叔母がしばらく入院するらしい。俺は今日その事実を初めて聞かされた。幸い命に別状ある病気ではないと母親から聞いて安心する。久しぶりに親戚一同で集まるからと半強制的に連れ出されたが、なるほどそういう事だったか。確か叔母の夫、つまり叔父は単身赴任中でしばらく帰ってこられないはず。今日集まったのはそのためだろう。
まだ7歳の一人息子を誰がその間引き受けるのか、その話し合いのためだ。
「我が家は部屋が一つ空いているからそこを片づければ預かれるよ」
「留学中の次男の部屋を一時的に貸しましょうか?」
「うちは子供たちがもう全員独り立ちしているから寂しくてねえ、一人ぐらい大歓迎よ」
「いやいやうちの方が」
ドラマなどで良くある険悪なムードでのたらい回し、という事は全然無く、比較的スムーズに話は進んでいる。いや、スムーズではないな。どいつもこいつもチビを引き受けたくてうずうずしていて、逆に話が難航していやがる。俺の一族は子供好きが多かったのか。俺なら進んで引き受けるなんて死んでもやらねえがな。ガキの世話は苦手だ。
話の中心になっている当の本人は、部屋の隅に座る俺の隣にちょこんと静かにかしこまっている。正直意外だった。普段の親戚の集まりでのこいつは非常にやかましく、落ち着きが一切無い事で評判のやんちゃ坊主だからだ。俺も何度も絡まれてその度に怒鳴りつけるのだが、それでも何故か俺にやたらとくっついてくる変な従弟だ。親戚の他のガキは俺の素の顔からして怖いと(失礼な話だ)近寄ってすら来ないというのに。
今日も、もうすぐ離れて暮らさなければならなくなる母親から遠い俺の傍に座っている。んな寂しそうな顔してるぐらいなら今のうちに思う存分母親にくっついておけばいいのに、馬鹿な奴だ。何で俺の隣なんかに落ち着いているんだ。いくら俺の傍にいたって、これっぽっちも優しくなんて出来ねえぞ。いっつも怒鳴られて拳骨落とされるお前も分かっているだろうに。
……だが、まあ。今の自分の立場を弁えて、嫌だ行きたくないと駄々を捏ねたりもせずにひたすら従順に耐え忍ぶその姿は、子供が苦手な俺でさえもいじらしく思えるもので。
「……おい」
気付けば声をかけていた。周りに聞こえぬように小さめの声で話しかければ、俯いていた顔を上げて俺を見上げてくる大きな深緑の瞳。こいつの目って案外綺麗だったんだな、と場違いなことを考える。
「嫌じゃねえのか」
親戚とはいえ、他人の家でしばらく暮さなければならない事。小さな頭はしばらく考え込むように黙った後、ふるふると首を横に振った。
「……そうか」
それは多分、強がりだろう。それでも気丈に振舞おうとするその姿勢を珍しく好ましく思った俺は、慰めるように暖かそうな色のその頭を撫でていた。
「お前にしては良く頑張っている。……偉いな」
「……!」
ちょっと力を入れて乱暴に撫でたせいか乱れてしまった髪の下で、驚いた顔がこちらを覗き込んでいる。良く考えれば、こうしてこいつを褒めてやったのは初めての事かもしれない。こ、こいつがいつも悪さばっかりしやがるからだ、俺が悪い訳じゃねえ。鬼ッシュとか言うこいつが悪い。
しばらく俺の方を見つめていた顔は徐々に正面に戻っていった。しかしそれに比例して口元はどんどんと笑みを浮かべていく。何ニヤニヤしてやがる。そうやって頭を小突いてやろうとした所で、話し合いが進まない大人たちから声をかけられた。
「なあ、こうなったら本人の希望を聞くのが一番じゃないかい?なあルーク」
「あらそれはそうね。どうかしらルーク君、どこのおうちがいいの?」
「うちよねルークちゃん、うちにおいでなさいな」
次々と話しかけられて戸惑うように周りを見回した後、まるで縋るように脇にいた俺の服の裾を掴んで、事もあろうに俺の方を見ながらルークは大きな声で宣言した。
「おれっ……!おれ、アッシュがいい!アッシュと一緒に行く!」
固まる俺。静まり返る親戚一同。そんな中、いつの間にかルーク争奪戦に参加していた俺の母が、非常に上機嫌な様子で朗らかに笑う。
「あらあら、それならちょうど良かったわ。うちには今空き部屋が無いから、アッシュ、あなたはしばらくルークと一緒の部屋ですよ」
俺にはその言葉が死刑宣告のように聞こえた。呆然と隣を見下ろせば、嬉しそうな満面の笑みが俺に向けられている。
悪夢の始まりだ。その時確かに俺はそう思った。
結論から言うと、ルークは最初は驚くほど大人しかった。大きめのランドセルを背負い家の玄関で深々とお辞儀をしながら「よろしくお願いします」と言ってのけた姿を見た時は、中身だけ入れ替わった別人が来たのかと思ったほどだ。
俺も一人っ子だから、久方ぶりの幼子との生活に母親は始終楽しそうで、あの厳格な父親でさえ頬を緩めてルークの話を聞いていた。そういや最近親父と目を合わせて会話をした記憶がねえ。……少し、罪悪感が沸く。
今思えばあいつは始終笑顔ではあったが、いつもの様子と比べると随分固い笑顔だった。緊張していたんだろう。この家に足を踏み入れてから、夕飯を食ってこれは美味しいとおかわりをした時も、学校や家での出来事を面白おかしく話して笑いを取っていた時も、風呂に入った時もテレビを見ていた時も、今までずっと緊張しっぱなしだったんだろう。いくら家族全員(俺除く)が歓迎ムードでも他人の家は他人の家だ。緊張しない方がおかしい。だからそれはいい。悪いのはその後だ。
とうとう夜も更けて、従兄弟同士親睦を深めなさいと俺の部屋に追い立てられた。しぶしぶ階段を上がる俺の後ろを素直についてきていたルークは、俺が部屋のドアを開けた途端隙間から中に入り込み、そのまま歓声を上げて俺のベッドに飛び込んでいきやがったのだ。なんだ、そのいきなりのテンションは。今までの大人しい姿はどこにいった!
「ここがアッシュの部屋かー初めて入った!さっすがいつも細かいアッシュ、片付いてるな!」
「うるせえ、てめえ何勝手にベッドに上がってやがる!お前は、こっちで寝るんだ!」
手に持っていたランドセルを放り投げてさっそくごろごろと転がるルークの襟首を掴んで引っ張り起こす。俺の部屋にはすでに布団が一式持ち込まれていて、ベッドの隣の床にすぐさま敷けるように準備されている。するとルークは不満そうに唇を尖らせた。
「えーっ!おれベッドがいい!」
「屑が、ベッドは俺のだ!誰がやるか!」
「アッシュのケチー!おれ、うちじゃ布団だからベッドに寝てみたいのにー!」
バタバタと足をばたつかせるルーク。うっとおしい。溜息を吐いてぺいと放り投げてやれば、再びベッドの上で思う存分転がり始める。ベッド一つで何がそんなに楽しんだか。呆れるほど無邪気なその姿を見て、しかし俺は内心ホッとしてもいた。うちに来てから今までのこいつは借りてきた猫状態で、見慣れない大人しすぎる姿に正直戸惑っていた所だ。……あまり認めたくはないが、心配していた、と言った方がいいか。こうやってアホ面下げて笑っているのを見ると、やっといつものルークに出会えた心地がする。何で俺と二人になった途端に緊張をどこかに吹っ飛ばしたのか、理解不能だがな。
一人で愉快そうなルークを横目に、俺は部屋の隅から折り畳み式の小さいテーブルを取り出した。こいつのためにわざわざ準備したものの一つだ。広げたテーブルに転がっていたランドセルをドンと乗せると、俺はルークを振り返った。
「えへへー、アッシュのベッドベッドー」
「おい、いつまでダラダラしてやがる。ここに座れ」
「ふえっ?」
テーブルを叩いて示せば、きょとんとしながらもルークはテーブルの前に座る。俺はそれを確認すると、自分の勉強机へと向かった。
「まだ寝るには時間がある、それまでそこで宿題でもしておけ」
「……。え、ええーっ?!」
一瞬の間があった後、間抜けた声が上がる。じとりと視線を向ければ、ルークは驚愕したような顔で俺を見ていた。今の言葉に、何をそんなに驚く要素があったのか。
「何だ」
「アッシュ、おうちで宿題なんてやってるのか!真面目だなー!」
「この屑がっ!」
「あいたっ!」
思わず手に持っていた消しゴムを投げつけていた。見事額に当たり目を瞑るルーク。こいつは……今の口ぶりからして、家で真面目に宿題をしていないというのか、信じられねえ。確かに小学生低学年ならばそこまで宿題にも厳しくは無いか……いやいや、それでも有り得ねえ。こいつは一体学校を何だと思ってやがる。ルークが担任の教師の頭を悩ませている問題児である事はほぼ間違いないだろう。ああ、こんな奴が俺の従弟だとは……もうちょっと躾を厳しくした方がいいと、今度退院したら叔母に言うべきか。
頬を膨らませて抗議するようにこちらを睨むルークに指を突き付け、俺は言った。
「いいか、俺の部屋の敷居を跨いだからには真面目に勉強をしてもらうからな。少しでもサボりやがったら問答無用で叩き出す!分かったか!」
「ええーっ!」
「文句を言っても叩き出す」
釘を指せば限界まで頬を膨らませる。そんなに膨らませても何の抗議にもならずただアホ面になるだけだと、まだ7歳児には分からねえか。これ以上は付き合いきれなくて、俺は自分の勉強に取り掛かる事にする。小学生には理解できない量の宿題が俺には出ているし予習復習も出来れば終わらせておきたい所なんだ、高校生を舐めんな。
ルークはしばらく一人でぶつくさ言っていたが、どうやらノートを広げて宿題をやり始めたらしい。と言っても俺には遊びにしか思えない量と内容ではあるがな。昔懐かしい青色の学習帳に、ガリガリと鉛筆で下手くそな文字を書いている。何だあの字は。いくら7歳児でもひどすぎねえか。今度暇があった時にでも指導してやるか、今のうちの矯正が将来実を結ぶ事になる。
……いやいや、ルークの様子を見ていてどうする俺。いつの間にか傍らの従弟の頭を見下ろしていた己に気づいて、俺はすぐに自分のノートに向き直る。思えばこの自分の部屋で他人とこうして勉強をするのは初めての事かもしれない。相手が小学生というのが情けねえが、やっぱり調子が狂う。溜息を噛み殺して、俺は必死に目の前の文字を追った。
……この時まで俺は自分の考えている事が限りなく甘いと気づかなかった。いくらルークがうっとおしくても集中していれば気にならないだろうと思っていた。それは間違いだった。小学生に出る宿題の量はたかが知れていてそれをすぐに終わらせたルークは手持無沙汰になると、俺への妨害を開始したのだ。
「なーアッシューおれ終わっちゃったよー」
「ああそうかよ。それなら適当に一人で遊んでろ」
「一人ー?つまんねーよー、せっかくアッシュといるんだから一緒に遊ぼうぜ!」
「俺は今大事な大事な勉強をしている所なんだ邪魔するな屑が!」
ギロリと睨み付ければ不服そうな顔をする。ああもう知るか。ルークを無視して勉強の続きを進める。それからもルークはやたらと俺に話しかけてくるが全て無視してやった。相手をするからつけ上がるんだ。反応を示さなければ時期に飽きて別なことをやりだすだろう、所詮子供だ。そう考えていた。甘かった。
しばらくうるさかったルークの声が止んだ、と思っていたら、足元に何やら気配を感じた。俺にべたりとくっついてくる生き物を必死に無視する。するとペンを握っていた俺の手とは逆の手をぐいっと押しのけ、まさかの膝によじ登ってくる朱色の頭が目の前に現れた。これにはギョッとして思わず手も止まる。ついでに思考も止まる。俺が固まっているのをいいことに、椅子に座る俺の上にさらに座る事に成功したルークが満足そうにぐふふと笑っている。目の前の勉強机に両手を揃え、見たって何も分からないくせに俺のノートと教科書を眺めている。
……こいつは一体、何がしたいんだ。
「おい……どけ」
「やーだよ。おれアッシュに言われた通り一人で遊んでるだけだもん。アッシュは勝手に勉強してていーよ」
退けていた俺の手を両方掴み、自分の頭の左右から伸ばして机に乗せやがる。膝の上に乗るルークを抱えるような形だ。うぜえ、心底うぜえ。そしてやっぱり頭が邪魔だ。ルークの背中と触れ合う俺の腹がじんわりと温まる。いやむしろ暑い。ぱたぱたと床につかずに揺らされているルークの足がうっとおしい。俺からは顔が見えないが、きっと何故か満足そうに笑っているだろうルークが手に取るようにわかる。このガキんちょが。一瞬すぐさまルークをつまみ出してやろうかと思ったが、俺の手は机に乗ったまま、ルークを抱え込んだまま動かなかった。
……そう。どうせつまみ出したってこいつの事だ、すぐに戻ってくるに決まっている。そんな事に時間を使うなら、こいつをとことん無視して自分の勉強をやるのがいい。それが一番有効な時間の使い方だ。きっと、そうだ。そう考えたから俺は、ルークをどかさなかった。それだけの事だ。他の感情なんか無い。
だからきっと気のせいだ。……腕の中に納まる小さな温かい体が、ほんの一瞬でも、可愛いかもな、なんて思ってしまった事なんて。
「……邪魔すんなよ」
「はいはーい」
幸いルークはこの場所にさえ落ち着いていれば満足らしい。とりあえず目の前にちょうど現れた顎置きに遠慮なくのしかかり、俺は勉強を続けることにした。
……意外とこの状態、具合がいいじゃねえか。
自分でも思ったより落ち着いたそのスタイルはしかし、長くは続かなかった。タイムリミットという奴だ。お子様の寝る時間がやってきたのだ。例に漏れずルークもすぐに欠伸を連発するようになり、あえなく今日は勉強を断念する。まあ宿題は終わらせたからいいか、これは元々覚悟していた事だ。しばらくは夜更かし出来ない毎日が続くだろう。
結局俺はルークにベッドを明け渡すことになった。夜に騒がれても近所の迷惑になるから、仕方なくだ。テーブルを片づけ布団を敷いて、ルークがベッドの中に大人しく潜り込んだのを確認してから電気を消す。
「いいか、消すぞ」
「ねえアッシュ、ちょっとだけ電気つけてて!まっくらはおれ慣れてないし」
「ふん、お子様が。俺は暗闇で寝る人間なんだよ」
「うえーっアッシュの鬼ー!」
唇を尖らせるルークに一回だけデコピンをかましてから、お望み通り小さな電球だけはつけておいてやる。これで暗い怖いと泣き出されても困るからな。別に俺も明るいと絶対に眠れないって訳じゃねえ。ようやく俺も布団に横たわる。
あれこれ話しかけてくるかもしれないと予想していたルークは意外とそのまま大人しくなった。今日は疲れていたのもあるのかもしれない。喜ばしい事だ。この様子なら俺も何の妨げもない状態で眠れそうだ。今日は俺も慣れない事の連続に疲れている。眠りの世界はきっとすぐに訪れるだろう。
……この己の考えも、結局は甘かった。
「……。おい」
はっと気づいた時には遅かった。電気を消してからどれぐらい経った頃だろうか。緩やかに眠りを深めていた俺の意識は無理矢理引っ張り上げられた。何かいる。俺一人しか潜り込んでいないはずの布団の中に、何かいる。
「これじゃ俺がベッド明け渡した意味がねえだろうが。おい」
毛布をめくれば、俺の身体に隙間無くがっしりと抱き着く7歳児の姿が。マジで何なんだこいつは。一体どれほど俺にくっついていれば気が済むんだ。眠りを妨げやがって、ったく。引っ張り出して一発叱りつけてやろうかと伸びた俺の腕はしかし、中途半端なまま持ち上がった状態で静止することになる。
聞こえる。ぐすんと鼻をすする音と、幼子の微かな涙声が。
「……おかあさん……」
ああ、まったく、勘弁してくれ。卑怯だろうこんなの。無理矢理起こされた俺の憤りは一体どこにぶつければいい。夜の暗闇で寂しさにぐずる子供にぶつけられる訳がねえだろう。
寂しくない訳がない。こんな小さなガキが、母親と離されて寂しくない訳がないだろう。病院に入院することになった母の心配と、ただ単純に一人残された寂しさと。眠る前に色々と考えてひと肌恋しくなるのは仕方のない事だ。
ただ、一つだけ分からない事がある。
「……何で、俺なんだよ」
ルークが選ぶのは大抵俺だった。昔からそうだ。初めて顔を合わせたこいつが赤ん坊の頃から、何故か俺にだっこされたがった。親戚同士で集まるとまず真っ先に俺の所に駆け寄ってきた。そして他の誰とも遊ばず俺と遊びたがった。ルークと同年代のガキは他にいるのに、歳が離れた俺の所に何度も何度も近づいてきた。今回も、迷うことなく俺の家を選んだ。ずっと疑問に思っていた。正直懐かれるようなことをした覚えは一切無い。こいつには会う度に怒鳴ってばかりだし、自分でも自覚しているほどの人相の悪さだし、愛想笑いすらまともに出来ない俺が子供受けなんてする訳がない。それなのに。
何でルークは、俺を選ぶんだ。
「何でいつも、俺なんだよ」
ほら今だって。俺に縋り付いてくるお日様色の頭を、こんなにぎこちない動きでしか撫でてやる事が出来ない。優しい言葉も温かい抱擁も与えてやれない。俺に出来るのはこれぐらいだ。俺がそういう不器用な奴だって、生まれた時から付き合っているルークならいくら幼くたって分かっているだろう。
ルークは潤んだ瞳を持ち上げ俺を見上げた。そうして、嬉しそうに笑った。
「だってアッシュ、強くてかっこよくて、そんで誰よりもやさしーもん」
決して上手くは無い俺の撫で方が何よりも気持ち良いのだと言わんばかりの嬉しそうな顔で、ルークは笑った。
「だからおれ、生まれた時からずっとずっと、アッシュが大好きだよ」
抱き着いた俺の胴に頭をこすりつけるルーク。まるで猫か何かだ。俺はその頭に手を置いたまま、天井を見上げて大きく息をついた。……まあ、とりあえず俺はこいつにとって、憧れの兄貴のような位置にいると、そういう訳でいいんだよな?子供の頃の大好きは何にだって適用されるものだ。少しでも好ましい対象は全て「大好き」になる。それが子供だ。だからきっと深い意味は無い。ある訳がない。
だからこそ、こんな事に一瞬でも動揺してしまった己が憎い。ごまかすようにもう一度息を吐いた俺は、俺にしがみついたまま離れようとしない頭を撫でる。まったくもって慣れない動きで。
「……分かったから、もう寝ろ」
「んー」
「今日は仕方ねえから、一緒に寝てやる」
「……うん!」
途端に涙目でにぱっと笑顔をみせる。それ見て俺は、確信とも呼べる予感がした。ルークが俺の部屋で暮らす毎日が続く限り、こうやって一緒に寝る羽目になるのではないかと。きっとこの予感は、外れる事は無いだろう。
まったく何てことだ。腕の中のぬくもりをぎこちなく抱きしめた俺はうんざりする。
ただ俺はその毎日を想像して、最初のように「悪夢の始まりだ」とは思わなかった訳で。
……もしかして俺は、こいつに絆されている?自分の心が分からなくて、戸惑う。眠気などとうに覚めてしまった。今夜はもうよく眠れそうにない。
とりあえず明日の朝は、俺にくっついた途端に安心したようにぷーぷー呑気に寝始めやがったルークの頬を、思い切り引っ張ってやろう。そうしよう。
初恋は、憧れの親戚のお兄ちゃん
13/10/10
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