ある日、いきなり俺に2人の弟が出来ました。
……って冗談じゃねえ!どこの恋愛シミュレーションゲームの設定だ!しかも大体妹だろ、妹!何で悲しいかな弟がしかも2人出来なきゃいけねえんだ!
しかもその2人の弟が……双子だとは!


「アッシュー?朝から何1人百面相してるんだ?」


朝ごはん出来てるぞ?そうやって1人部屋の中で悶々と考え込んでいたアッシュに声をかけてきたのは、今考えていた双子の片割れの方だった。血が繋がっている証のように、アッシュの長くて赤い髪と同じように双子の髪も赤かった。アッシュの方が色が濃いようだが。今アッシュを覗き込んでいるのは、双子の髪の短い方だった。


「アッシュ……俺は、ルークだ」


考えている事が分かったのか、双子の片割れは呆れたような顔で名前を言った。いいじゃないか、顔がまったく同じなのだから髪の長さで判断したって、とアッシュは心の中で愚痴を零す。弟の癖に馴れ馴れしいと思うだろうが、アッシュと双子は実は学年は同じである。ただ誕生日がアッシュの方が早かっただけだ。父よ、同じ期間に2人の女を愛したというのかと、アッシュは情けなく思ったものだ。
そう、アッシュの父は浮気をしていたのだ。(本人が言うには1人に絞れなかったという事だった。一度死んでくればいい)その浮気相手との子どもが双子というわけだ。では双子の母はどうなったのかというと、別に死んだ訳ではない。浮気の事実を知って、しかも子どもまで出来ていたと知ったアッシュの母が双子の母に極秘で会い、そこで何故か意気投合し、2人で父を十分に懲らしめて(その現場は現世の地獄絵図のようだったと目撃した知人は話していた)無事に和解したと、いうわけだった。その結果、兄弟仲良くしなきゃね、という事になって、1人暮らしをしていたアッシュの元にいきなり双子が送り込まれてきたのだった。
大人ってずるい。いつだって子どもを身勝手に振り回すんだから。


「ほら早く来いよ!学校に遅れるぞ」


ルークはそれだけ言って部屋を出て行った。アッシュは深い深いため息をつく。複雑な事情で兄弟になったというのにルークにわだかまりがないのは、以前からアッシュを知っていたからだろうか。そう、アッシュは双子と初対面ではなかった。学校もクラスも同じだったのだ。前からどこか似てるな似てるなと思っていたら本当に血が繋がっていたとは。
朝から痛んでくる頭を押さえながら、アッシュは部屋を出た。いくらいきなり弟が出来ても学校には遅れてはならない。

食卓にはアッシュと同じように不機嫌そうな顔をした人間がいた。双子の髪の長い方だ。アッシュをちらと見ると、嫌いな食べ物を山盛りで出されたかのような心底嫌そうな顔をした。おそらく、アッシュも同じような表情をしているのだろう。部屋にしばらく沈黙が続く。


「ほらアッシュ座れよ。ルカも、朝からんな不機嫌そうな顔をしない!」


1人元気なルークが部屋に入ってくるまで凍りついた空気は変わらなかった。
ルークとアッシュは特に今まで接点がなかった。問題はその片割れ、ルカの方だ。前世からの因縁があるんじゃないかと思うほど、アッシュとルカの相性は抜群に最悪だったのだ。初めて会ったその日から。そんな相手が今日から弟です?冗談じゃない!それは向こうも同じだろうが。


「いただきまーす!」


そんな中、険悪な雰囲気なんて無いかのように1人笑顔でルークが手を合わせた。その温かな空気にアッシュは少し癒されたような心地がする。ルカとは、手に刃物を持っていれば目を合わせるだけで斬り合いが行われそうなほどの険悪ぶりだが、ルークとの接点はあまりない。いや別にアッシュだって避けていたわけじゃない。ルークはクラスの中でもいつもにこにこ笑ってるムードメーカーみたいなものだし、アッシュだってどこか人を寄せ付けるものをもってるルークと他愛無い話をしたいのだ。しかし話しかけようとするたびに邪魔が入るのだ。今目の前で射殺そうとするかのように睨みつけてくる男から。


「ルーク」
「んー?」


ふいにルカがルークに声をかけた。ルークはちょうど食パンを頬張ったところである。食パンを口にくわえながらもぐもぐと返事をするルークに(行儀が悪い)にやりと笑ったルカは身を乗り出し。


「?!」


アッシュの見ている目の前で、ルークの口にくわえられたままの食パンにかぶりついたのだった。アッシュは固まったままだが、ルークはまるで慣れっこのように普通に受け入れている。


「もー自分の分があるだろー?いつもいつも人の食うなよな」
「人の食ってるものって美味そうに見えるだろ?」
「しょうがねえなー」


結局ルークは自分の食パンをルカにあげてしまった。その代わりにルカの皿の上の食パンを普通に取る。何だこの日常茶飯事的な光景。アッシュが呆然としていると、ふと目を合わせてきたルカがべっと舌を出した。ついでに親指を下に向ける。

お前何ざお呼びじゃねえよ。


「っ上等だあ!貴様覚悟しておけよ!」
「わあっ!アッシュ何いきなり立ち上がってるんだよ?!」


指をつきつけるアッシュにルカは不敵に笑ってみせた。1人状況を飲み込めていないルークはいきなり反応したアッシュと睨み合うルカを交互に眺めながらおろおろするだけだった。


母さん。いきなり出来た2人の双子の弟たちとの生活、先が思いやられそうです。





   双子アンサンブル

06/10/30