「トリック・オア・トリート!」
視界に突然映った逆さまなかぼちゃ頭のお化けに、しかしアッシュは特に目ぼしい反応を示すことは無かった。ただ一度だけ、頭の上からこちらを覗き込むくりぬかれたかぼちゃの目を見つめて、すぐに机の上に視線を戻してしまう。分厚い本と数えきれないほどの書類が積み重なったその机は、見るだけで机の主がいかに多忙であるかが分かる。それなのに唐突に現れた呑気なかぼちゃのお化けが、軽く無視されてしまうのも致し方ない事なのかもしれない。
「こら、アッシュ!無視すんな!トリック・オア・トリート!お菓子をくれなきゃいたずらするんだぞ!いいのか!」
しかしお化け本人的にはその反応が不服だったらしい。何も言わずに書類を片付ける作業に戻ったアッシュにすかさずブーブー文句を言ってきた。視線を上げる事無くアッシュが答える。
「いたずらってのは、一体どんなことをやるつもりだ」
「お、聞きたい?そりゃもう一杯あるぞー。例えば……そこにあるアッシュのベッドのシーツを可愛いうさぎさん柄に変えちゃうとか!部屋ににんにくばらまいて強烈な匂いで充満させちゃうとか!夕飯を全部タコ料理に変えちゃうとか!」
「しょぼい」
「しょ、しょぼくねえし!」
一言で切り捨てたアッシュにショックを受ける逆さまお化け。そのかぼちゃ顔をアッシュはじろりと睨み上げた。
「そもそもこうしててめえが現れた時点で仕事妨害という何よりも不快ないたずらを受けているんだよ、屑が」
「あまりにもひどくね?!せっかくのハロウィンの夜に一人で引きこもってるアッシュのために出てきてやったのに!」
あんまりなアッシュの言い草に、ぷんすか怒りながらかぼちゃが視界から消える。次に再び逆さまのままバアと現れたのは、自分と同じ顔だった。
「じゃーん、ハロウィンのお化けの正体は、俺でした!」
「へえ、そいつは驚きだな」
「くっそムカつく!せめて分からない訳ねえだろってつっこめよ!」
最初から騙す気など毛頭なかったルークが頬を膨らませる。その体は宙に浮いていた。ぷかぷかとまるでこのハロウィンの夜に合わせたように、お化けの如くアッシュの頭の上に浮いていた。アッシュはその事に特に興味も関心も示さず、ごく普通に受け入れている。二人にとって今のこの光景が、当たり前のものであるかのようだった。
「なあなあアッシュ、それで?お菓子は?」
「ねえよ。欲しけりゃ厨房にでも忍び込んで来い」
「おま、バッカ、こういうのはトリック・オア・トリートって言った相手から貰うもしくは奪うのがセオリーだろ、自分でこっそり盗んでくる意味なんてねえの!」
水中よりももっと遥かにすいすいと宙を移動したルークは、アッシュの後ろからするりと腕を伸ばして首元へ縋り付いてきた。肩越しにちらと視線をやれば、不満そうなむくれ顔と出会う。つくづく同じ顔というのが信じられない表情の豊かさだ。幼い、とも言う。
その顔を一瞥した後、アッシュは再び己の仕事を片づけ始める。もくもくとただひたすら文字を追ってサインしたり調べ物のため本をめくったりとデスクワークを繰り返していると、さすがにちょっと気が滅入って来るし眠気も訪れてくる。今はそんな遅い時間帯だ。しかし今日は首にしがみついてくる自分以外の腕がある。この存在がここにあるだけで心が幾分かマシになっている事実はきっと、素直でないアッシュの口から直に語られることは無いだろう。
「アッシュ、遊ぼう」
しばらく肩に顎を乗せて手元をほうほうと覗き込んできていたルークが、懲りずに軽く揺さぶってくる。払いのけるのも面倒で、アッシュは手を動かしながらそのまま答えた。
「俺は今忙しい」
「だから遊ぼうって言ってるんだよ」
「はあ?何言ってやがる、とうとう脳みそでも腐りやがったか」
「別にゾンビじゃねえし!だって、今日はハロウィンだぞ、ハロウィン!」
身を乗り出してきたルークが、飛び上がってどすんと机の上に腰を下ろす。足や尻の下敷きになった書類たちが折れ曲がる事は不思議となかった。
ハロウィン。その言葉をアッシュは頭の中で繰り返す。その言葉も意味も、どんな日なのかも知っている。簡単な知識でしかないが、生者と死者の世界の境目が曖昧になる日だとか、悪い霊や妖精がやってくる日だとか、そんなこと関係なく仮装してどんちゃん騒ぎする日だとか、一般的に知られているそういう事だけだ。そんな、己とは何ら関係の無い日が一体なんだと言うのかと、妨害するように目の前に座り込んだルークを見上げる。
アッシュの表情を見たルークは、呆れるように溜息を吐いてみせた。
「あのなー、今日はどこの町もそれなりにお祭り騒ぎになってるんだぞ!バチカルの町やお城の様子を見たか?つーか登城してたんだから飾り付けぐらいは見てるよな。そんな記念すべきハロウィンの夜に、アッシュはここで一人寂しく仕事なんてしてるのか!」
「そうだ。一体それの何が悪い」
「悪いに決まってるだろ!」
怪訝そうに眉をひそめるアッシュの顔面に、びしっとルークの指が突きつけられる。
「まずは、俺がつまらない!」
「おい」
「それに、アッシュもつまらないだろ!少しぐらいノれよ!仕事は明日に回せ!真面目か!少しはサボれ!」
「何だとてめえ……!」
人がせっかく真面目に仕事を片付けていたというのにそこを怒られて、さすがのアッシュもひくりと額に青筋を立てる。そのまま放っておけとか何とか怒鳴り散らそうと息を吸い込んだ所で、次にぽつりと落ちたルークの言葉にすぐに怒りは萎んでしまう。
「……それに、そんな無理ばっかしてると体壊すぞ」
幾分か小さく響いたその声は、心から心配しているルークの内心をそのまま映しとっていた。さっきまでの元気はどこへやら、途端にしょぼくれた顔でじっと見つめてくるルークの純粋な新緑色の瞳に、アッシュは二の句が継げられなくなる。つまらないとか真っ先に理由を挙げていたくせに、本音はどちらだったのか、この嘘をつけないまっすぐな瞳が語っていた。
絞り出すように声を上げたのは、十分な沈黙の間を開けた後だった。
「……別に、俺はそんなにヤワじゃねえ」
「知ってるよ。でも、それでも心配なもんは心配なんだよ。……だからさ、アッシュ」
座っていた机の上をじりじりとにじり寄ってきたルーク。そっと手を伸ばして、未だ椅子に腰かけて見上げてくるアッシュの頬に両手を添えて、こつんと軽く額と額を合わせた。同じ色の瞳が、至近距離から鏡合わせで見つめ合う。
「俺と一緒に遊ぼう。ハロウィンの夜はこれからだろ?」
懇願するように見つめられたアッシュは、しばしその瞳に見入った。ただし見入った事を悟られないように眼光鋭く睨み返して、いかにもしぶしぶ承諾したような風を装って溜息を吐く。何歳になっても素直になれない、アッシュ渾身の所謂「デレ」である。
「……仕方がねえな、少しの間だけだ」
「!やった!」
ぱっと手を離して諸手を上げて喜びを表現するルークに、今度は少しだけ考えたアッシュが手を伸ばした。ペンを離した利き手が静かに触れたのは、ランプの炎に照らされて輝いている焔色の髪の毛一房。きょとんと瞬く途端に幼く見えるその顔に、にやりと妖しく微笑んでから。伸ばした右手をさらに伸ばして後頭部を掴み、己へと引き寄せる。警戒など微塵もしていなかった顔が、目を見開いて急速に近づいた。
「へっ?!アッ」
きっと名前を呼ぼうとした薄く開いた唇が、言葉を最後まで発する事無く吐息ごと同じ形の唇に食まれた。零れんばかりに見開かれた翡翠を笑う翡翠が見つめたままどれぐらいの時が経っただろうか。アッシュが引き寄せていた手から手を離してようやくキスを終えても、ルークはしばらく固まったままだった。
「……っ?!あ、っしゅ?!いっいきなり何をっ」
「トリック・オア・トリート」
「は?」
疑問に答える事無くアッシュの口から飛び出してきたハロウィンの決まり文句に、ルークが顔を赤らめたまま間の抜けた声を上げる。さっき自分も口にしたそれの意味と、突然のアッシュの行動とを頭の中で照らし合わせてみて、答えが出たらしいのは数秒後。元々染まっていた頬がさらに赤く色付いた。
「ま、まさかっ?!今のがトリック、もしくはトットリートのつもりか?!」
「屑が、トリックとトリートを兼ねていた事にも気付かないか」
「あっそっかなるほどーアッシュ上手い☆ってアホか!そもそも仕掛けてきた後に言ったら何の意味もねえだろ!ずりぃ!」
人の机の上でじばたば暴れ出したルークは恐らくそのほとんどが照れ隠しなのだろう。キスひとつでゆでだこになってしまう初心な半身に、アッシュはくつくつと笑った。仕事をする気はとうに失せてしまっていた。今夜はルークの言う通り、つかの間のハロウィン休息としよう。
「せっかくだ、表にでも出るか」
そうなると部屋に閉じこもっているのももったいなく思えてきて、アッシュは椅子から立ち上がってドアへ向かった。その後ろを、まだ不満をぶちまけていたルークが慌てて付いてくる。
何時間かぶりに触れた外の空気は、夜の闇を纏ってひやりとアッシュを包み込んだ。ほうと溜息のようなものを吐き出して、自分で思っていたより頭の中が煮詰まっていた事を自覚する。あのまま仕事を続行していれば、ルークが心配していた通り最終的にはぶっ倒れてしまっていたかもしれない。その事実に舌打ちしたい気分になった。そして、ほんの少しの感謝の気持ちも。
ゆっくりと歩みを進めて踏み入れた中庭には、ハロウィンの飾り付けがそのまま残されていた。別に大々的にパーティを開いた訳では無いのだが、屋敷の主人たちの目を少しでも楽しませようと、使用人やメイドたちが毎年行事の度にこうして賑やかに飾り付けてくれる。ハロウィンという日も本来もう少しおどろおどろしいイベントのはずだが、特にシュザンヌが驚いてしまわないようにと可愛らしい顔にくりぬかれたかぼちゃのジャック・ランタンが庭のあちこちに下げられていた。朝になれば撤去されるのだろうそれらは、今の時間ではすでに明かりを落とされて闇の中にぼんやりと浮かんでいるのみだ。
「あーあ、灯りが付いている時はもっと綺麗だったのに。もうちょっと早く外に出ようとか思えよなー」
のんびりと足を進めるアッシュの横を、ルークがひょいとすり抜ける。近くにあったジャック・ランタンの顔をじっと覗き込んでから、何がおかしいのか一人でくすくす笑っている。
「なあアッシュ見ろよこれ、このしかめっ面具合がアッシュにそっくりじゃないか?」
「なんだと、この屑。その辺のかぼちゃより間抜けた面を晒した奴が言いやがる」
「同じ顔に向かってひっでえの!」
頬を膨らませたルークは、しかしすぐに破顔する。アッシュと共にこうして中庭を散策する今がそれほど楽しいらしい。何もハロウィンらしいことはせずにぶらぶら歩いているだけだというのに、と、アッシュも呆れて口元がわずかに緩む。
「あら……こんな時間に外へ出ているなんて、珍しいですね、アッシュ」
そこに、第三者の穏やかな声が割り入ってきた。さすがのアッシュもハッと背筋を伸ばして声の方へと振り返る。屋敷内から中庭への出入り口に、アッシュが心底誠意を込めて対峙する限られた人物の内の一人が優しい笑顔で立っていた。
「「母上!」」
同時にその笑顔を見つけたアッシュとルークは声を揃えて駆け寄る。二人の母親シュザンヌは、嬉しそうにそれを受け入れた。
「そんなに慌てて来なくても、母は大丈夫ですよ。夜のお散歩中だったかしら、邪魔をしてごめんなさいね」
「いえ、それは気にしないでください。母上こそお一人でこんな時間に……一体どうされたんですか」
目の前に立ったアッシュが心配そうに尋ねれば、シュザンヌは笑った。それは最愛の息子を目の前にしながら、今にも消えてしまいそうなどこか儚い笑みであった。アッシュが目の前にいる事の喜びに、しかしそれだけを素直に幸せと呼べない事に密かに苦しんでいるかのような、複雑な笑顔。
「……今日は、ハロウィンの夜でしょう?」
シュザンヌは視線を上に向けた。欠けた月が浮かぶ夜空は静まり返っていて、ハロウィンという日が終わりかけているのを嫌でも感じさせる。そんな空を見つめながら、シュザンヌの細い方が小さく震える。
「「あの子」も……今夜、ここに帰ってきているのではないかと思ったら、居ても立ってもいられなくなって」
アッシュは思わず言葉を失った。隣のルークもふっと息を飲んでいる。シュザンヌの瞳はただひたすら天の向こうへ向けられていて、まるで今にもそこから誰かが降ってくるように……「帰って」くるように思えるほど。
しかしアッシュは知っている。シュザンヌが待ち焦がれている人物が、シュザンヌの見つめる空から帰ってくる可能性は、少しも無いのだと。例え、いくら今日が生者と死者の世界の境界線が薄くなる、特別なハロウィンの夜でも。実際に死者の国から帰ってくるものがいたとしても。シュザンヌが待つ人間が帰ってくる事は、絶対にない。
だって。
シュザンヌの指すその人間は、そもそも。
死者の国には、いない。
「……母上、そんな事でこんな夜に外出てくるなんて……風邪でも引いちゃったらどうするんだよ」
ルークが首を振って、仕方なさそうに笑う。体の弱い母親の事を、心から心配しているのだ。しかしそんなルークの言葉に、シュザンヌが反応を示す事はない。悲しそうに、焦がれるように、月浮かぶ空を見つめるシュザンヌに、今度はアッシュが声をかけた。
「………。そうですね、今もルークの馬鹿は、母上の目の前でアホみたいに笑っているかもしれません」
「おいこらアッシュ、馬鹿だのアホだの失礼すぎんだろ!」
優しい声でひどい事を言うアッシュに、ルークが唇を尖らせる。今度はちゃんと反応したシュザンヌが、アッシュを視界に入れて儚く笑った。
「ふふ……そうですね、そうかもしれません。でもせっかく帰ってきてくれているのなら、その姿を見たい所ですけれど」
「ああ、まったく……あいつは親不孝者です」
「あらアッシュ、そんな事はありませんよ」
やれやれとこれ見よがしに溜息を吐いてみせたアッシュに、シュザンヌは首を振った。次に浮かべた笑顔は、さっきよりも幾分か明るい、慈しみのこもった淡いものだった。
「あの子が、ルークが私たちの元で生き、暮らしていた時間こそが、何よりもかけがえのない親孝行だったのですから」
「母上……」
「……ごめんなさい、今日は少し、感傷的になってしまっているみたいね。そろそろ休ませてもらいましょうか」
気を取り直すように笑ったシュザンヌは、静かに踵を返した。そうして屋敷の中に戻る前に、アッシュを振り返ってくる。
「アッシュ、あなたも早く休んで下さいね。あんまり根を詰めると身体を壊してしまいますから。……あまりこの母を心配させないでちょうだい」
「……はい、そうします。おやすみなさい、母上」
「ええ、おやすみなさいアッシュ、そして、」
最後に小さな声で誰かの名前を空を見上げて呟いた後、シュザンヌはその身を屋敷の中へ戻した。締められたドアを、アッシュはしばらく立ち尽くしたまま見つめ続ける。隣に立つルークも何も声をかける事無く、同じようにドアを、ドアの向こうへ消えたシュザンヌを見つめた。
「……そうだなあ、今日ぐらいは母上に姿を見せてやれればよかったのにな、一瞬だけでもさ」
先に沈黙を破って声を上げたのはルークだった。肩をすくめて呟くその顔は言葉通り残念そうだったが、思ったほど暗くはない。アッシュはその横顔を見つめて、思わず口を開いていた。
「後悔、しているか」
きょとんとルークが振り向いてくる。その見開かれた瞳に視線を合わせ、アッシュは続けた。
「別な方法を選んでいれば、今日母上にその姿を見せてやることが出来たかもしれない。そうでなくても、お前という存在がもっと別な形でこの世界に存在していた可能性だって、あるだろう」
そっと手を伸ばし、柔らかな頬に指を滑らせる。こうしてルークに触れられるのは、今はもうアッシュただ一人だ。目の前にこうして確かに存在しているルークを、しかし知覚できる者はアッシュ以外に誰一人としていない。先ほどのシュザンヌのように、気配を僅かでさえ感じる事が出来ないのだ。アッシュ以外には、誰も。
そういう道を、二人は選んだ。アッシュが一度死に、ルークも光に溶けた数年前のあの日、大爆発が発生する最中に。
「なーに言ってんだよアッシュ」
大真面目に尋ねたアッシュを、ルークは一笑した。けらけらと明るく笑って、当然の事のように答える。
「後悔なんて、する訳無いだろ。そりゃー母上にも他の皆にも声さえかけられないってのは少しだけ寂しく思うけどさ。でも、そんなの些細な事だろ?」
身体ごと向き直ってきたルークが、とんと額をアッシュへ押し当ててくる。同じはずだった身長は、今では少しばかりアッシュの方が上だ。この歳になっても身長って伸びるもんなんだなと、少し前に悔しそうにルークが言っていた。記憶と音素、全てをアッシュに譲り渡して、アッシュにしか見る事の出来ない魂の存在となったルークは、今の姿からもう成長は出来ないのだった。それが悔しいと、ルークは笑いながら言っていた。単純にアッシュに慎重を抜かされるのが悔しいなあと、何の悲しみも浮かばない笑顔で。
「だって、俺にはアッシュがいる」
ルークの声は、アッシュを通さなければこの世界に存在出来ない己の身体を嘆いている訳でもなく。
むしろ、そう。どこか、嬉しそうに。
「アッシュと話せて、アッシュに触れて、アッシュの傍にいる事が出来る。それだけで俺は、十分すぎるほど幸せなんだ」
心から喜びにあふれた、ルークの声。アッシュは目を閉じて、肩口に預けられた頭をくしゃりと撫ぜた。傍から見ればきっと、虚空を掴んでいるように見えるのだろう。アッシュにとってかけがえのない、アッシュだけの存在を抱えているこの手が。
「……ああ」
親不孝者はどちらだ。アッシュは心の中で己を詰った。ルークを責める資格など、どこにもない。真の親不孝者とは、いなくなってしまったもう一人の息子を想う母親に、真実を告げる事無くこの存在を独り占めする自分のことを言うのだろう、と。
どうせ見えないのなら、声も届かないのならば、と理由をつけて伝えようとしないその真の意図は。
「俺もそれで、十分だ」
醜くて身勝手な、ただの独占欲でしかないのだから。
ハロウィンなんて待つことなく、常に己の傍で存在している、この世の者ではない唯一の半身。アッシュはこれからも、この存在を抱いて生きていく。
互いに互いを独り占めしながら。ずっと、ずっと。
ハロウィンの夜も
15/11/09
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