女神に代わって、お仕置きだ!
※セーラー○ーンパロディ小説です
※ギャグ200%です
※ガッツリ女装しています
※ただし色気はほぼ皆無です
※リィンのポジションはセー○ームーンですが衣装は絶対セー○ーマーズのが似合うという確信があったのでそうしましたキリッ
※少しでも「やばい」と感じたら全力で逃げてください
※(多方面に)ごめんなさい
「……すまない、もう一度言ってくれないか」
たっぷりの沈黙を取ってから、リィンはそう言った。もう一度、と言っておきながら、その顔はもう二度と聞きたくないと語るかのように困惑に満ちている。それはリィンだけでなく、周りにいるZ組の皆も似たような表情で立ち尽くしていた。ただ二人……いや、ただ一人と一匹だけが、状況を把握した様子でリィンの前に立っている。
その中の一人、エマは大変申し訳なさそうに俯いていて。もう一匹、黒猫のセリーヌは尊大な態度で、先ほどリィンに伝えた言葉を繰り返す。
「だから、あんたは選ばれたのよ。セーラー戦士に」
「……いや、いやいや。今すでにつっこみたい事がいくつもあるんだが」
「何よ」
一応聞いてやる、と言葉を止めたセリーヌに、ありがとうと頷いたリィンはすうっと息を吸い込み、一気にまくしたてた。
「まず、そのセーラー戦士っていうのが何なのかっていう事と、選ばれたってどういう意味だっていう事、それにどうして俺なんだっていう事と、そもそもセリーヌが普通に喋っているという事!一体何なんだ!答えてくれ!」
「もう、うるさいわね。そんなのいいじゃないどうだって。こういう時は細かい事は気にせずにノリで合わせてきなさいよ、真面目なんだから」
「細かい事じゃない、全然細かい事じゃない……!」
「り、リィンさん、落ち着いてください!お気持ちはとても分かりますけど……!」
混乱に拳を震わせるリィンに、エマが慌てて声を掛けてくる。助けを求めるようにリィンが見つめれば、彼女はうろうろと視線を彷徨わせた後、やっぱり申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみませんっ諦めて全てを受け入れて下さい!」
「そんな?!」
「そうそう、何事も諦めが肝心なのよ、分かった?分かったなら先に……」
「わ、分からない!諦められないから!大体、どうして今なんだ!」
リィンはばっと手を広げた。開いた手の平が指し示す先には、巨大なロボットが鎮座している。今まさに、この目の前に立ちふさがったロボット、もとい機甲兵の中に乗り込んだ帝国解放戦線の幹部<S>と学院を守るための死闘を繰り広げようとしていた、その矢先だったのだ。
この場にいる全員の視線が<S>に集まる。中に乗り込んでいるので表情は見えないが、器用にぱたぱたと機械の腕を振ってみせた<S>。その心中は。
『あ、私の事はとりあえず気にしないでちょうだい。何だか取り込み中みたいだから待ってあげるわ』
……これは絶対、面白がっている。
「だ、そうよ。続けていいかしら?」
「……まずは俺の質問に答えてほしいんだが……」
「はあ?面倒ね……仕方がないから今の状況を簡単に説明してあげる。あんたは特別な力を持つ者として選ばれたの。今までその力に覚醒する機会をうかがっていたんだけど、その時が今訪れた訳。ほら見なさい、あのでっかい機械に生身じゃ到底勝てないでしょう?どうしてあんたが選ばれたのかって質問には答えられないけど、この力さえあればあんなデカブツにだって簡単に勝てるわよ。どう、喜ばしい事でしょ?」
「あ、ああ……本当に勝てるなら、それは確かに喜ばしい事だけど……」
ちょうど今どうやって勝てばいいのか絶望していた所だったので、それは良い。しかしリィンにはまだ全く納得のいっていない事柄がいくつか残っていた。
「これは俺の勘なんだが、こういう場合に手に入る力って、もっとこう……あの機甲兵に対抗できるような、同じようなロボット的なものじゃないのか?」
「何、あんたロボットに乗りたかったの?やっぱ男っていつまで経ってもお子ちゃまねえ」
「そっそういう事じゃないから!」
セリーヌにやれやれと呆れられて、思わず恥ずかしくなって頬を赤らめるリィン。何となく、そう何となく思っただけなのだ。ここで己に降りかかる運命は、得体のしれない戦士への覚醒なんかではなく、濁点がつくようなかっこいい名前で自分専用の機神を呼んでロボット大戦を繰り広げる事ではないのかと。セリーヌには鼻で笑われてしまったが。
これ以上こだわってさらに笑われるのも嫌なので、とうとう一番の謎、というか認めたくない事について確認してみる事とする。
「……それでその、セーラー戦士って一体どういう……?」
「言葉通りのものだけれど」
事も無げに答えるセリーヌに、リィンは一度ごくりと喉を鳴らして、覚悟を決めて尋ねた。
「……まさかとは思うが、その……セーラー戦士のセーラーって、服装の事じゃないよな……?」
「まさかも何も、その通りよ」
「お、おかしいだろ!今の俺の想像通りのものだったとしたら、俺が選ばれるのは明らかにおかしい!なあそうだろ委員長!」
「えっ?!え、えっと、あの、そのっ」
横で聞いてたエマに振れば、挙動不審にうろたえる。一応エマもリィンの言う違和感を分かってくれてはいるみたいだ。ただ分かっていても止められないだけで。
もめるリィンたちの後ろでは、成り行きを見守っていたZ組の皆が顔を見合わせている。その中からガイウスが小声で尋ねた。
「リィンの言っているセーラーとは、一体何なんだ?」
「それは……多分、セーラー服の事でしょうね……」
どこか重々しくアリサが答える。セーラー服。主に学校の制服に用いられている、女子用の服だ。元々は水兵が来ていた制服を改造したものだと言われているが、少なくとも今現在の帝国ではセーラー服と言えば女学生が着るものが一般的だ。大きな襟とプリーツスカートが特徴的な、男にも女にもそれなりに人気が高い可愛らしい制服である。そんなセーラーの戦士ともなれば、その身に纏うのはおそらく。
皆がそれぞれ頭の中でセーラー服を思い浮かべる。おそらく全員似通ったものを想像しているだろう。両手で構えていた杖をぎゅっと握りしめ、エリオットが戸惑い気味に皆を見回す。
「……リィンが選ばれたなんて、ま、間違いなんじゃないかな?」
「間違い、だろうな。常識的に考えれば」
「そうだな……そうでなければリィンが不憫すぎるだろう……」
大変珍しく意見が一致したユーシスとマキアスも頷く。アリサからセーラー服というものを教えてもらったガイウスもリィンの対応に納得しているようだ。場の空気が自分に有利なものになっている事を肌で感じたリィンが、少しだけ元気を取り戻す。
「……ふむ、案外似合っているのではないか?」
しかしそんなかすかな希望も、ラウラの一言によってすぐさま打ち砕かれた。
「体型を少々誤魔化すことが出来れば、細身のリィンなら意外と着こなせるのではないかと私は思う」
「うん。ムキムキの校長とかよりは断然似合うと思うよ」
同調してフィーも頷いている。比べる対象が極端すぎるとリィンが抗議の声を上げる前に、楽しそうなミリアムが割って入った。
「いいね!セーラー服で戦うなんてそれ絶対面白……かっこいいよ!リィンやっちゃいなよー!」
「こ、こら!ちょっとあんたたち、真面目に考えなさいよ!セーラー服の戦士なんて明らかにおかしいでしょ!リィンの身にもなってみなさいよ!」
「アリサ……!」
女性陣から唯一自分の味方をしてくれるアリサを、リィンが感動した目で見つめる。このまま皆が思い直して正気に戻ってくれればいいのだが。しかしそんなアリサに、フィーの純粋な質問がぶつけられる。
「……アリサはリィンのセーラー服姿、見てみたくないの?」
「えっ……」
言葉を止めて、悩むように沈黙して、ちらっと意味ありげな視線を向けてくるアリサ。嫌な予感しかしない。いやいや、男のセーラー服姿なんて誰が見たがるというんだ、そんな訳ないじゃないか。面白がっているか純粋な好奇心以外でそんな見苦しいものを見たがる訳が……と、いろいろ考えながらリィンが何か言う前に、悩みに悩んだアリサが。
「……見てみたいか、見てみたくないかで言えばそりゃあ、見てみたいわね……」
「アリサー?!」
頷いてしまった。こうなったら男子たちも「まあ確かに見たくない訳じゃないけど」みたいに好奇心の方が勝ってしまう。これで多数決により、リィンがセーラー戦士という謎の存在になる事に賛成という意見が圧倒的に上回ってしまった。本人の意思は無視で。
セリーヌが勝ち誇ったようにリボンのついた尻尾を振りながらリィンの元にやってくる。
「ほら、あんた期待されてるわよ。観念してさっさと運命に従いなさいよ」
「こんな期待も運命もいらない……」
「あんたたちがどんな想像しているのかしらないけど、実際に変身してみない事には始まらないでしょ。その想像とはまったく別物なのかもしれないし。そういう訳だから、さっさとやるわよ」
「……変身?」
どういう事だと見下ろせば、リィンの足元にちょこんと座ったセリーヌは大きな猫目でじっと見上げてきた。こちらをまったく逃がす気のない、強い瞳だった。
「あんたは知ってるはずよ、特別な呪文を。旧校舎で聞いているはず」
「旧校舎……あの、得体のしれない敵を倒した時に頭の中に浮かんだ、あの言葉か……!」
リィンには心当たりがあった。妖しく輝く旧校舎の最奥で戦った強大な敵。辛くも勝利出来たあの後。あまりにも不可思議だったので誰にも言っていなかったが、確かにセリーヌの言う通り、とある言葉があの時目の前に現れていた。あの時から全ては始まっていたのだ。いいや、始まりと言うならばきっと、もっとずっと前から。リィンは拳を握りしめ、くっと悔しそうに俯いた。
「すでにあの時から、今の展開は決まっていたというのか……!」
「まあ、そういう事ね」
「戦い終わって旧校舎の奥の扉が開かれた時、現れたのがいかついロボットとかではなく何故かセーラー服っぽい制服一着だった時に気付くべきだったっ……!」
「あれはねー……皆で見なかった事にしたもんね……」
背後でエリオットが遠い目をする。あんなに激しい戦闘を繰り広げた後思わせぶりな巨大な扉が開いた先に待っていたのが可愛らしいセーラー服だったものだから、訳が分からなくてその場にいた全員で無かった事にしたのだった。それがいけなかった。
リィンが後悔している間に、横から駆動音が鳴り響く。いい加減待ちくたびれた<S>が動き出したのだ。
『そろそろいいかしら?展開のない茶番にも飽きてしまったわ』
「ほら、早く呪文を言いなさい!このままじゃ皆まとめてやられちゃうわよ!」
「う、ううっ……くそっ!」
<S>の操る機甲兵が大きく腕を振り上げるのを見て、リィンは覚悟を決めた。この先どんな辱めが待っていようが、皆を守るためならば耐えてみせる、と。
全てをかなぐり捨てる勢いで右手を空へ掲げる。そうして、「俺はこんなピンチの時に何をやっているんだろう」という己の心の声をなるべく聞かないようにしながらリィンは、ヤケクソのまま叫んだ。
「りっ……!リィンぷりずむぱわーめいくあっぷ!」
やっぱりどうしても最初に羞恥心が出てしまったが、何とか拙い言葉で言い終わる。と、途端に辺りに光が満ちた。光の中で何が起こっているのかは、誠に残念ながら本人の名誉のために差し控えさせていただく。
やがて少し長めに輝いていた光が薄れると、思わず機械の腕をかざして視界を確保していた<S>が驚愕の声を上げた。
『い、一体何なの、今のは!』
「ほら、敵に名乗って!変身系正義の味方の礼儀よ!」
一人、いや一匹冷静に成り行きを見守っていたセリーヌが鋭く声を上げる。その声を合図にして、光の中立っていた人影が用意されていた台詞を読むように名乗りを上げた。
「あっ、愛と正義、の、セーラー服び……びっ美少年?戦士、セーラーリィン!」
言葉を詰まらせながらも何とか名乗った、セーラー戦士へと覚醒したリィン。セーラーらしい襟と、可憐に翻るプリーツスカート、額を飾るティアラの宝石に、そして足元のハイヒールは全て情熱に燃える赤一色だ。唯一胸元を飾る大きなリボンだけが、瞳の色を濃くしたかのような紫色でより鮮やかさを演出している。その短すぎるスカートと生足ハイヒールに若干慣れないようによろけながらも、自然と思い浮かんでくるポーズを流れでとって、最後に腕を胸の前で交差させて、決めポーズ。
「女神に代わって、お仕置きだっ!」
決まった。バックに後光の差す空の女神(イメージ)の笑顔が浮かび上がっているかのようだ。場を盛り上げる勇ましいBGMまで鳴っていたような気がする。
一応最後はキリッと表情を作ったリィンだったが、一瞬のうちにその場にしゃがみ込んで、顔を覆ってしまった。
「……死にたい……」
「何沈んでんのよ、変身に成功したのよ!たどたどしかったけどまあ、初めてにしては上出来ね、もっと喜びなさい」
脇に平然とやってきたセリーヌを、リィンは羞恥に真っ赤な顔と涙目で睨み付けた。
「う、嘘つきだ!何が「想像とはまったく別物なのかもしれない」だよ、想像よりもっとひどかったぞ!スカートは短すぎだしリボンは大きすぎだしハイヒールだし歩きづらいし!」
「ワガママ言わないの、男がみっともない」
「男だから言ってるんだっ!こんな、こんな姿、皆に見られるなんて……!」
「ああ、その点は安心なさい」
ふふん、と得意げに笑うセリーヌ。
「変身した後のあんたは立派なセーラー戦士なんだから、よほどの事が無い限りリィン・シュバルツァーっていう正体なんてばれっこないわよ」
「えっ……顔思いっ切り出てるのに?!」
「不思議な力で問題なしよ!」
「名前がそのまま出てるのに!」
「不思議な力で以下略!」
「そ、そうか……今の俺が俺だと分からないなら、まだやっていける気がする……」
よろよろと立ち上がったリィンは、そっと後ろを振り返ってみる。そこではずっとZ組の皆がこちらを見守ってくれていたはずだが、果たして……。
「ほ、本当にリィンが変身した……?!」
「バカな、有り得ない……!」
「……本当に、セーラー服だな……」
「すごいな、一体どんな原理なんだ」
「ほう、やはり似合っているではないか」
「うん。ぐっじょぶ」
「あはははは!リィン可愛いー!ねっアリサ!可愛いねセーラーリィン!」
「そうね、赤がまた似合っててほんと可愛……って何言わせんのよ!」
「だ、大丈夫ですリィンさん、とっても似合ってますから!」
「……まあ、変身してるところを見られたらさすがにバレちゃうでしょうけどね」
「先に言えよおおおおおっ!」
思わずセリーヌを持ち上げてがくがく揺さぶる。ちょっと浮上しかけた気分をすぐさま叩き落されたのでショックもひとしおである。もし事前に知っていれば、今目の前に敵が立ちふさがっているという事実でさえもとりあえず置いておいて物陰に退避した後変身したというのに。
もちろん今の場面はZ組だけでなく<S>にもバッチリ見られていたので、敵にも正体は丸わかりである。武骨な機甲兵から笑いに震える声が落ちてくる。
『っふふふ……随分と可愛らしい姿になったじゃないの坊や。いいえ、お嬢さんと言ってあげた方がいいかしら?』
「よ、余計なお世話だっ!」
『面白いから色々と弄ってあげたいのだけれど……残念、時間が無いの。とりあえず今は、そこを退いてもらうわよ』
<S>が一歩踏み込んでくる。リィンに持ち上げられたままのセリーヌが、べしべしと肉球で頬を叩いてくる。
「来るわ!さっさと私を下ろして、武器を構えなさい!」
「ぶ、武器は一体何なんだ?!その、まさか魔法のステッキみたいなものがあるんじゃ……」
「何言ってんのよ、あんた自分の刀持ってたでしょ。それ使いなさい」
「セーラー服に着替えた意味は?!」
とりあえずセリーヌを放り出して刀を抜くリィン。セーラー服の脇に刀を差す姿はとてもシュールであるが、今は自分の姿の事に気を回している暇はない。ぶっちゃけ少しでも今の自分の姿について考え出すと、今すぐ寮の自室に帰ってベッドに籠ってしくしく泣きたくなるので考えないようにするしかないのだった。刀を振るうのに邪魔にならない衣装なだけマシだと前向きになるしかない。
さて、こちらへ向かってくる機甲兵にさっそく斬りかかろうとしたリィンだったが。寸での所でハッと思い直した。普段とはまったく違う有り得ないほどスース―する足元に気付いたのだ。
(あんまり激しく動くと……めくれる!)
残念ながらリィンはスカートというものを履くのが人生初めての経験なので、この短さでどうやって立ち回ったらいいのか皆目見当もつかなかった。あのスカートの短さで難なく戦闘をこなすZ組の女子たちに唐突に尊敬の念が浮かんでくる。今度コツでも聞いておこう、とアリサあたりが聞いたら一発叩かれそうな事を考えてから、リィンは刀を構えた。動けないならば、動かなくていい技を放つのみだ。
「くらえ、狐影斬っ!」
慣れ親しんだクラフトだ、機甲兵の足を止めるのにちょうどいい、といつも通り振るった刀から放たれたのは、しかしいつも通りの敵を遅延させる頼もしい力の塊とはちょっと違っていた。無駄に七色に輝くハート形の可愛らしい光が、ふわふわとキュートな動きで空中を漂ったのだ。
「うわあああ俺の八葉一刀流がファンシーな何かにいいいい!」
「セーラー戦士仕様よ。後でスーパーリィンミラクルアタックに改名でもしておく?」
「死んでも嫌だ……」
今度ユン老子に会ったら土下座して謝ろう、リィンが心の中で固く心に誓う。その間にも無残に姿を変えた狐影斬は<S>めがけてゆっくりと漂い、ぱちんと足あたりに当たる。途端に<S>の乗った機甲兵は後ろに吹っ飛び、音を立てて膝をついた。
『くっ、なんて威力なの!』
「しかも無駄に強い?!」
「今よ、トドメをさすの!あんたの額のティアラで!」
「え、こ、これか?」
セリーヌの導きに素直に従って額に手を当てる。今までつけた事も無いこのアクセサリーでどうやってトドメをさすのか。
「そのティアラを、リィンティアラアクションって叫びながら投げるの!」
「なっ投げればいいのか!」
「そう!私ブーメランよりアクション派なのよ」
「何の話だ?!」
「いいから早く!」
正直技名を叫ぶ必要がどこにあるのか分からなかったが、ここは言われた通りにするしかない。額のティアラをよいしょと取って、適当に<S>へと投げつける。
「り、リィンティアラアクションっ!」
自分の名前を連呼する恥ずかしさは抜けない。が、言葉に詰まっても適当に投げても何か女神の加護的な力が働いたのか輝きながら真っ直ぐ飛んでいったティアラは、恐ろしく固く特殊なバリアを持っているはずの機甲兵をたやすく真っ二つに切り裂いた。隙間からぼとりと<S>が出てきて信じられない顔でこちらを見てくる。
「う、嘘でしょ、今のふざけた一撃で機甲兵がたやすく裂かれるなんて……!」
「……嘘だろ……」
<S>はとても驚いているようだが、一番驚いているのはそんな一撃を放ったリィン自身である。尻尾を振ったセリーヌが足元で誇らしげに胸を張った。
「どう?これがセーラー戦士の力よ!これでセーラー服の威力をあんたも思い知ったでしょう」
「この力はセーラー服によるものなのか……?」
「リィン!すごいじゃない、あなたあっという間に勝ったわよ!」
「すごいや、リィン!」
リィンが呆然と立ち尽くしている間に、勝敗を見守ったZ組の皆が駆け寄ってくる。正直この姿の自分に近づいて欲しくなかったが、今は羞恥心より勝利の喜びの方がごくわずかに勝った気分であったので、振り返って笑顔で答えた。セリーヌがこれから何と言おうと、もう二度と変身するまい、と心の中で誓いながら。
……しかしそんな密かな誓いも、すぐに無残に捨て去る事となる。
「……ックク、覚醒したてにしてはなかなかやるじゃねえか」
「?!」
聞き覚えのある声。駆け寄る皆を静止してセリーヌを抱えてその場から飛び退けば、今まで立っていた場所に何かが突き刺さった。それが、先ほど己が放ったティアラとほぼ同じ光の塊であった事に気付いて、リィンの顔から血の気が引く。
「え……ま、まさか……」
考えたくない。でもそれしか考えられない。現実を受け止めきれないリィンの懐から、セリーヌが宙を睨む。
「とうとう現れたわね。もう一人の……セーラー戦士!」
ふらりとよろめいたリィンの正面。少し距離を取ってどこからともなく地面に降り立ったブーツのつま先を見つめる。背後のZ組の皆は揃って言葉を失っている。向こう側から<S>が、安堵の溜息を零した。
「来てくれたのね……<C>!」
「おうよ」
<C>と呼ばれたその人は、リィンが覚えている<C>の黒衣の服装とはまったく違っていた。足元に縫い付けられていた視線を恐る恐る上へと上げる。リィンの今の姿とほぼ色違いと言ってもいい、全体的に紫色のセーラー服。赤黒色の大きな胸元のリボンからさらに見上げた先に出会ったのは、あの、よく見知っているはずの赤い目。見開かれたリィンの瞳の先で、にやりと笑うその顔は。
いっそ威風堂々とした佇まいには、余計な恥かしさなど一切無い。恥を感じているこちらの方が恥ずべき存在だと見せつけるかのように仁王立ちしたセーラー服姿の男は、リィンに向かって高らかに宣言した。
「さあて、新米。このオレ様……セーラークロウ様に勝てるかよ!」
「あ……あ、あ……」
カタカタと体を震わせるリィン。目の前に立ちふさがった<C>……クロウに、一歩よろめくように踏み出す。様々な感情と言葉が止めども無く溢れ出てきては、瞬時に消えていく。予想だにしていなかった急展開と信じがたい現実に頭は混乱を極めていたが。
これだけは、言わねば。
「く、……クロウ……」
俯けば、ハイヒールを履いたままの己の足と出会う。それをぎりっと睨み付けた後、視線の鋭さはそのまま顔を上げた先の先輩に向け、ありったけの思いを込めてリィンは指を突き付け、叫んだ。
「なんで……何でお前はそんなにノリノリでセーラー服を着こなしているんだよおおお!!」
こうして出会ってしまった二人のセーラー戦士。
ここから帝国全土を巻き込んだ激しいセーラー戦士同士の戦いが今、始まったのだった!
「そんなもの、始まらなくていいから元に戻してくれーっ!」
続 か な い 。
14/08/13
戻る