※補足説明
「ルミナシア」…マイソロ3の世界の名前
「グラニデ」…マイソロ2の世界の名前





ある常識を外れた存在のお陰で全く別の世界なのに繋がりを持つ事が出来たグラニデとルミナシア。別の世界の自分という本来ならば一生出会う事もないであろう邂逅を果たしたアドリビトムの人々は、お陰で超常現象の類にはもうほとんど慣れっこであった。自分たちが暮らしている世界とはまったく断りの違う世界なんて星の数ほどあるし、そこには自分と同じ存在が同じ数だけ生きているという事を全部、知っているからだ。二つの異なる世界を股に掛ける者たちだからこそ知っていた。
そう。だからアドリビトムの面々にとって、すでに同じ存在が二人揃っている所にもう一人増えたりしても、それは別に特に驚くような事では無くなってしまっているのだった。


「いいや!やっぱりおかしい!こんなのおかしいよ!こんなに同じ顔が揃って良いなんて事、絶対無いっ!」


それなのにアドリビトムの本拠地であるバンエルティア号の上では今、驚愕に頭を抱えている人物がいた。答えは簡単だ、その叫んでいるのが、グラニデの人間でもルミナシアの人間でもないからだ。


「おかしいって言われてもなあ。実際ここに揃ってるし」
「今更二人いたのが三人になっても対して変わんねえし。お前は一体何が不満なんだよ、ああ?」


困ったように頭をかくのがグラニデのルーク、イラつく様にガンを飛ばすのがルミナシアのルーク。そしてその二人に見つめられて、戸惑い慌てているのが、さっきこの世界にやってきたばかりの三人目のルークだった。その横には額に手を当てて途方に暮れた様子の三人目のアッシュもいた。二人揃って、空の上からまるでディセンダーのようにこの船の上に大きな音を立てて落っこちてきたのである。
ちなみにグラニデのアッシュは一歩後ろに下がった所で呆れるようにこちらの様子を眺めていて、ルミナシアのアッシュは最早こちらを見ようともしていなかった。


「なあアッシュ、これって俺たちの方がおかしいのかな……そもそも何で俺たちこんな訳のわからない世界にいるんだろう。師匠を倒して、ローレライを解放して、それから目を覚ましたら何故かすでにこの世界だったし」
「ちょっと黙ってろ屑……今頭の中を落ち着かせている所だ。くそ、俺は死んだはずではなかったのか……」
「それ言うなら俺だってもうとっくに死んでてもおかしくない頃だよ。ううっやっぱりローレライの仕業なのかなこれ……」


どこか深刻そうに肩を落とす三人目の赤毛の二人に、グラニデとルミナシアのルークは顔を見合わせ首を傾げる。二人は未だギクシャクしているアッシュ達とは違って、それなりに意気投合して仲良くなっていたりする。これもそれぞれ双子の兄同士の熱い友情なのか。
しばらく待ってみたが、三人目のルークとアッシュはただブツブツと何事かを呟いているだけであった。このままではいつまで経っても話が前に進まなさそうだ。よしと頷き合った二人は、こちらから尋ねかけてみる事にする。まずはグラニデルークが先陣を切った。


「なあお前ら、どこの世界から来たんだ?同じ名前だと呼び辛いから、皆出身の世界の名前をつけたりして呼んでるんだけど」
「せ、世界?えーと……?お、オールドラントでいいのかな?」
「俺に聞くな屑」


三人目のルークが三人目のアッシュに目配せするが一刀両断される。気持ちは分かるがもうちょっと優しくしてくれたってとがっくり項垂れる三人目のルークに、次は好奇心旺盛な目でルミナシアのルークが話しかける。


「なあなあ、やっぱりお前達もアドリビトムやってたりすんのか?どんな経緯で入ったんだ?やっぱ内乱から逃げたとか?つーかお前ら王族か?城育ちか?こっちはグラニデのアッシュだけが庶民育ちでよー」
「余計なお世話だ!」
「あ、あどりびとむ?内乱?王族?」


さっぱり話についていけない三人目のルークは、目を白黒させながらも何とか答えた。隣の三人目のアッシュが一切答える気がなさそうだったので、一人必死で考えるしかないのだ。


「とりあえず俺たちの世界にはあどりびとむなんてのは存在しないし、あんなバカでかい木なんて生えて無いし。王族かと言われれば、まあそんな感じだけど」
「ええっ世界樹が無いのか?!アドリビトムも!」
「……どうやらそっちは俺たちの世界とは随分と様子が違うようだな」


途中地味に馬鹿にされてこめかみをひくつかせながらも、グラニデアッシュが口を挟む。そっぽを向いていたはずのルミナシアのアッシュも興味深げに見つめてきていた。もちろん二人のルークは色々と聞きだしたそうにうずうずしている。その勢いに押されるように三人目のルークが一歩下がって三人目のアッシュの手にしがみつくが、すぐに振りほどかれる。寂しい。


「お前達が来た世界の事、詳しく教えろよ!」
「こっちの世界の事はその後ちゃんと説明するからさ!なっ!」
「ううっ分かった分かったよ、話せばいいんだろ話せば!」


こうして赤毛だらけの三世界交流は始まった。バンエルティア号の甲板で赤毛ばかりが六人、三人目のルークが懸命に説明する異世界の話に皆で聞き入る。ちなみに今現在いる世界はルミナシア、甲板が待機場所な唯一の人物セルシウスは只今ディセンダーと共に雑魚狩りに行っているので、邪魔する者はほとんどいなかった。


「……とまあそういう訳で、目が覚めたら何故か二人でこの世界にいた訳なんだけど」
「れぷりか?まあ難しい事は分かんねーけど、つまりお前らって血繋がって無いのか?」
「え?いや、ある意味同じ血だけど、確かに肉親かと聞かれたらそれとも違うような……」
「……ちょっと待て」


それまで三人目のルークが変な事を言った時につっこむぐらいしか口を挟んでこなかった三人目のアッシュが、そこでようやく話を止めてきた。その目はどことなく真剣だった。


「その言い方、まさかとは思うが……お前達は血が繋がっている、とでも言うつもりか?」
「双子だけど?」
「おお、双子だろ、当たり前に」
「何い?!双子だと?!」


ケロリと答えるグラニデとルミナシアのルーク。三人目のアッシュは納得がいかない様子で声を上げた。改めて双子と名乗るのは気に入らないがその反応がさらにムカつくといった顔で、ルミナシアアッシュが睨みつける。


「何か文句でもありやがるのか」
「ありすぎるだろうが!何で俺がこんな屑レプリカと双子の兄弟なんか……レプリカてめえも変な顔してるんじゃねえ!」
「いてっ!だ、だってアッシュと本当の双子なんて、そんな事考えた事もなかったから……!嘘ですちょっと考えた事はありました」


三人目のアッシュにどつかれながらも、三人目のルークのにやにや笑いはなかなかおさまらなかった。色々想像しているのだろう。ぎゅっと握り拳を作ったアッシュは、怒り顔ではあったがそれを三人目のルークへ振り下ろす事は無かった。言葉はきついがやっぱり少しは丸くなっているのかもしれない。
しかしその直後、必死に自らの衝動を鎮めようとする三人目のアッシュへ、堪え難い衝撃の言葉が飛び出した。


「俺たちの方こそれぷりか?とおりじなる?みたいな関係なんて思いもしないけどな。……いけすかねえけど、アッシュとはずっと双子でやってきたし」
「だよなー!俺もアッシュが双子の弟じゃなくなるなんて、考えられないよ」
「おい、待て」


三人目のアッシュの手はその時震えていた。三人目のルークはまだその言葉の真意を飲み込めずに戸惑っている。いきなり止められてキョトンとするグラニデルークに、三人目のアッシュは静かに言った。


「もう一度、さっきの言葉を言ってみろ」
「え?さっきの言葉って……アッシュが双子の弟じゃなくなるなんて考えられない?」
「それだっ!」


三人目アッシュは立ち上がった瞬間に剣を抜いていた。そしてちょうどそこにいたグラニデアッシュへとものすごいスピードで切りかかる。辛うじて反応する事が出来たグラニデアッシュはその斬撃を何とか剣で受け止める事が出来た。周りが驚く中、三人目のアッシュは怒りにまだまだ燃え上がっていた。グラニデアッシュがギリギリと音を立てる剣に力を込めながら三人目のアッシュを睨みつける。


「ってめえ、どういうつもりだ!」
「それはこっちの台詞だ……弟?弟だと?!双子の兄弟だけならまだしも、弟?!ふざけてんのか、ああ?!」
「どっどういう意味だ!」
「こんなへなちょこが兄で俺が弟だなんて、明らかにおかしいだろうが!お前ら揃って何やってやがった!情けねえ!恥を知れ!」


怒り心頭の様子で三人目のアッシュは剣を払った。別の世界の自分と言えど、ルークが兄で自分が弟という事実が受け入れられないようだ。直接その理不尽な怒りをぶち当てられたグラニデアッシュはもちろんムカっときていたが、同じように目を据わらせて三人目のアッシュの前に立ちはだかった者がいた。ルミナシアアッシュだった。


「黙って聞いていれば言いたい放題言いやがって……こっちだって好きで後から生まれてきた訳じゃねえんだよ!」
「そうだ、オリジナルだか何だか知らねえが、お前にそれだけ罵られる謂われはねえだろ!」
「うるせえ、お前らが軟弱だから先越されんだよ屑が!自分より死ぬほど情けねえ奴に兄貴面されて平気なのかお前ら!俺ならそんな事実とても耐えられたもんじゃねえがな!」
「屑が、お前が言うほどこいつは情けなくねえよ!」


三人目のアッシュがあんまりにもボロカスに言うので、きっと怒りで頭が真っ白になってしまったのだろう。思いっきり言い切った後、ハッと我に帰ったグラニデアッシュであったが、時すでに遅かった。その言葉を聞いたグラニデルークがそれより早く我に返って、グラニデアッシュへと喜びのタックルをかましたのだった。


「あっアッシュぅぅぅぅ!いつもいつも俺の事邪険にしていたけど、実はそんな事思ってくれていたなんて!ありがとうアッシュ!俺お前の兄貴で良かった!」
「ち、違っ、あああれはとっさに出ただけの言葉でって聞けー!離れろー!」
「とっさにああ言えるほどグラニデの方のあいつらって仲良くなってやがったのか……」


くっつき離れないグラニデの二人を見ながら、ルミナシアルークはどこか羨ましそうにそう呟いた。そうしてちらりとルミナシアアッシュへと振り返れば、ばっちり真正面から目が合う。どうやら向こうもルミナシアルークを見ていたようで、慌てて顔を逸らされた。何か個人的に恥ずかしい事を考えたりしていたのだろうか、少しだけ顔が赤く見える気がする。


「……なあ、アッシュ」
「俺はあいつらのようには一切思ってねえよ」
「まっまだ何も言ってねえだろ!でもそうか……そうだよな……別に分かってた事だけどな」


強がりを言いながらしゅんと項垂れるルミナシアルーク。その姿を少しだけ見つめたルミナシアアッシュは、俯く頭をベシンと叩いた。その手に込められた力は、思ったより弱い。


「屑が、んな調子だと余計に情けなさすぎるだろうが。……兄だという自覚があるならもっと努力しねえと、俺は絶対に認めてやらねえからな」
「アッシュ……それじゃ、俺が努力したら兄貴だって認めてくれんのか?」
「はっ、知らねえな。生半可な努力じゃ無理だと思え」
「言ったな?!俺兄としてもっともっと頑張って絶対お前の事見返してやるんだからな!覚悟しておけよ!」


何だかんだ言ってお互いに気になって仕方が無いルミナシアの二人。まだあーだこーだと言い合いながらそれでも離れないグラニデの二人。そんな二組の双子の兄弟たちを、突然放置された形になった三人目のアッシュは呆れた目で眺めていた。何だろう、自分が何故か、あいつらの仲良しのダシにされたような気分。
さっきまでの怒りがぶすぶすと音を立てて鎮火していくのを感じていた三人目のアッシュの服がその時、控え目に引っ張られる。腹いせの意味も込めてじろっと睨みつければ、三人目のルークがひきつった笑いのまま一歩下がった。三人目のアッシュの怒りの気持ちも若干分かっているのだろう。


「し、仕方無いだろ、こっちの世界のあいつらは俺達とは別人だと思うしかないって。俺だって、アッシュが弟なんて絶対に思えないし」
「当たり前だ屑がっ!」
「だよなあ、どっちかというと俺が弟で、アッシュが兄って方がしっくりくるよなあ。少なくとも俺たちの場合は」


本当は双子の兄弟だなんて、なれっこないのだが。それでも目の前で兄弟愛が繰り広げられれば嫌でも考えてしまう。二組の双子と三人目のアッシュを交互に眺めた三人目のルークは、少しだけ考えた。その表情に嫌な予感しかしない三人目のアッシュが何か言う前に、三人目のルークはおそるおそる、言った。


「……アッシュ兄上?」
「っ?!」


三人目のアッシュの時が一瞬止まった。少しの間の後、顔を真っ赤にした三人目のアッシュが三人目のルークに斬りかかる。半ば予想していた三人目のルークはそれを余裕を持って避け、甲板の上を逃げ出した。


「何だよ言ってみただけだろー?!つーか今一瞬間があっただろ、もしかしてまんざらでもなかったんじゃねーの?!」
「な、んな訳あるか屑が!そこに直れ!ド屑な弟もどきなんざ俺がしつけのために斬り捨ててやる!」
「やっぱり若干気に入ってるんじゃねーかあー!」


三組の赤毛が、それぞれの世界に入ってしまったバンエルティア号の甲板。依頼から帰ってきたセルシウスがディセンダーと一緒に呆れた目でその様子を少し前から見ていた事を、皆まだ知らない。


「はあ、互いに好き合っているだろうにあんなに反発しあうなんて、人間はやっぱり分からない事が多いわ……」


セルシウスの言葉に大きく頷いて同意したディセンダーの顔は、にやにや笑顔。さてさらに増えた面白い赤毛たち、どの子からいじっていこうかなどと、楽しそうに考えているのだった。





   トリプルブラザー・マイソロジー

11/05/29