ガタン。ゴトン。ガタン。ゴトン。
線路の上を走る三両編成の電車は、規則正しく揺れながら少ない乗客を目的地へと運んでいた。空調の利かない古い車内は、それでも直接燦々と太陽の光が降り注ぐ外と比べたら天国のようなもので、駅について自動ドアが開閉するたびに地獄のような暑さが冷えた空気をかき混ぜていく。各駅停車のこの列車が、真に冷えることは無い。
それでも先ほどよりは随分と心地よい空調となっていた。町の中心部を抜け出す前には大勢の人が敷き詰めあっていた車内も、周りの景色に緑が増えていくにつれて続々と熱源は降りて行った。今までは引っ切り無しに誰かしらが腰を下ろしていた左右両脇の座席も、年季の入った青いシートを惜しげも無く晒している。まばらに腰掛けるのは数人の人々だけだ。
三両並ぶ列車の中でちょうど真ん中に当たるこの車両に座っているのは、五人。いびきをかいて寝ている老人が一人、小さな女の子と母親の親子連れが二人、そして、夏休みもまだなこの平日昼間に年若い黒と銀の男たちが、二人。

ガタン。
一際大きく列車が揺れる。足を揺らして座っていた女の子の手から、その拍子にころりと麦わら帽子が転げ落ちた。ちょうど線路が緩いカーブに差し掛かっていたせいで、麦わら帽子は面白いように転がっていってしまう。慌てて追いかける淡いピンクのワンピースが辿り着いた先は、どこか楽しげに外の景色を眺めていた黒髪の青年の元だった。
己の足にこつんと当たって倒れた真新しい麦わら帽子を拾い上げ、ぱたぱた駆け寄ってきた女の子へと優しい薄紫が笑いかける。

「どうぞ」
「ありがとーございます!」

ぱっと満面の笑みを浮かべた女の子が、元気いっぱいの感謝を述べる。人好きする笑顔を浮かべた黒髪の青年も、どういたしましてと軽く頭を下げる。和やかな二人の間に、横からひょいと顔を覗かせてきたのは彼と少し間を空けて座っていた銀髪の青年だった。

「よー嬢ちゃん、元気だなあ。かあちゃんと一緒におでかけか?」

突然話しかけられた女の子がきょとんと目を丸くするが、すぐに笑顔を取り戻す。女の子が人懐っこい事もあったが、己の膝に頬杖をついてニッと笑いかけてくる赤い瞳が、人の心の檻を瞬く間に解かしてくる温かさを伴っていたためだ。

「うん!おかーさんといっしょに、おばーちゃんちにいくの!」
「そっかそっか、楽しみだな」
「このぼーしもね、おばーちゃんが買ってくれたの!」
「ほー良かったじゃん、それならもう落とさないようにしっかり被ってねーとな」

銀髪の青年の言葉を受けて、黒髪の青年がそっと麦わら帽子を手に取って女の子の頭へと乗せてやった。両脇のつばをぎゅっと握って、女の子は嬉しそうに微笑む。そうして純粋な瞳が、隣り合って座る二人を交互に見つめた。

「おにーちゃんたちは、どこにいくの?」

無邪気なその問いかけに、赤紫と青紫の瞳は静かに交わされる。女の子の手前に座っていた黒髪の青年が代表して、少しだけ身を屈めた。内緒話をするように僅かに顔を寄せて、ちょん、と自分の唇に人差し指を当てる。

「ないしょ、だよ」

ぱちくりと瞬きをした女の子も、真似するように声を潜めて口元に手を当てた。

「ないしょ?」
「そう、ないしょ」
「おにーちゃんたちの秘密基地にいくの?」
「いや、そこまで立派なものは無いけどね」

くすくす声を漏らした黒髪の青年は、瞳を細めて柔く笑った。幼い女の子が、それでも何かを感じ取ってハッと目を瞬かせるほどには、深い意味を含んだ笑みだった。

「俺たち、逃げてる最中なんだ。だから、ないしょ」

ね、と微笑まれて、女の子はこくこくと頷く。一体何から逃げているのか、どこへ逃げるのか、ドキドキしながら尋ねようとしたが、まるでその問いを遮るように列車がガタンと揺れた。よろめく女の子の腕を黒髪の青年が取って支える。ガタゴトと揺れる景色が流れる様がだんだんと緩やかになってきた事に気付いた直後、後ろから母親の声が掛けられた。どうやら女の子の降りる駅にちょうど着いたのだった。

「すみません、相手をして頂いてありがとうございます」
「いえいえ、俺たちの方こそ話し相手になってもらって」
「じゃーな嬢ちゃん、ばあちゃんによろしくなー」

黒髪の青年が頭を下げ、銀髪の青年がひらりと手を振る。母親に手を引かれながら、女の子も二人の青年に手を振った。離れた所で気持ちよさそうに眠っていた老人も、女の子たちより先にさっさと外へ降りていく。手を振る青年たちだけが、列車の中へと取り残された。
カッと降り注ぐ太陽の光を麦わら帽子で遮りながら、女の子は母親へと尋ねかけた。

「ねえねえ、あのおにーちゃんたちはどこにいくのかな?」
「さあ。この先は遊ぶような場所も何にもないけどねえ」

母親もどこか不思議そうに呟く。親子が首を傾げている間に、背後の列車は再びガタゴトと音を立てて走り出してしまった。振り返ってももう、窓の向こうに並ぶ銀と黒を見る事は出来ない。ないしょ、と囁かれた声が女の子の頭の中を漂う。不思議な空気を纏った青年たちを、しかし女の子は前方に待つ大好きなおばあちゃんの姿を目にして、すぐに記憶の中から放り出してしまった。





ガタン。ゴトン。ガタン。ゴトン。

「とうとう誰もいなくなったなあ」

のんびりとしたクロウの声に、リィンは銀髪頭を振り返った。母親に連れられた女の子が降り立った駅はとっくに見えなくなっていて、高速に動く窓の向こうに映るのは色鮮やかな緑ばかりだ。茂みや木々が開ける瞬間があっても、その向こうに広がっているのは田んぼや畑ばかり、という景色がここずっと続いている。そんな風景を飽きる事無く見つめていた薄紫は、突然目に入れた白銀を眩しく感じて思わず一瞬だけ瞑ってしまった。普段はもっとくすんで見えるはずの銀髪がこんなに眩しいのは、窓から差し込む初夏の太陽の光のせいか、それとも。

「見ろよ、あっちの車両もこっちの車両も誰もいないぜ?正真正銘、俺たちだけの貸切電車だ」

クロウが指差す通りに右を見て、左を見る。小窓から見える向こう側の車両には、どちらにも確かに人影一つない。ここから先は無人駅が続いたはずだ。人は少ないだろうとは思っていたが、自分たち以外誰も居ない時間が訪れるとは思わなかった。
それを確認してから、リィンは僅かに腰を浮かした。中腰のままズルズルと横にずれてから再び座る。人一人ほど空いていた空白が埋められて、少しだけ高さの違う肩同士が触れ合いそうな距離になる。膝に置いていた手をおもむろにシートの上へと投げ出せば、自分よりも大きな手が当然のように重ねられた。緩い空調の中、じっと座ったままでいればじわじわと汗が噴き出してくるような温度で、それでも燃える様に熱い手の平を跳ねのけようとは微塵も思わない。抵抗する事無く静かに受け入れたリィンの手を、ぎゅっと握りしめてくる熱。頭を傾けて頬を隣の肩に寄せれば、同じようにこちらへと寄せられる重み。どちらからともなく、くすくすと笑みを漏らした。

「あっちぃ」
「あついな。熱でもあるんじゃないか?」
「そりゃお前だっての。俺の事溶かす気か」
「それこそこっちの台詞だ」

あついあつい、と文句を言いながら、どちらも触れ合わせた部分を離そうとはしない。リィンが笑えばクロウも笑う。クロウが文句を言えばリィンも同じだけ返す。触れ合わせた体温は同じだけ熱くて、互いに互いを溶かそうと躍起になっている。むしろすでに、とっくの昔に溶け合っているかのように伝染する熱、感情。
リィンはそっと目を閉じた。他に誰も居ない車内の景色が遮断されて、正真正銘二人だけの世界となる。リィンが感じるのは、自分と溶け合う同じ温度だけ。ガタン、とまるで戻って来いと揺さぶるような振動が襲ってきても、リィンは瞳を閉じたままひたすらクロウの温度を感じていた。
今はまだ。目を覚ます時では無い。




今初めて知った名前の駅で電車を降りた。
いくら見回しても人っ子ひとり存在しない、さびれた無人駅だった。真っ青な空は遮るものが何もなく、直接太陽の光を脳天へと降り注がせる。開け放たれたドアから熱されたコンクリートへと足を踏み下ろした途端、喉を焼くような熱気にむわりと包まれた。息苦しさに喘ぐように呼吸していれば、隣に立ったクロウもうへえと情けない声を上げる。

「まだ真夏じゃねえぞぉ……何だよこの暑さ」
「俺達も麦わら帽子か何か、持ってくるべきだったな……」
「だなあ」

ぼやいている内に背後の扉は締まり、今まで二人を乗せてきた列車がガタゴトと音を立てて動き出す。あっという間にスピードを上げたくすんだ車体は、どこまでも続く森の木々の間へとすぐに姿を消しただろう。二人は見送らなかった。視線はひたすら前へ、眼下に続く荒れた道の先を見ていた。
ブルーのシートに座っていた時からずっと繋がれっ放しだった右手を引かれる。汗まみれの手の平が気持ち悪い。きっと二人揃ってそう思っているくせに、握りしめられた力が緩むことは無い。前を見つめたまま、クロウが気軽な声を出した。

「行くか」
「うん」

素直に頷いて、リィンは手を引かれるがまま歩き出した。初めて歩く知らない道を、何も疑う事無く隣の温度を追いかけて。例え目尻の横を汗が伝い落ちても、ただひたすら、前を見据えたまま。

最初はアスファルトで舗装されていた道路も、集落へと続く曲がり角を無視して真っ直ぐ進んでいればやがて踏み慣らされた固い土の地面に変わった。いつの間にか緩やかな登り坂になっていた地平線の向こう側はまだ見えない。生い茂っていた木々がぽつぽつと隙間を見せる頃、ようやく森林を抜け丘の天辺に辿り着く。額に浮かぶ汗を繋いでいない方の腕で拭って頂きに辿り着いたリィンは、そのまま言葉を失った。普段から青みがかった薄紫色をしている瞳が、いっぱいに見開かれてより濃く蒼を取り込んだ。ひゅう、と嬉しげな口笛が隣から鳴る。

「やっと着いたな」
「海だ」
「ああ、海だ」

刺すほどの太陽の光をいっぱいに湛えた雄大な水面が、視界いっぱいに広がっていた。一応出かける前に、海が近くにあるという情報だけは頭に入れて飛び出してきたので驚きの登場というものではなかったが、それでも胸に満ちる感動は確かなものだった。この光景を目指してきたのだ。大きく息を吸い込めば、肺の中が潮の香りで満ちるのが分かった。
立ち止まったのも同時であれば、再び歩き出すのも同時であった。

「風が出てきたな」
「弱っちいけどな」
「無いよりはずっとマシだ」

示し合わせた訳でもないが、踏み出される足は揃って先ほどより速かった。歩みより速く、しかし駆け足より遅い歩調で何分進んだだろうか。緩やかな丘を下り細くなっていく最早獣道を進み、とうとう砂浜まで辿り着く。手を繋いだまま顔を見合わせ、せーのと勢いよく片足を突っ込めば、ビーチ仕様でないサンダルには容赦なく砂が入り込んできた。普通に不快だったが、歩みは止まらなかった。
ざくざくと足跡を残しながら、リィンはとうとう海の目の前までやってきた。繋いだ手を辿って隣を見れば、赤い瞳もこちらを見ていた。沖の方から吹いてくる風にたなびく銀髪が、眉をしかめてしまうほどに眩しい。

「とうとう来たぜ」
「とうとう来ちゃったな」

見ればわかるような意味の無い会話。確認するように囁き合って、海を見る。真夏のような光を浴びせる気の早い太陽も素知らぬ顔で、どこまでも穏やかな大海原が続いていた。控えめに寄せる波模様を横目に眺めながら、気付けば二人は波打ち際を歩き始めていた。間でゆっくりと揺らされる手の平と手の平は、握っているのが最早汗なんじゃないかというぐらいぐっしょり濡れている気がしたが、それでも頑なに離れなかった。
交通の便が悪い、海開き前の砂浜は静かだ。わざわざ遠くからやってきたリィンとクロウ以外誰も存在しない。翼を広げて遠くを飛ぶ鳥たちだけが、今この場に二人が存在している事を知っていた。それ以外はきっと知らない。誰一人すれ違わなかった、先ほどの無人駅を最寄駅としている町の人たちも。列車で乗り合わせたあの女の子や他の乗客たちも。二人が住み慣れた町に置いてきた、大事な人たちも。誰も。
海ばかりが広がるこの景色は今、たった二人だけの世界だ。

「さあて、どうする?」

ゆっくりと繋いだままの手を揺らして、のんびり足を進めていたクロウから不意に尋ねられた。きゅっと、とっさにリィンの握りしめる手に力が篭る。視線の先の水平線は、横目に見える銀髪と同じ色で輝いていた。
クロウはあえて言葉にしなかったが、その問いが二択である事をリィンは理解していた。理解していながら、尋ねかけてくる赤からそっと顔を逸らし、答えを先に延ばした。

「……もうちょっと」
「ん」

クロウは頷いた。そしてそのまま、ぶらぶらと気ままに歩き続ける。元々頭上からすでに傾いていた太陽は、吸い寄せられるようにぐんぐんと西へ移動していった。遮るものが何もない砂の上で、どんどん形を変えていく足元の影を引きつれた二人は、やがて打ち捨てられた家屋を見つけた。
おそらくかつては海の家として機能していたのだろう。海に面する壁は全て取っ払われた中は、畳があちこちはがれていたり壊れた机が転がっていたり、長い間放置されていたのが窺える。そんな中で、板も剥がれず比較的綺麗に残っていた縁側に、並んで腰を下ろした。ここに来て初めて味わう日陰での休憩だった。

「あ、暑い……」
「お前の髪は真っ黒だもんなあ、光集めて余計に暑そうだ」

ぐったりとリィンが頭を傾ければ、けたけたとおかしそうに笑ったクロウが繋がっていない手を伸ばしてきた。跳ね癖のある頭をかき混ぜて、マジであっちい!と大声を上げる。

「お前これ熱中症になってねえだろうな?」
「それは大丈夫、これぐらいでへこたれる鍛え方はしていないから」
「いや、鍛え方の問題じゃねえからな?……ん、顔色は悪くねえな、具合悪くなったらすぐ言えよ」

顔を覗き込んで、よしと満足げに頷いたクロウはそのまましばらく熱を散らすようにぐりぐりと頭を撫でた。くすぐったいと文句を言ってもやめてくれず、いい加減にしろと首を振ってようやく大きな手の平が離れていく。遮られた日の光にこっそり溜息をついて、それからしばらく二人の間には沈黙の時間が訪れた。
聞こえるのは穏やかな波の音と、微かな風の音、そして隣に肩を寄せる息遣いだけだった。リィンは再び二人だけの世界を意識する。目を閉じて、開いても、そこに映る人間はクロウだけだ。頑なに繋がれたままの手を見咎めるものは、誰も居ない。
どうする?と声に出して尋ねられた訳でもないのに、汗ばんだ手に力を入れられて問い質されてる気分になった。もうすぐ屋根に遮られていた太陽が覗き込んでくる時間帯。田舎の線路を走る列車はとにかく本数が少ないのだ。最後にあの無人駅に停車する時刻などはっきりとは調べていない。もしまたあの駅で乗るつもりならば、そろそろ戻らなければならないだろう。
もし、またあの列車に乗るつもりならば。

(俺の隣に、クロウがいる)

すう、と息を吸って、吐き出す。静かな波の音に混じる、二人分の呼吸音。

(クロウだけが、いる)


逃げてみたい、と言い出したのはリィンだった。クロウと二人だけで、二人だけしか存在しないような場所に逃げたい、と。
誰にも言えない恋だった。言ったところで、優しい友人たちも家族も、最終的には受け入れてくれるだろうという確信はあったけれども。それでも誰にも明かす事が出来ず、男が男に恋しただなんて知っているのは、リィンの一世一代の告白に、俺も、と答えてくれたバンダナ男だけだ。それでいいと思っていた。例え誰からも祝福されなくとも、想い合う二人の仲を知らなくとも、互いが互いの愛を知っていればそれでいい、と。本当に思っていたのだ。
己の心は実は密かに、疲弊していたのかもしれない。決して見せびらかし自慢する事の出来ない愛を抱えて、一人で勝手に傷ついていたのかもしれない。

クロウは、じゃあ逃げよう、とリィンの手を引いて列車に飛び乗った。何故とも聞かず、どこへとも尋ねず、準備も何もする事無く、ただただリィンだけを連れて逃避行の旅へといざなった。この海は、クロウがリィンへ贈ってくれた世界だった。誰にも邪魔が出来ない、二人の逃避行の最終地点だった。
互いの熱だけを、感触だけを、存在だけを感じていればいいこの世界は。
ああ、なんて。

(生きやすいんだろう)



寄せては返す水面から視線を外して、リィンはクロウを見た。穏やかな赤紫は、ただひたすらリィンだけを視界に入れて待っていた。お前だけだ、と言ってくれたこの愛しい人は、リィンが望む世界へとどこまでも引っ張って連れていってくれるだろう。それがどんな答えであっても嬉しそうに、いっそ無邪気に笑って共に歩んでくれるだろう。リィンが愛した男は、そういう人だ。

「クロウ」
「ああ」

呼べばトンと返される声。目を閉じて、海の匂いを嗅いだリィンは。
繋いだ手を離して、両手で目の前の頬を包み、唇を寄せて答えた。

「家に帰ろう」

僅かな沈黙。同じようにリィンの両頬を包んだクロウが、確認するように囁く。

「そうか、帰るか」
「うん」
「……おっし、それじゃ駅に戻って電車待って、帰るか!」
「うん」

にっと笑う顔に微笑み返す。かつて海の家だったそこから立ち上がって、もうすぐ夕焼けに変わりそうな太陽の下、まるで競い合うように走り出す。

「負けた方が帰りの電車賃な!」
「あ、ずるいぞ!悲しい事にリーチの差で俺の方が不利だ!」
「若さ舐めんな!二歳差でそんなんお釣が来るわ!年寄りをもっといたわれ!」
「ギリギリ10代で何が年寄りだ!」

大声で怒鳴り合い、手や足を振り回して駆けるその姿には今までのどこかしっとりとした雰囲気は微塵も感じられない。怒鳴り声がやがて笑い声になって、ただそこにある海の上へとどこまでも響いていく。

この笑顔が隣にあれば、どんな世界だって生きてゆける。リィンはそう思った。
ただまた、どこかへ逃げ出したくなったその時は。
この手を引いて、連れて行ってくれ。
どこまでも。






初夏のある日の逃避行





16/06/02


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