「ティア、手出して」
そう言えば少し首をかしげながらティアはすぐに手を差し出してくれた。その柔らかい手をぎゅっと握ってみせれば、いつもは冷静なその瞳が大きく見開かれるのでそれをどこか面白く思いながら眺める。
「る、るるるるルーク?!」
「ティアの手、温かいな」
そう言うとティアは頬を赤く染めながら、どこか拗ねたように視線を外す。その表情がどこか年相応に見えたから、1人で嬉しくなった。
「……手袋越しじゃない」
「それでも温かいんだ」
手を握り締めたまま俺が機嫌よく笑っていれば、ティアも最後には笑ってくれた。
その手は温かかった。
「ガイ、手出して」
そう言えば何のためらいも無くガイは簡単に手を差し出してきた。理由も尋ねる事無く当たり前に出してくるのに何故だかムカつきながらその手を握ってみせると、ガイは驚いたような表情になった。
「いきなりどうしたんだ、ルーク?」
「ガイの手、温かいな」
そう言うとガイはどこか困ったように微笑んでみせた。それでも嬉しさを隠そうともしない笑みだったので、こっちまでどこか嬉しくなる。
「手袋越しじゃあそんなに感じないだろう?」
「それでも温かいんだ」
手を握り締めたまま俺が機嫌よく笑っていれば、反対の手で頭を撫でてきたガイも同じぐらい笑っていた。
その手は温かかった。
「アニス、手出して」
そう言えば何々?と好奇心溢れる目でアニスが手を差し出してきた。思ったより小さなその手に少し驚きながら握ってみせると、大きな瞳がそれよりさらに大きくなって、大げさなぐらいアニスは驚いた。
「え?!ええ?!いきなり何なのルーク?!」
「アニスの手、温かいな」
そう言うと再びアニスはぎょっと驚いた後、ぷうと頬を膨らませた。よく変わるその表情がおかしくて、笑いが込みあがってくる。
「ちょっとー口説くならもうちょっと上手く口説いてよね。手袋越しじゃ分かんないじゃん」
「それでも温かいんだ」
手を握り締めたまま俺が機嫌よく笑っていれば、すぐに怒るアニスはやっぱりすぐに笑ってくれた。
その手は温かかった。
「ナタリア、手出して」
そう言えばナタリアは実に王女らしく優雅にこちらへ手を差し出してきた。なってませんわと怒られないようになるべく丁寧に握ってみせると、ナタリアは口元に手を当ててまあと呟いた。
「どうなさいましたの?ルーク」
「ナタリアの手、温かいな」
そう言うとナタリアはすぐにくすりと笑ってみせた。その笑顔が親しみの篭ったものである事に、何故だかほっと安心できた。
「手袋越しなのに、そう言って頂けますの?」
「それでも温かいんだ」
手を握り締めたまま俺が機嫌よく笑っていれば、ナタリアもにっこりと微笑んでくれた。
その手は温かかった。
「ジェイド、手出して」
そう言えばいつものうそ臭い笑顔でジェイドが慎重に手を差し出してきた。その手が意外に大きかったのでどこか腹立たしく思いながら握ってみせると、めったに動かない表情が驚きに動いて見えた。
「おやおや、いきなり何のマネですかルーク」
「ジェイドの手、温かいな」
そう言うと眼鏡越しの赤い目が動揺するように揺れて見えた。あのジェイドを動揺させてやった事にこっそり嬉しくなる。
「……手袋越しでしょうに。おかしな子ですね」
「それでも温かいんだ」
手を握り締めたまま俺が機嫌よく笑っていれば、ジェイドもいつもより柔らかく確かに笑ってくれた。
その手は温かかった。
「アッシュ、手出して」
そう言えばどこか嫌がるように眉間に皺を寄せながらもアッシュは手を差し出してくれた。自分と同じ大きさのその手にどこか感動しながら握ってみせると、どこか困惑したような緑の瞳と視線がぶつかる。
「……何だ」
「アッシュの手、温かいな」
そう言うと、アッシュはふんと息を吐いてみせた。そのまま真っ直ぐ見つめられて、こっちがキョトンとしてしまう。
「当たり前だろうが」
握り締めていた手に力が加えられる。他の誰とも違う俺と同じ手の確かなぬくもりと、その言葉に、俺は湧き上がる愛しさを抑える事が出来なかった。
「うわー、うわあー」
「何だ、言いたい事があるならさっさと言え」
「俺やっぱりアッシュが好きだなー」
俺がそう言うとアッシュは喉に何かを詰まらせたような顔をするので思いっきり笑ってやった。屑が、と頭を叩かれたが、繋がれた手はそのままだったので俺の機嫌は上がっていくだけだ。握り合った手を引っ張って、手袋越しにも例えこうやって触れ合っていなくとも繋がっている半身の手に頬を寄せる。
その手は温かかった。
06/11/25
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