※補足説明
「ルミナシア」…マイソロ3の世界の名前
「グラニデ」…マイソロ2の世界の名前





異世界であるルミナシアとグラニデの二つの世界は今、ニアタによって自由に行き来が可能になっていた。こんな面白い事態に参加しないギルドのメンバーはもちろんほとんどおらず、いてもノリノリの仲間たちに無理矢理参加させられたりする。つまりは、両方のアドリビトムの皆が互いに対面を果たしているのだった。
片方のアドリビトムにしかいないメンバーも中にはいるが、両方に所属している者たちは互いに鏡のようなそっくりな異世界の自分を見て、驚いたり笑ったりしていた。しかし、一組だけ、それに限らない者がいた。


「おい!アッシュ以上に俺とそっくりそのままの人間が見れるからって楽しみにしていたのに、何だよお前!何で髪切ってんだよ!」
「うっうるさいな、髪を切るのは俺の勝手だろ!逆に言えば何でお前は髪を伸ばしたままなんだよ!髪を切りたくなるような反省する場面とか、お前には無かったのか!」
「はあー?何で俺が反省しなきゃいけないんだよ、マジうぜえ!」


対面した途端に互いに言い合いを初めてしまったのは、ルークだった。ルミナシアのルークは髪が長く、グラニデのルークは髪が短い。他の人はそんなに違いは無かったのに、ルークだけが明らかに見た目違っていた。そして違うのはどうやら、見た目だけでは無かった。
グラニデルークは、だるそうな態度のルミナシアルークに、うわっと顔を青ざめさせた。思い出したくない過去をルミナシアルークに見たためだった。


「こっこの態度、俺の髪が長かったころの姿にそっくりだ……お前、別の世界というより過去から来たとかじゃないよな?」
「んな訳ねーだろ!それよりその言い方止めろよな、まるで俺の方が遅れてるみたいに見えるじゃねえか!俺を誰だと思ってんだ!」
「うわーうわー止めろ止めてお願い!昔の自分を見ているようで猛烈に恥ずかしいからっ!」
「はっ恥ずかしいとか言うな俺に失礼だろ!」


ルミナシアルークが喚けば喚くほど、グラニデルークは慌てて顔を背けた。グラニデルークにしてみれば、黒歴史が具現化して目の前に突きつけられたも同然だからだ。耐えられなくなったらしいグラニデルークは、後ろで呆れた顔をして立っていたグラニデアッシュに泣きついた。


「アッシュー助けてくれー!俺の醜い過去が嫌がらせしてくるんだよー!」
「醜いとは何だー!」
「くっくっついてくるな離せ屑がっ!自分の過去はきちんと自分で受け止めろ!」
「だから過去じゃねーっつってんだろ!」


グラニデルークを慌てて突き放すグラニデアッシュだったが、すでにディセンダーを巻き込んでの決闘を行い兄弟間で和解した後なので、決して冷たいものではない。怒鳴るのをとりあえず止めて、改めてグラニデアッシュを見つめたルミナシアルークは、ふと傍らのルミナシアアッシュを眺めた。ルミナシアルークの視線を受けたルミナシアアッシュは、じろりと睨み返す。


「……何だ、屑」
「屑って言うな!それより何でお前、俺を差し置いてあいつとそっくりなんだよ。ずるいだろ!」
「何がずるいんだ屑が!それならてめえもあいつみたいに髪を切ったらどうだ?あんな風にお気楽ひよこ頭になったらただでさえ軽い頭がさらに軽くなって身軽になるだろうよ!」
「「んだと?!」」


両方のルークの声がぴったりと重なる。直接馬鹿にされたルミナシアルークも、間接的に馬鹿にされたグラニデルークも聞き捨てならない言葉である。ルミナシアアッシュはそんな抗議の声などどこ吹く風で視線を逸らした。ルミナシアルークは悔しさに地団太を踏み、グラニデルークは隣のグラニデアッシュをがくがく揺らす。


「アッシュ!向こうのアッシュに俺の髪形馬鹿にされたぞ!」
「うるせえいちいち俺に言うな!ひよこ頭なのは事実だろうが!」
「ひよこ頭って言うなー!髪を切ったらこうなったんだよ!俺だってもっとアッシュみたいにかっこいい髪形が良かったよ!でも伸ばしたままでもあんな風にぼさぼさにしかならないんだ!何でだよアッシュ!俺たち双子だろ?!」
「おっ俺が知るか!」


さりげなくかっこいいとか言われたグラニデアッシュは衝撃に顔を赤らめながらもこちらを掴んでくるその手を叩き落とす。でもその力はやっぱりそんなに強く無くて、一方的に突き放すものでは無かった。
グラニデ組の一部始終を見ていたルミナシアアッシュが、不快そうにちっと舌打ちをした。


「異世界の俺はどうやら随分と腑抜けらしいな。情けない面をしやがって」
「ああ?何だと、てめえ……」
「おっおい!うちのアッシュをいじめるのは、いくら別の世界のアッシュだからって許さないからなっ!」


それに何かグラニデアッシュが反論をする、その前にグラニデルークが前に飛び出し、まるで庇うように手を広げた。どちらのアッシュも驚いたが、その中でも一番驚いたのはルミナシアルークであった。目を丸くして、グラニデルークを見つめる。


「お、お前、公衆の面前でよくそんな事出来るな」
「え?俺何か恥ずかしい事してるか?」
「思いっきり恥ずかしいだろ屑!やめろ!」
「恥ずかしくなんてない!だって俺はアッシュの兄なんだから、弟の事は兄が守ってやらなくちゃ駄目だろ!」


ぐいっと握りこぶしをつくって力説するグラニデルークに、グラニデアッシュは恥ずかしさのあまり口をパクパク開け閉めさせる事しか出来ない。一方ルミナシアルークは、グラニデルークの言葉に今日何度目かの衝撃を受けていた。
まさかそんな言葉が、自分と同じ顔から飛び出してくる事があるとは思わなかったのだ。確かにルークとアッシュはどちらの世界でも双子の兄弟ではあるが、ルミナシアの二人は少なくとも、こんな風に庇い合うような仲では決してないからだ。


「あ、兄が、弟を守る?」
「そうだろ?お前んところもそうじゃないのか?俺は今までずっとアッシュと離れていた分、兄らしい事はやってこれなかったけど、お前はそうじゃないんだろ?」
「俺……俺の所は、そんな仲じゃねーし……」


俺だってそんな仲じゃねーと抗議の声を上げるグラニデアッシュの声は全て無視される。グラニデルークはキョトンとして、気まずそうに視線を逸らすルミナシアルークと、いらついている様子のルミナシアアッシュを交互に見つめる。そしてそっとルミナシアルークに近づいて、小声で話しかけた。


「もしかして、仲悪いのか?」
「わっ悪いか?!」
「いや何か、もったいねーと思って……生まれてからずっと一緒だなんて、俺としては限りなく羨ましいから」
「羨ましい?こんなのと四六時中一緒にいなきゃならない俺の立場が羨ましいだと?!」


こんなの、と指差されたルミナシアアッシュがじろりと睨む。気圧されるように言葉に詰まったルミナシアルークは、それでも後ずさらないようにその場で足を踏み留まらせる。兄としての威厳を最低限持ちたいために負けないようにしなければと必死なルミナシアルークに、グラニデルークはまったくもうとため息をついた。


「駄目だろ、唯一の弟にそんな事言っちゃ!お前兄貴なんだから、弟の事受け入れてやれよ」
「う……受け入れる?」
「そうだよ!あんなにおっかない顔してるけど、それもアッシュの個性だろ?睨んで見えるのも元々ああいう顔だからって兄として全部受け入れてやらなきゃ!」


何気に酷い事を言っているグラニデルークだが、ルミナシアルークはその言葉を深く胸に刻み込んでいた。少しの間じっと今の言葉をかみしめるように考え、おそるおそるグラニデルークを見つめてくる。


「俺でも、受け入れられるかな……今までずっと、王位継承の事とか、考えないようにしてた。アッシュの奴の方がしっかりしてるし、周りの奴だってあいつの方が似合ってるって思ってるだろうって、勝手にひがんだりして……逃げてばっかの俺に……」
「出来るさ。だって、お前はアッシュの兄だろ?」


にこりと微笑みかけるグラニデルークは、すぐに照れくさそうに頬をかいた。


「なんて偉そうなこと言ってるけど、俺もまだまだ、駄目駄目なんだ。アッシュに怒られてばっかでさ。だから、一緒に頑張ろうぜ。立派な兄になれるようにさ」
「立派な、兄……」


落ち込んでいたルミナシアルークの瞳に、光が満ちた。今までずっと、アッシュとどうやって接していったらいいのか分からずに、ぶつかり合ってばかりいた。しかし今こうして自分とほとんど同じ自分という味方を得て、未来に光が見えた気がしたのだ。自分もこうやって、双子の兄弟に表だって仲良くしたり出来るだろうか。
いいや、しなければならないのだ。自分が率先して、仲良くやっていこうとしなければならないのだ。だって、兄は自分なのだから。


「……お前の事最初、なよなよしやがる情けないひよこ頭野郎と思ってたけど、少し見直したぜ」
「い、言ってくれるな、俺のリアル黒歴史……」
「だから俺も、お前みたいに、兄として頑張ってみようかな……」
「おお!応援してるぞ!」


グラニデルークに力強く肩を叩かれて、ルミナシアルークは決意を新たに頷いた。
その勢いのままぐるりと、呆れた顔でこちらを見つめていたルミナシアアッシュへと振り返る。


「という訳でアッシュ!俺が兄としててめえの事をこれから存分に可愛がってやるから、特別に弟として甘えさせてやってもいいぜ!」
「断る!」
「こっ断られたー!」


即答されたルミナシアルークはショックを受けるが、その背中をグラニデルークが支えてやった。


「それぐらいで諦めるなよ、頑張れ兄貴!」
「あ、ああ、俺頑張るよ!アッシュの野郎を兄として屈服させてやるまで!」
「おい!てめえの所の屑のせいでうちの屑が変な影響を受けて余計に屑になってるじゃねえか!どうしてくれる!」
「俺の方がどうにかして欲しいぐらいなんだよ、あの馬鹿兄……」


励まし合う兄貴ズ。それを見て怒り顔で掴みかかってくるルミナシアアッシュに、グラニデアッシュは全てを諦めた顔で息を吐く事しか出来なかった。

こうして二つの異世界を股にかけた二組の赤毛の双子の兄弟戦争は、まだまだ始まったばかりなのだった。





   ダブルブラザー・マイソロジー

11/05/15