長兄松が突然ジャングルに飛ばされたようです。







 パターン1


目を覚ましたら、そこはジャングルでした。

「はあ?何これ?何でこんな事になってんの?ここどこ?」

予想だにしていなかった事態に、おそ松は呆然と空を見上げた。鬱蒼と生い茂る高い木々の間から、ぎゃあぎゃあと騒がしい鳴き声を上げながら空を飛ぶ大きな鳥の姿が見える。おそ松たちが目を覚ました地面は少し開けていて、この小さな広場を囲むように蔦の巻きつく木の幹がどこまでも生え揃っていた。この緑の中へ一歩でも足を踏み入れれば、数メートル先でさえ満足に見渡せ無さそうだ。明らかに赤塚市とは思えないようなジャングル。その中におそ松と、すぐ下の弟カラ松は転がっていた。

「ええー……昨日は普通に布団に寝たはずだけど?何でぇ?もしかしてこれ、夢?」
「むにゃむにゃ……フッ、逃げないでこっちへおいで、カラ松ガー……い゛っ?!いででっ!」
「痛いか。そんじゃあやっぱり夢じゃないな、これ」

未だ夢の中にいたカラ松の頬を抓り上げて、おそ松は目の前の光景が現実であると理解した。突然の痛みにようやく目を覚ましたカラ松は「ホワッツ?!」とか何とか叫びながらあたりを見回している。自分が兄に頬を抓られた事には気付いていないようだ。これ幸いとばかりに、おそ松は何事も無かったかのように微笑みかける。

「はよぉカラ松。突然だけどこの光景、何に見える?」
「え?……ジャングル?」
「だよなー!俺達目を覚ましたら突然このジャングルの中にいたんだけど、お前心当たりない?」
「えっ」

尋ねかけられ、ぽかんとしばらく呆けていたカラ松は、やがてハッと意識を取り戻して懐から何かを取り出した。それは彼が肌身離さず持ち歩いている、何代目かもわからないサングラスだった。ジャングルの中に突如放り出されても、これだけは持ってこれたらしい。

「分かったぜ。つまりイタズラなジャングルのフェアリーが、この俺に惚れて夜のうちに攫いに来た訳だ。まったくワガママなハニーだぜ……超常現象にさえ愛されてしまう、俺……!」
「ここって俺達だけしかいねえのかな。おーいチョロ松一松十四松トド松ー!長男様が呼んでるんだからいてもいなくても返事しろー!」

寝言をほざく弟はサクッとスルーし、この場には見当たらない残りの弟たちへ無茶振りを呼びかける。しかし返ってくる声は一つとして無く、隣で鏡が無いとマイペースにブツブツ呟くサイコパスだけしか近くに存在しない事が分かった。おそ松はうんざりと立ち上がって頭を掻いた。

「マジかよ、ったくしゃーねえな。おいカラ松、いつまでもこんな所にいないで、とりあえずどっか行こうぜ」
「ん?それはいいが、一体どこへ向かうんだ?」
「はあ?んなの決まってんじゃん」

見上げてくるカラ松に、おそ松はビシッと指を突きつける。人に指を差してはいけませんなどという常識は、彼の頭の中にはない。

「家だよ、家!赤塚の我が家!俺達がニートのまま生きていけるのはもう養ってくれる親のいるあそこしかないの!だから何が何でも帰んぞ!たとえジャングルで生き残るためでも俺は極力働きたくない!」

最低な物言いである。それを真正面で受けとめたカラ松はおもむろに立ち上がり、こんな状況下でも働く事から逃げ続ける兄へ呆れた言葉を掛ける、かと思いきや。

「おそ松……」
「なに?」
「お前は……フッ、さすが俺の兄貴だ。俺もこんな炎天下の中で出来る限り働きたくない。弟たちを誰か見つけたら代わりに働いてもらいたいぐらいだ」
「おー!いい案だねえ。そうしよそうしよ!最優先事項は家に帰る事でー、弟たち誰か見つけたら全力で助けてもらおーう!」
「イエス!ナイスアイディア!」

クズである。はなから弟たちの事を兄として助ける事は放棄し、二人は並んでどこへともなく歩き出した。向かう先は適当だ。だって方角分かんないし。
と、その時。脇の茂みがガサリと大きな音を立てたかと思うと、そこにおどろおどろしい仮面をかぶった裸の男が現れた。右手には石を削って作ったのだろう槍、左手にはそこの大きな木を切り倒して作ったのだろう盾を持っており、明らかに非友好的な原住民族といった雰囲気を醸し出している。そう、例えばよそ者を捕まえて彼らだけが信奉する神への生贄にしてしまいそうな、そんな空気。
同時にびしりと固まったおそ松とカラ松は、原住民族が意味不明な言葉を叫び出した途端、同時に飛び上がっていた。

「「ぎゃああああああ!!」」
「○×▼%☆_□!!」

二人が一目散に逃げ出した後ろを、原住民族が槍を振り回しながら追いかけてくる。足並み揃えてジャングルの中を駆ける二人は、ただひたすら脇目も振らずに逃げる事しかできなかった。

「なっなに?!なにあれ!誰あれ!どーして俺達追いかけられてんのー?!」
「とととっとにかく今は逃げるんだぁー!」

ひええええ、と情けなく絞り出される二人分の悲鳴は、広い広いジャングルの中をどこまでも響き渡って行った。



 バカ&イタイな上二人クズの場合
 (通常)





 パターン2


目を覚ましたら、そこはジャングルでした。

「すげーっジャングルだ!初めて見た!どこだここー?」

きょろきょろとあたりを見回しながら、おそ松が感嘆の声を上げた。鬱蒼と生い茂る高い木々の間から、ぎゃあぎゃあと騒がしい鳴き声を上げながら空を飛ぶ大きな鳥の姿が見える。おそ松たちが目を覚ました地面は少し開けていて、この小さな広場を囲むように蔦の巻きつく木の幹がどこまでも生え揃っていた。この緑の中へ一歩でも足を踏み入れれば、数メートル先でさえ満足に見渡せ無さそうだ。明らかに赤塚市とは思えないようなジャングル。その中におそ松と、すぐ下の弟カラ松は転がっていた。

「カラ松、カラ松起きろよ!ジャングルだぞジャングル!すげーぞ!」
「う゛っ……?!んん……どうしたんだ、兄さん……」

横でまだ眠っていたカラ松を興奮もあいまった容赦のない力で叩き起こせば、目を擦りながらも何とか起き上がる。そして目の前に広がるジャングルの景色を見て、言葉を失った。

「な……?!こ、これは……」

自室で眠って起きたら突然こんな場所に放り出されていたのだ、驚くのも無理はない事態だ。が、しかし、そのまま驚愕の声を上げるかと思われたカラ松の口は、別な言葉を紡いでいた。

「すごいな!!!本当にジャングルだぞおそ松!」
「な!!!すげえよな!」
「ああ!!!ところでここはどこだ?!」
「知らねえ!!!!!」

尋ねるカラ松に、平然と答えるおそ松。なんだそっかーとケラケラ笑い出す二人だったが、しばらく見知らぬ動物の鳴き声ばかりが響くジャングルの中で笑い合った後、二人同時にとある事に気付いてしまった。
待てよ。このジャングルがどこかも分からないならば……このままじゃ、家に帰れないのでは?

「……カラ松」
「……おそ松」

互いに名前を呼び合って、おそ松とカラ松は視線を送りあう。見合わせた顔は先ほどまで呑気に笑っていたとは思えないほど真剣なもので。
しばらくそのまま同じ顔が同じ表情で鏡合わせのように見つめ合った後。二人は同時にばたーんと地面に転がっていた。

「やだやだやだやだーーーーー!!!!このまま家に帰れないのはやあだぁぁぁぁ!!!!」
「んなの俺だってやだーーーーー!!!!勝手に洗濯されて飯が出てくる環境に早く戻りたいいぃぃぃぃぃ!!!!」

とても成人男性とは思えぬ所業で、誰にも届かない駄々をこね出すどうしようもない二人。もしもこの場に誰かいたとしても、100人中99人が呆れるか見なかったふりをして足早に立ち去るだろう光景だった。残念ながらこの見苦しい駄々っ子を諌めるものさえ誰もいない。しかしそこへ、まさかこの場を立ち去らない100人中1人の人物が現れるなど、誰が予想出来ただろうか。

「○×▼%☆_□!!」
「「えっ?」」

突然耳に入ってきた聞き慣れない言語に、地面の上でじたばたと暴れていた二人は同時に動きを止めていた。いつの間にか傍に何者かが立っていた。おどろおどろしい仮面をかぶった裸の男だ。右手には石を削って作ったのだろう槍、左手にはそこの大きな木を切り倒して作ったのだろう盾を持っており、明らかに非友好的な原住民族といった雰囲気を醸し出している。そう、例えばよそ者を捕まえて彼らだけが信奉する神への生贄にしてしまいそうな、そんな空気。
意味不明な言葉と意味不明なたたずまいに、一瞬固まったおそ松とカラ松は。突如現れた第三者に悲鳴を上げて逃げ出し、たりはしなかった。

「人だー!すんませーん俺達帰り道が分からなくて困ってるんで助けてくださーい!腹減ったー!」
「こんなジャングルの中で人間に会えたセラヴィー!出来れば肉!肉を出してくれれば俺が喜ぶ!」

警戒心ゼロな笑顔でスタコラと原住民族へと近づいてくおバカな二人。ここに誰か一人でも弟がいれば、「このバカ長兄どもがー!」と殴ったり引き摺ってでも止めてくれただろうが、残念ながらこの場にいるのは、どこまでも無邪気な長男と次男だけであったのだ。

「喉も乾いているぜ!」とか、「俺酒が飲みたーい!」とか、好き勝手にニコニコさえずる赤と青が、原住民族に首根っこ捕まえられてブラブラと運ばれた後……
彼らの姿を見た者はジャングルにいなかった。



 ようじょ&ようじょの場合
 (弟松たちが保護しにくるタイプのあのアレ)
 (公式で駄々をこねてみせた、たった二人のようじょ(成人男性))





 パターン3


目を覚ましたら、そこはジャングルでした。

「……それで、おそ松。お前今度は一体何をやらかしたんだ?」
「起きて一番最初の発言がそれぇ?!この状況が俺のせいって情報も一切無かったよね?!」

鬱蒼と生い茂る高い木々の間から、ぎゃあぎゃあと騒がしい鳴き声を上げながら空を飛ぶ大きな鳥の姿が見える。おそ松たちが目を覚ました地面は少し開けていて、この小さな広場を囲むように蔦の巻きつく木の幹がどこまでも生え揃っていた。この緑の中へ一歩でも足を踏み入れれば、数メートル先でさえ満足に見渡せ無さそうだ。明らかに赤塚市とは思えないようなジャングル。その中におそ松と、すぐ下の弟カラ松は転がっていた。
そしてほぼ同時に目を覚ました二人は向かい合って腰をおろし、開口一番にカラ松が胡乱な瞳でおそ松を見つめてきた訳である。

「こんな意味の分からない事態、この場に俺とおそ松しかいないのなら、原因はほぼ間違いなくお前だろう」
「何その根拠のない自信!違うから!俺だって心当たり全くないっつーの!当然のようにお兄ちゃん疑うのはやめて!」

おそ松が地面を叩いて憤慨すると、カラ松はなおも疑いの目を向けながらもそれ以上詰問してはこなかった。こいつめ、まだ長男様が何かしでかしたんだろうと疑っていやがる。己の無実をとことん訴えたい気持ちであったが、今はとりあえずそれどころではない事ぐらいおそ松にだって分かっていた。そもそも、辺りを注意深くも見渡し始めた目の前のこの男が、大人しく話を聞いてくれるとは思えない。何せこの次男、弟相手だとでろでろに甘く責めやしないしやり返したりも基本しないが、唯一の兄であるおそ松にだけは遠慮も何もなく接してくるのである。つまり、疑わしいと思ったらとことん疑ってきやがるし、殴りたいと思ったら容赦なく殴りかかってくるし、愛想も手加減も別に兄相手ならば必要ないと思っているからとことん素のままだ。
それはまあ別にいいんだけど。弟に向ける甘ったるいアレソレを少しでも実兄にだって分けてくれても罰は当たらないんじゃないかなあ、と少しぐらい思わないでもないおそ松なのである。

「あーあ、っと。それで?これからどーするカラちゅん?」
「その呼び方やめろはっ倒すぞ。とりあえずもっと見通しの良い場所に出たいな……」
「んだね。でもどっち行ったらいいのかさっぱり分かんねえや。どー思う?」
「俺にばっかり尋ねてないで少しは自分の頭で考えろ」
「お前ほんっと俺に対して塩対応な!!」

そうしてぎゃーぎゃー言い合っていれば、突然傍の茂みが音を立てて揺れ、人影が飛び出してきた。とっさに二人でびくりと後ずさる。現れたのは、おどろおどろしい仮面をかぶった裸の男だ。右手には石を削って作ったのだろう槍、左手にはそこの大きな木を切り倒して作ったのだろう盾を持っており、明らかに非友好的な原住民族といった雰囲気を醸し出している。そう、例えばよそ者を捕まえて彼らだけが信奉する神への生贄にしてしまいそうな、そんな空気。
これはヤバい。ヤバいやつだ。直感でそう思ったおそ松は、さてどうやってこの目の前に現れた災厄から逃れようか、普段はあまり使わない脳みそを働かせて考えようとした。しかしその前に、がしりと背後から何者かに胴体を掴まれてしまう。

「へ?え?」
「先手必勝!頼んだおそ松っ!」
「はああああっ?!」

そのまま勢いよくおそ松を持ち上げ、原住民族へと投げつけたのはもちろんカラ松で。突然の出来事に大混乱を極めたおそ松は、それでも宙を移動しながらとっさに右足をつき出して迫りくる原住民族を蹴り倒していた。人がまさかいきなり飛んでくるとは思いもしていなかったらしい原住民族は、槍や盾を構える事も出来ないままおそ松の下敷きとなってしまう。解読不能な言語で悲鳴のようなものをわめいていた仮面の向こうの顔も、地面の上に落ちてから沈黙してしまった。気絶してくれたのだろう。
無事に原住民族を撃退したおそ松は、へろりとその横に尻もちをついた。傍に平然と歩み寄ってきたカラ松が、その肩を叩いてぐっと親指を立ててみせる。

「パーフェクト!さすが兄貴だ、見事に敵をやっつけたな!」
「パーフェクト!じゃねええええ!!おっおまっいきなり兄貴を敵に向かって投げるやつがあるかっ?!」
「明らかに凶器を持っていたから、不意を突いて先に倒しておいた方が良いと思ってな、フッ……」
「それは分かったけどだからって何で俺を投げた?!凶器持ってるって分かってたのに!このサイコパスが!」

おそ松は至極まっとうに怒った。しかし対するカラ松はきょとんと首を傾げて、さも当たり前のことのように言った。

「だって、おそ松なら怪我する事無くあいつを倒すことぐらい簡単に出来るだろう?」

その、本気でそう思っているのだと分からざるを得ない純粋無垢な瞳に、おそ松は反論も何もかも飲み込んでぷるぷる震えるしかなかったのである。

「……お前さ……ホンットお前さあ……!こういう時だけ全信頼寄せてくんの何なの?ズルすぎるよな……?!」
「とりあえずこいつが来た方向に行ってみるか、人里があるかもしれない……おそ松、何してるんだ。震えてないでさっさと行くぞ」
「ア゛ーッ!次男の飴と鞭の落差が激しすぎぃ!助けて赤塚センセー!!」

おそ松の悲痛な叫びは、兄を信頼しているがためにとことん素顔な弟の胸には、ちっとも届かないのだった。



 長男にだけ塩対応な次男の場合
 (唯一の兄にだけ遠慮しないっていう次男の特別感が好き)
 (この人になら何しても大丈夫っていう絶対的な信頼があるからこそのアレ的な)






 パターン4

目を覚ましたら、そこはジャングルでした。

「カラ松ぅ、生きてる?」
「ああ、生きてる」

鬱蒼と生い茂る高い木々の間から、ぎゃあぎゃあと騒がしい鳴き声を上げながら空を飛ぶ大きな鳥の姿が見える。おそ松たちが目を覚ました地面は少し開けていて、この小さな広場を囲むように蔦の巻きつく木の幹がどこまでも生え揃っていた。この緑の中へ一歩でも足を踏み入れれば、数メートル先でさえ満足に見渡せ無さそうだ。明らかに赤塚市とは思えないようなジャングル。その中におそ松と、すぐ下の弟カラ松は転がっていた。
とりあえず寝転がったまま辺りを見回して現状把握と、声を掛け合って生存確認を済ませて、二人は同時に起き上がった。

「うへえ、何だココ。どうして俺たちいきなりこんな所にいる訳?」
「さっぱり覚えていないな……ここはジャングルか?日本じゃないのか?」
「さーなあ。もしかしたらまた、ダヨーンに吸い込まれたってオチかもしんねえけど」
「むしろそうであってくれた方が分かりやすいんだが、空が見えるしなぁ」

よっこいしょと立ち上がって、それぞれ軽く体を動かして具合を確認する。実にいつも通りだった。不調や異変が何もない事を確認した後、改めて辺りを見回す。野生の生き物が木々の向こうに息づいている気配はあちこちからするが、それだけだ。人間が自分たちと同じように辺りを窺っているような気配はどこからもしない。つまり、間違いなく今おそ松とカラ松は二人きりという訳だ。
無言でそれを感じ取った二人は、ふと同時に視線を合わせる。口を開いたのはカラ松が先だった。

「おそ松、大変だ。弟たちがいない」
「マジでな。どこ行ったんだあいつら」
「……いや、もしかしたら俺達だけがこのジャングルに飛ばされた可能性が?」
「あー、それもあるなあ。こんな訳分かんねえ事態、巻き込まれてないのが一番だけど」

近くにはいない。しかし、もしかしたらもっと遠くの別な場所に落ちている可能性はある。姿が見えない以上可能性は捨てきれないのだ。しばらく迷うように落ちた沈黙を、今度はおそ松が頭をがりがり掻きながら破った。

「とりあえず移動するかあ……このまま丸腰じゃ探せるもんも探せねえし。まずは俺たちが生き残んなきゃだし」
「そうだな。ひとまず落ち着ける場所、せめて水場でも近くにあればいいんだが」

今後の計画をつらつらと語りながら歩き出す二人。その前方に突然、がさりと人影が現れた。深い茂みの中から不意を突くように現れたのは、おどろおどろしい仮面をかぶった裸の男だ。右手には石を削って作ったのだろう槍、左手にはそこの大きな木を切り倒して作ったのだろう盾を持っており、明らかに非友好的な原住民族といった雰囲気を醸し出している。そう、例えばよそ者を捕まえて彼らだけが信奉する神への生贄にしてしまいそうな、そんな空気。

「○×▼%☆_□!!」

槍を振り上げ、盾を構え、威嚇するように飛び出してきた原住民族。常人ならば悲鳴を上げて逃げ出すであろう出来事に、おそ松とカラ松は視線も合わせる事無く同時に前へと駆け出していた。前へ、つまり迫りくる原住民族の方へ、である。まさか問答無用で向かってくるとは思っていなかったらしい原住民族がびくりと動きを止めた。その足に、おそ松が鋭く足払いを掛ける。抵抗するまもなく宙に浮く無防備な身体に、カラ松の拳が容赦なく突き刺さった。一秒にも満たないような連携技に、原住民族は悲鳴を上げる暇すらなかった。
ドゴォ、と、巨木にめり込む裸体の男。そのままずるずると地面に落ちた体は、起き上がる事無く沈黙した。そんな哀れな原住民族を、一声もあげる事無く打ちのめした二人が無感情に見下ろす。

「何だこいつ。ジャングルに住んでるタイプの人間?」
「武器を持っていたからとっさに落としてしまったが、意識は保たせておくべきだったか」
「えーでも言葉通じなかったっぽいよ?無駄じゃね?」
「いや、こいつの住処まで案内してもらえば、食糧とか奪……分けてもらう事も出来ただろう?」
「そっか、なるほど。武器とか下僕……協力者も調達できるかもしんないしな。そんじゃ、起こす?」
「そうしよう」

頷き合って、何度か足で蹴って原住民族を起こしにかかる。その際持っていた槍や盾を遠くへ放り投げておくことも忘れない。果たして運悪く目覚めてしまった原住民族は、にっこりとほほ笑む二色の鬼に出会う事となる。

「グッモーニン異国の民。起きて早々悪いが、お前のホームに案内してくれないか?なあに、悪いようにはしないから」
「あー、俺達の言葉分かる?分からなくても分かって貰わなきゃ困るんだよなあ。拳で語りあえば分かってくれるかなあ?」

ゴキゴキと手を慣らしながら、なるべく笑顔で身振り手振り話してみると、原住民族は仮面の向こうを青く染めさせながらも何とか意味を理解してこくこくと頷いた。やはりこういう時の肉体言語である。イエーイとハイタッチするおそ松とカラ松を目の前に、可哀想な原住民族はガタガタ震える事しか出来なかった。
かくして、近くの平和な原住民族の里が阿鼻叫喚の渦に巻き込まれるまであと数十分。逃げろ、原住民族たち。


 割と対等にクズな長兄松の場合
 (本当はもっとカリスマとスパダリ溢れるかっこいいお兄ちゃん二人になる予定だった)
 (クズからは逃れられぬ運命)






16/04/14



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