「ルークって近頃無駄に張り切ってるよね」


始まりはアニスのそんな一言だった。その言葉に皆でルークをちらと見やる。只今ルークは料理中で、それは自ら志願した事だった。旅をする中でさすがに失敗は少なくなったが今日は新しいレシピに挑戦しているようで、頑張るですの!とミュウが応援する中1人悪戦苦闘している様子だった。ガイは包丁で指を切らないか火で火傷しないかハラハラしながらそれを遠巻きに見守っている。遠巻きなのは、自分1人でやるから邪魔をするなとルークからきつく言われているからだ。近くにいれば手が勝手に動いて手伝ってしまうに決まっているので、他の仲間達の元で待機中なのだ。


「頑張る事に無駄なんて無いわ。良い事じゃない」


ルークの足元で応援しながらちょろちょろ動き時々蹴られているミュウを熱の篭った目で見つめていたティアがフォローを入れた。ルークの頑張りを最も間近で見てきた1人だからなのかもしれない。それはわかってるけどぉーとアニスが唇を尖らせていると、ナタリアがルークの頑張る様子を微笑ましそうに眺めながら口を挟んでくる。


「しかし、確かにルークは前よりもっと頑張ってる様子ですわ。もちろん良い事ですけれど」
「ふむ……何か理由があるのかもしれませんね」


ジェイドが眼鏡を光らせながら興味深そうにそう言ったので、皆はルークが頑張る理由を考えてみる事にした。料理が出来上がるまでの暇つぶし、とも言う。


「まず何に頑張ってるっけ。今見たとおり料理でしょー」
「もうすぐ「クッキンガー」だしな」
「この間はガイの制止を振り切って闘技場で「ソードオブソード」をとってましたわ」
「同じ時期に「ベルセルク」もとっていたわね」
「何度怒られようとも「ドラゴンバスター」の称号をとるまで張り付いていましたしねえ」


最近ルークが頑張っている事についてあげてみた皆は顔を見合わせた。こうやって上げてみるとただ単に称号集めにはまっているようにしか思えないのだが。


「だがどう考えてもそれだけじゃあの気迫の理由にはならないよなあ」
「鬼気迫るような表情で……まるで追い詰められているように必死に取り組んでいるし……」


ガイとティアが心配性の親のような表情でルークを見る。ちょうど味見をしているところのようだった。ひどく真剣な瞳でじっと料理を見つめて、というか睨みつけている。ルークの周りだけが、緊張の空気が一杯で今にも張り裂けそうであった。


「そういえば称号だけではありませんわ。戦闘中も周りが見えないぐらい集中していて、わたくし毎日ハラハラしてましたの」


ナタリアが胸に手を当てながら言う。回復役として後衛で仲間達を見守っているからこそ余計に心配なのだろう。ティアも重々しい表情で頷いている。


「回復するこっちの身にもなってほしいわ。守ってくれるのは、ありがたいのだけど……」
「以前からの彼もあそこまで無謀ではありませんでしたからね。よほど気になるものが出来たのでしょう」


ジェイドの言葉にガイが振り返った。何か引っかかる言葉があったらしい。


「気になるもの、ってどういうことだい?旦那」
「ルークが頑張る目的ですよ。全てはそのためにああやって頑張っているのでしょうから」


ああやって、と評される料理中の背中は、殺気すら漂ってくるような気がするほどだ。するとガイはなにやら顔色を悪くしながらより一層心配そうにルークを見やる。嫌な予感でも感じ取ったのかもしれない。ジェイドがやれやれと肩をすくめてみせた。


「そんなに気になるのなら本人に聞いてみれば良いでしょうに」
「た、確かにそれが1番手っ取り早いかもしれないが!」
「ルークってば意地っ張りだから簡単に話してくれなさそうですしー。ってそーだ!あいつに聞きゃいいじゃんっ!」


アニスが表情明るくしながらぽんと手を打った。どんな名案が閃いたのかと全員が見つめる中、アニスはこそこそと移動してルークの足元から何かを掻っ攫ってきた。料理に集中しているルークはそれに気がつかない。かくして、アニスに誘拐されてきたものとは。


「ミュミュ?!な、何ですの?!」
「いつも一緒なんだし、ミュウならルークが頑張ってる理由知ってるでしょ!」


アニスに鷲づかみされてオタオタしているミュウを見てなるほどと皆頷いた。何せ、ルークが絶対に他の人には見せようとしない日記の中身も時々覗いているぐらいなのだ。ミュウなら何か知っているかもしれない。それに仮に口止めされていたとしても案外口は軽いようなので、聞き出すにはうってつけだ。


「ご主人様が頑張ってる理由、ですの?」
「そうよミュウ、何か聞いたりしてないかしら?(可愛い……)」
「ミュウ〜……ご主人様はお話してくれた事は無いですの……」


しょんぼりと耳を垂れ下げるミュウに全員でがっくりと肩を落とした。ミュウにも話していないとすると、聞き出すのは困難になるだろう。しかし次にミュウは目を輝かせながら顔を上げた。


「でも、ご主人様が特に頑張っているときは分かるですの!」
「「特に?」」
「そうですの!アッシュさんと会った後はいつもより何倍も頑張ってるですの!ミュ?!」


次の瞬間、アニスの手の中にいたミュウは別の手に渡っていた。いつの間に傍にいたのか、ルークが若干顔を赤くしながら奪い取ったミュウを地面にたたき付けてぐりぐり踏んづけていたのだ。


「こんのブーターザールー!余計な事を喋りやがってー!」
「ミュウゥゥゥ〜久しぶりですのー」
「ルーク!ミュウに何てことするの!つぶれた感のあるミュウも可愛いけど!」
「ティアー心の声が出てるぞー」


ティアにとめられてしぶしぶミュウを解放するルーク。そこへ皆の視線が突き刺さって一歩後ずさった。ナタリアは普通に驚いた顔、ジェイドとアニスはにやにやした顔、ガイはどこか恐ろしい顔をしてルークを見ている(ティアはミュウを見ている)。


「ルーク?どういう事なのかちゃんと説明してくれるよな?」
「ルークの頑張りってアッシュのため?アッシュのためなのー?」
「う、うるさいっ!あーそうだよそのとおりだよ!」


開き直ったかのように怒鳴ったルークは、しかし次には真剣な表情をしていた。その必死さが垣間見える真っ直ぐな瞳に仲間達は一瞬にして黙ってしまう。茶化せもしなかった。


「俺にとって、アッシュは誇りなんだ。世界中の人に『こいつが俺のオリジナルなんだぞ』って自慢したいくらいなんだ!」


その真っ直ぐな視線の先には、あの真紅の長い髪を持った彼がいるのだろう。ルークは限りなく尊いものを想うように目を細めた。それは誰にも汚す事が出来ないルークの純粋な想いだった。


「だから、俺もアッシュに自慢される……とまではいかなくても、せめてアッシュにとって恥ずかしい存在にならないように頑張るんだ」


まだまだ全然駄目なんだけどな、と照れくさそうに頬をかくルークを、しかし誰も笑う事ができなかった。問い詰める気満々だったガイも手を出せなかったし、からかう気満々だったアニスもジェイドも口を挟めなかった。ルークの想いの篭った言葉を踏みにじれる人間なんて、この中にいなかったのだ。
圧倒されて思わず押し黙る一同の中で、いち早く立ち上がったのは若干天然の入ったナタリアだった。


「素晴らしいですわルーク!アッシュもきっと喜んでくださるに違いありませんわ!」
「そ、そうかな……」
「ええもちろん!そうですわよね、皆さん?」
「ご主人様はとても頑張っているですの!ボクが保障するですの!」
「そうね。もっと自分に自信を持たなきゃ駄目よルーク。あなたが頑張ってる事は皆認めているんだから」


ミュウを抱きしめたティアにもよしよしと励まされ、ルークはありがとうと照れくさそうに笑ってみせた。アッシュが少しでも喜んでくれた所を想像したのか、すごく嬉しそうな笑顔だった。そんなほのぼのとした光景を傍から眺めながら、ポツリと呟く3人が。


「チッ、すでにほとんど認めてるくせにツンデレ吹かしてルーク纏わりつかせてる被験者が」
「俺カースロットがぶり返してきそうだ、本物の公爵子息に」
「彼とは一度よーく話し合わねばならないようですね」


部分的に吹き荒れる嫉妬の嵐にルークが気がつくはずも無く。狙われたオリジナルがどこかでくしゃみをしたとかしないとか。
赤いヒヨコの愛し子がいくらこちらが追いかけても一途に彼を追いかけ続けるものだから、仲間達はため息をつくしかないのである。





   頑張るヒヨコを見守り隊





07/02/18





キリ番「252525」夢の夢さんから、「アッシュのために頑張るルーク」リクエストでした。
リクエストとともに頂いた台詞↓素敵…!
「俺にとって、アッシュは誇りなんだ。世界中の人に『こいつが俺のオリジナルなんだぞ』って自慢したいくらいなんだ!」
「だから、俺もアッシュに自慢される……とまではいかなくても、せめてアッシュにとって恥ずかしい存在にならないように頑張るんだ」