※これからの軌跡シリーズでこんな展開は死んでも起こさないでください小説※


※閃の軌跡Uネタバレ注意※


※かなり重要なネタバレあります※


※未来捏造しています※


※流血表現があります※


※死ネタです※


※救いがありません※


※助けてください※






















――親子の愛とは、血の繋がりに関係は無いと知っていた。
5歳の頃より育ててくれた父と母には、自分と血の繋がりが無い事は最初から分かっていた。それなのに実際に血の繋がりがある妹と区別されていると感じた事は、今まで一度として無い。分け隔てなく、本当の息子の様に尽きる事のない愛を注いでくれた。父も、母も、妹すらも、真実を知った自分の事を変わらず抱き締めてくれた。包み込んでくれる暖かさに、これこそが家族の温もりなのだと、本当の愛なのだと改めて感じた。だからいつお前の両親は誰だと尋ねられても、今も自信を持って彼らだと答えるだろう。自分の家族は他の誰でもなくあの温かな人たちで、自分の帰る家は間違いなく彼らの元だと。何の迷いもなく宣言するだろう。

そもそも“あの人”に良い感情というものを持ったことは一度も無い。憎しみなら幾度も抱いたが、親しみなど感じる訳がない。第一印象からやや低めの好感度だった所に様々な黒い噂、帝国内乱のきっかけとなった死亡説、そして……“あの人”を憎む人から聞かされた、過去の所業。印象が上向く訳がない。そこから最悪のタイミングで真実が知らされた後から、今でも。
優しい言葉など掛けられた事は無い。血の繋がった親子らしい会話なんて皆無で、その眼はいつも、ただのゲームの駒を映しているだけだった。自分の事を息子どころか人としても見ていない男にどうして父親らしさなど感じる事が出来るだろう。“あの人”が実の父親なのだという話は嘘だったのだと、誰かに打ち明けられるのを未だに待ち望んでいるほどだ。

そう、それだけの人だった。いくら血が繋がっていようとも、他人は他人だった。むしろこの帝国を、いや大陸全てを己の野望のために巻き込もうとする、紛れもない敵であった。その恐ろしく巨大な計画を止めるためならば、この手でその命ごと断ち切る覚悟は持っていた。

それだけの人だった。


そのはず、だった。





「……どう、してッ……!」

誰かが引き絞るような悲痛に濡れた声を上げる。
どうして。
ぼんやりとその言葉の意味を考えながら、垂れ下がる左手を持ち上げて己の胸に手を当てる。次々と溢れる温かなぬめり。それを微かに見下ろして、奇しくもこの場所に風穴が空いているのを見るのはこれで三回目だと、思わず口元に笑みを浮かべた。
一つは、真実を知ったあの日。先輩で悪友で大切なクラスメイトだった、あいつの最期に。
もう一つは、一番最初。かつて謎の力により遠くから映像で見せられた、……今しがた背後に庇った“あの人”の胸に。
あの時あいつが言っていた言葉を思い出す。
ああ、確かにこれは、因果応報なのかもしれない。

「……っはは、……」

己の口から洩れた笑い声は、空気にかすれて余計に空虚に聞こえる。

どうして、だなんて。自分でも良く分からない。

「な、んで、だろ……」

喉の奥からも溢れる鉄くさい液体を吐き出しながら。
虚ろになっていく眼球を何とか動かし、ここまで共に辿り着いた仲間たちを一人一人見渡す。一様に皆、驚愕と深い悲しみに歪んだ目でこちらを見ている。理由は、分かっている。

本当にどうして。
どうして“あの人”が撃たれるあの瞬間、体が動いてしまったのか。

父親だと思った事は一度も無かったはずだった。
人としても決して慕える相手ではない。
自分たちに未来を示し一人死んでいったあいつの人生を滅茶苦茶にした事を思えば、今でも憎しみが蘇る。
沢山の人から恨みを買っているあの男ならば、死んでも当然だ。
今でもそう思う。
それなのに。
どうして。

どうして。


頬を流れるこの水は、どうして。



ガシャン


右手にしっかり持っていたはずの太刀が落ちる。
足元から力が抜ける。
最期の力を振り絞って振り返ったその顔は。
思っていた通り、いつもと変わらぬ何の感情も篭らない鉄仮面で。


でも。



「――……父、さん」



リィン。



音を失う最期に聞いたその声が、自分を呼んでいるような気がした事が。

暗く染まっていく視界に映ったその瞳が、揺れていたように見えた事が。


気のせいでなければいいなと。



最期に、それだけを思った。


























「……ッいやあああ!リィン!」
「リィン……!」

音を立てて崩れ落ちたリィンの元に全員が駆け寄る。抱き上げられ、それでもぴくりとも動かないその体を、男は黙ったままただ見下ろしていた。仲間たちが必死に介抱するその姿を、それでも動かないその体をただただ見つめ、やがて。
くっと、笑い声を上げた。

「何が、おかしいの……」

信じられないものを見るような視線が向けられる。漏れ出てくる笑いを隠そうともせず、男ははっきりと言い放った。

「このように役に立つ日が来るとは、さすがに予想外だった。さすがは我が息子、良く出来た駒だったよ」

息を飲む音。憎悪の感情が周囲から溢れ出る。その中から一人が、激情に任せて男の胸倉を掴み上げた。

「あんたって人は!どこまで外道なんだよ!!」

今にも殴りかかりそうなその勢いを、しかし止める者はいない。なおも笑い続ける男をこのまま本当に殴り倒そうと腕を振りかぶった彼は。
ふと男の顔を見て、その手を止めていた。

「……は……」

思わず漏れる気の抜けた声。何事かと全員で見上げた先の光景に、揃って言葉を失う。男はまだ笑っている。動かない彼の息子を変わらず見下ろしたまま、笑い続けている。
男の胸倉を掴んだまま、正面からそれを見た彼は。呆けたように力なく振り上げた腕を下ろした後、何かを耐えるように歯を食いしばった。あまりの感情に身体が震える。その顔を殴り飛ばす事を諦めた腕が、代わりに男の胸に力なく振り下ろされる。

「……あんたが……!」

無理矢理絞り出した声もやはり震えていた。
彼はやり場のない怒りや悲しみをすべて叩きつけるように、男に吐き捨てた。


「あんたが、今更!!涙を流す資格なんて……ある訳、ないだろッッ……!!!」







とある英雄の最期





14/10/15


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