レプリカエルドラント以上の大きさかもしれない超巨大キングヴァンからその声が放たれれば、迫力は段違いであった。このままヴァンが暴れまわれば、オールドラントはひとたまりもないだろう。
「こ、これどうすりゃいいんだよ!このままヴァン師匠に踏みつぶされるのを待つしかないのか?!」
絶望的な状況に慌てるルーク。その肩に乗せられた力強い手があった。ハッと振り返ったルークの目の前には、不敵に笑う自分と同じ顔がある。シロだった。
「大丈夫だルーク、あっちがローレライの力を使うのならば、俺たちもローレライの力を使えば良いんだ!」
「しかし、今のローレライはヴァンに取り込まれている状態だ、俺達が使えると思えないんだが……」
アッシュの力ない指摘にも、シロの自信に満ちあふれた表情は曇らなかった。ドンと己の胸を叩いてみせる。
「ローレライは契約の証である譜歌に弱いんだ!ルーク、この日のために譜歌を練習してきただろ?それを歌えばきっと、手ごわいヴァン師匠の美声に勝ってローレライをこちら側につけることが出来るはずだ!」
「そ、そんな事出来るのか?」
「出来る出来る!現に俺の時もローレライはティアの歌声に反応してたし!そこから察するにローレライはハスキーボイスより可愛い声を好むって事だな、だからルークも大丈夫だ!」
「そういう理屈かよ!」
一見無茶苦茶な提案だが、今はやってみるしかない。しかしルークが意を決して歌いだそうとした時、何かを感じとったのかヴァンが動き始めた。標的はもちろん、赤毛四人めがけてだ。
『何を企んでいるのか知らないが、その前に潰してくれるわ!』
「し、しまった!」
「ちっ、こうなったら根性で第二超振動を発動させて……」
慌てる四人の様子に勝利を確信するヴァン、しかしそこに邪魔が入った。高速で空を滑空しヴァンの目の前へとやってきた乗り物が二つあったのだ。空中を滑る様に二台並んで飛ぶそれは、間違いなくアルビオール二号機と三号機であった。あっけに取られて見ていると、いつ取り付けたのか拡声器からギンジの声が届いてくる。
『クロさーん!言われた通り巨大生物が現れたので、待機していた港からやってきましたよ!』
「よし、良くやったギンジ」
「この事態を予想してたのかクロ?!」
「ふん、最終回といったらラスボス巨大化がセオリーだからな、念のために待機させておいた」
胸を張るクロであったが、まだまだ疑問は残る。皆を代表してアッシュが尋ねた。
「で、アルビオールを呼んで一体何をする気だ?脱出か?」
「まさか。ギンジ、ノエル、遠慮はいらねえ、やれ」
『アイアイサー!』
こっちの声がどうやって届いているかはさておき、威勢のいい掛け声と共に二台のアルビオールは右へ左へそれぞれ旋回した。そうしてそっくりそのまま同じような軌道でぐるりと宙を回り、そのまま正面からぶつかるかと思いきや、真っ直ぐぶつかり合う寸前まばゆい光がはじけた。目を開けていられない間、耳にはガチャンガチャンと何やら機械が盛大に動く音が聞こえてくる。そうこうしている内に光は消え、何だかデジャブを感じながら目を開いた一同の目の前には、巨大な影がヴァン以外もう一つそびえ立っていた。それは、巨大ロボであった。
『アルビオール、合体!』
「「合体?!」」
「巨大な敵には巨大なロボと相場が決まっている!いけ、スーパーアルビオールZ!」
クロが腕を振り上げれば、ギンジとノエルが操縦するスーパーアルビオールZはほぼ同じ大きさのヴァンへ向かっていった。ヴァンも剣を抜いてそれを迎え撃つ。ロボの腕と巨大な剣が音を立ててぶつかり合い、恐ろしく大きな火花を散らしている。クロはそれを見届けて三人を振り返った。
「これで時間稼ぎになる、ルーク、今のうちに譜歌を歌え」
「えっやっぱり歌わないといけないの?このままスーパーアルビオールZが勝つんじゃねえの?」
「さすがにあれにそこまでのパワーは無い」
「それにやっぱりラスボスにとどめをさすのは主人公の役目だしなー」
もっともな事をシロも言うので、頷いたルークはアッシュが手渡してきたマイクを手に取った。気丈にふるまっているが、ルークが緊張でガチガチに固まっているのはだれの目にも明らかであった。やはり自分の歌次第で世界の命運を分ける場面なのだから、緊張してしまうのも当然だろう。微かに震えるルークの手を、隣のアッシュが包み込んでやる。
「アッシュ……」
「大丈夫だルーク、俺は、俺たちはここにいるから」
「そうだ!ルークと一緒に俺達も歌おう!」
突然シロが名案を閃いたような表情で手を上げる。クロとアッシュはえっという顔でシロを見たが、ルークは嬉しそうに表情を明るくさせた。
「本当か?!一緒に歌ってくれんの?!」
「ああ、こんな大事な場面をルーク一人に任せてしまうのは忍びないからな、そうだよなクロ!」
「あ……ああ、そう、だな……」
シロに最高の笑顔で振り向かれて、おまけにルークの懇願するような瞳で見つめられて、クロは視線を逸らしつつも反対する事が出来なかった。心の中で「相変わらずルークとシロに甘いなこのツンデレ通り越したデレデレ野郎!」と罵ったアッシュもその期待に満ち満ちた視線を裏切る事が出来ずに黙り込む。所詮同一人物である。
どこからともなくあと三人分のマイクを取り出したシロが全員に配り、意気込んで空を仰いだ。
「さあ、歌うぞ!ミュージックスタート!」
シロの掛け声に答えるように、軽快なギターのサウンドが空に響き渡り始める。あれ?譜歌ってこんなにノリの良い曲だったっけ?と首をひねっている間に、歌い出しの部分がやってきた。どこかで強烈に聞いた事のあるメロディに、思わず全員が歌い出していた。
「「ガラス玉ひとつ落とされた、追いかけてもうひとつ落っこちた〜」」
「ってこっちー?!」
歌の途中だが、思わずルークは叫んだ。何か問題があるのかと言いたげなキョトンとした表情でシロが瞬きをする。
「どうしたんだルーク?歌を途中で止めるなんて」
「いや歌だけど!俺ずっとティアから譜歌習ってたんだけど!これ譜歌じゃないんだけど!」
「何を言うんだ!すっげえ良い歌だろ!」
「良い歌なのは分かってるけど!」
「譜歌にこの歌、両方揃ってこそ俺達の物語だろ!」
「いや確かにそうなんだけどっ!」
必死に食い下がるルークに助け船を出すようにアッシュも口を挟んできた。
「歌が良いのは置いといて、ローレライと契約した歌はこれじゃねえだろ大譜歌だろ!ならどんなに良い歌だとしても、譜歌じゃなければローレライは反応しないんじゃないのか!」
「なるほど、アッシュ、一理あるな」
「一理どころか十理ぐらいあるわ!」
「いや……そうでもないようだ」
「「えっ?」」
クロが空を指差した。指先を追って視線を空へ向けると、そこにはスーパーアルビオールZと死闘を繰り広げる超巨大キングヴァンの姿があった。しかしさっきまで余裕そうな表情だったその顔が今は、どこか苦痛にゆがんでいるようだった。ロケットパンチを受けとめながら、ヴァンが呻く。
『くっ……私の中のローレライが何かに反応して暴れ始めている……!まさか、さっきの歌の効果か!』
「き、効いてる?!譜歌じゃないのにローレライ反応してるぞ?!」
「いくら音素集合体と言えど、歌の良し悪しは分かるようだな」
「そういう問題なのか……?」
「これでさっきの歌がこうかはばつぐんだって分かったな!さあ皆、歌うぞ!」
まだ色々と納得がいかないルークとアッシュだったが、効果が実証されてしまえば反論も出来ない。仕方なくさっきの歌を続ける事にした。
歌の効果は絶大だった。「汚さずに保ってきた〜」でヴァンの身体は光り始め、「かーなーらーず〜」でスーパーアルビオールZにタコ殴りにあいながらボロボロと形を崩し始めたのだ。おそらく吸収した音素がどんどん失われているのだろう。最早歌も二番に突入する事無く、ヴァンは光の中に消えていってしまった。
同時に、燃え上がる炎の様な光が四人の元へと飛んできた。唯一シロが一発で、それがローレライの本体だと分かる。
「ローレライ!無事に解放出来たみたいだな」
『ああ、やはりカ○マは最高だな。二人のルーク、そして二人のアッシュよ、私を見事解放してくれた事に礼を言おう』
「お、おお……これがローレライかあ」
「予想以上にふわふわしやがって、これじゃ殴れねえじゃねえか」
四人が見つめる中、ローレライは辛うじて僅かに人型に見えなくもないその姿を、僅かに振り返らせた。四人分の視線が同じ方向に向けば、そこには折り重なるように倒れる元の大きさのヴァンたちが二人、地面に転がっている所だった。その奥では役目を終えたスーパーアルビオールZが空中でかっこよく合体を解いている所である。
『あの髭たちもこれに懲りて大人しくなるだろう、私がこのまま音譜帯に上がれば、奴らに取りこまれる事もなくなる』
「そうだな、そうしてくれよ、譜歌を歌うだけでほいほい取り込まれるなんてガード柔らかすぎだからなローレライは」
「おい、ちょっと待て!契約の件はどうなる?譜歌……じゃねえが、歌はうたったんだからルークとローレライの契約は済んでいると見ていいんだろうな?」
このままさっさと音譜帯に上がりたそうなローレライにアッシュが待ったの声を掛ける。ここで契約をしておかなければ大爆発が進んでしまうかもしれないのだからアッシュも必死だ。ローレライは余裕たっぷりな声でそれに答えた。
『無論だ。先ほどの歌を以て私とルークは契約で結ばれた。これからはあの歌とそのリングさえあればいつでも私を召喚する事が出来るからな』
「ああ、いちいち歌わなきゃいけないんだカ○マ……」
「まあ契約した状態なら大爆発も起こらないだろう、多分」
『それでは私は音譜帯に上がらせて貰う。他の意識集合体に引越しの菓子折りを持っていかなければならないからな。暇になったら呼ばれなくとも勝手に降りてこようと思っているから楽しみに待っているがいい。それでは……』
ローレライは大げさな手振りでごほんごほんと咳払いをしてみせてから、わざとらしく尊大な空気を醸し出し、言った。
『私の視た未来がわずかでも覆されるとは……驚嘆に値する』
「それ言わなきゃ登れないのか?!」
『お約束という奴だ。では、さらば』
言うだけ言って、ローレライは派手に光をまきちらしながら空の彼方へと去って行った。しばらくその軌道をぽかんと眺めた四人だったが、その中から一番最初に動き出したのはルークだった。自分の腕につけていたソーサラーリングを感慨深げにじっと見つめ、呆けていたアッシュへとしがみ付く。
「なあなあアッシュ、これで俺とアッシュの大爆発はもう起こらないんだよな?!」
「え?!あ、ああ、きっとそうだろう。そうじゃなければ音譜帯に行ってローレライを引きずり下ろしてこなきゃならねえ」
「そっか、えへへ……これで何も心配する事無く、アッシュといつまでも一緒にいる事が出来るんだな……!よかった!本当によかった!」
ルークの本当に嬉しそうな無邪気な笑顔を間近で見て、アッシュの頬が染まる。そうだ、どうせこれでハッピーエンドなのだ、この後はもうエンディングなのだ、それならばさらに最高なハッピーエンドを期待しても、いいのではないか。覚悟を決めたアッシュが、ルークの両方をがっしと掴んだ。
「ルーク!」
「ふわっ?!なっ何だよアッシュ」
「ルーク……これでもう何のしがらみもない状態だ、だからこそ俺は言うぞ……。俺と、俺と……結婚してくれ!」
「諸々すっ飛ばしていきなり結婚かよ?!」
横からシロが突っ込みを入れるが、当人たちには聞こえていない。突然の告白に、目を丸くしたルークの顔が徐々に赤みを帯びて、自然と口元が笑みを象る所を、アッシュは真剣な眼差しで見つめる。その心からの幸せそうな笑みが、もう答えと言ってもよかった。胸を躍らせるアッシュに、口を開いたルークが何か言う前に。
二人の間を、刃が引き裂いた。
「うわっ?!」
「何だと?!」
「貴様……まさか全てが終わったと、勘違いしているんじゃないだろうな?」
地を這うような迫力のある声。ハッと顔を上げたアッシュが見たのは、こちらを見下ろす修羅の顔であった。最早その頭には悪魔の角さえ見える。顔色を一気に赤から青に変えたアッシュの鼻先へ、クロが抜いた剣の切っ先が突きつけられる。
「今、この場でその身に叩きこんでやる。終わったんじゃねえ……今始まったばかりだってな」
「ら、ラスボスだー!」
アッシュは確信した。目の前に立ちふさがるこの男こそが真のラスボスなのだと。確信したと同時に飛び起き自分の剣を抜いたアッシュが、気圧されそうになる心を奮い立たせながら叫び返す。
「じょ、上等だ!さっさと魔王なんぞブチ倒して、ルークを手に入れてやる!」
「はっ、周回遅れのてめえが俺からルークを奪うなんて、百万年早いんだよ!」
「ルークはお前のもんじゃねえだろうがこのどうしようもない親馬鹿が!」
「ルークは二人とも俺のものだ屑が!」
「ツンデレ忘れてジャイアニズム発揮するな屑がー!」
こうしてラスボス戦は始まった。激しくぶつかり合う二つの剣は、しばらく止まる事は無いだろう。そんな様子を、シロとルークが最早何も言えずに呆れた目で見つめるだけだった。
「はあ、やっぱこうなるのか……ルークお前大人気だな」
「んーでもやっぱりさすがに結婚は俺も早いと思うぞ?」
「だ、だよな?やっぱりもうちょっとこう、段階を踏んでからだな……いやそもそも男同士での結婚がだな……」
どこかホッとするシロに、ルークは満面の笑みを向けた。
「やっぱり俺達の結婚はクロとシロが結婚してからだよなー!」
「そうそう、やっぱり年上から順番にーって、はあ?!」
「なあ、いつ結婚するんだ?むしろ今からするか?今なら世界も救われたし帰ったら皆揃ってるし絶好の機会じゃね?よしそうしよう!」
「いやあの、まず結婚するしないの次元の話で……ていうか男同士の結婚がまずさあ……」
「何だよ、シロはクロと結婚したくないのか?」
「いっいやその、したくないって事じゃなくてな、一般常識的にまず出来るか出来ないかの所でだな?」
「クロが嫌いなのか?」
「いやいや嫌いな訳ないしそういう話じゃないし!」
「好きなんだろ?」
「……はい」
「じゃあ決定!俺皆に知らせてくる!クロとシロが今すぐ結婚式するって!」
「だから何でそうなるんだよー?!」
突っ走るルークとそれに追いすがるシロ、そして死闘を繰り広げるアッシュとクロ。
四人を温かく見下ろす空には、今一本増えたばかりの音譜帯が、いつまでも見守っているのだった。
もうひとつの結末 最終回!!!!
もちろん嘘です☆ハッピーエイプリル!
12/04/01
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