音素戦隊アビスマン!

                          第41話『思わぬ助っ人?!明かされるアビスシルバーの正体!』



前回のあらすじ:
ブラッククリフォト団の罠にはまり、変身する力を奪われ一人窮地に立たされたアビスレッド。絶体絶命かと思われたその時、助けに現れたのは何と、敵であるはずのアビスシルバーであった!



アビスレッドことルークは、その後ろ姿を信じられない思いで見つめた。周りはすべてブラッククリフォト団の戦闘員イビルマンたちによって囲まれているとてつもないピンチな状況に変わりはなかったが、それでも目の前に、ルークを守るように立ちふさがる背中があった。本来ならばルークに背中ではなく、正面を向いて立っているはずの人物だった。


「アビスシルバー……!何故お前が俺を助けるんだ!」
「………」


ルークの言葉に、しかしアビスシルバーは無言で答えた。次に言葉を発したのは、アビスシルバーと対峙する悪の死神博士ディストであった。


「アビスシルバー!まさか裏切るというのですか!……まさか、洗脳が解けたのか!」
「せ……洗脳?」


ディストの言葉をルークは呆然としながらも聞いていた。どういう事だか分からなかった。洗脳とは、一体何の事なのか。油断無く構えるアビスシルバーが、驚愕するディストへと静かに語りかける。


「貴様は夢にも思っていなかっただろうな、洗脳が解け始めている事を……。自分の科学力に相当な自信があったのだから」
「何故です!私の洗脳は完ぺきだったはず!それが何故解けたのですか!」
「理由なんて俺にも分からねえ。だが……きっかけはきっと、あの時だ」


そこでふと、アビスシルバーがルークを振り返ってきた。表情は見えなかったが、おそらく……微笑んでいるのだろう。若干柔らかな雰囲気がルークに伝わる。


「お前が敵であるにも関わらず、俺を助けやがったあの時だろう」
「え?……あ、あの時の事か……!」


以前、アブソーブゲート公園で戦った時の事を言っているのだろう。あの時巨大化して暴れ始めた怪人によって建物が崩され、負傷していたアビスシルバーが押しつぶされそうになった時とっさにルークが助けたのだ。あの時は特に何も考えていなかった、ただ助けなければとそれだけを思って、身体が動いていたのだ。
思いだした様子のルークに一つ頷いて、アビスシルバーはまたディストに向き直った。


「あの時から少しずつ、俺の洗脳は解けていった……。貴様達に気がつかれないようにするのは、少々骨が折れたがな」
「ムキーッ今までずっと私の手の駒として動いていたくせに生意気な!こうなったらあなたの変身も解いてあげますよ!喰らえ、薔薇の囁きビーム!」


ふいにディストが手の中の光線銃をアビスシルバーに向けて放った。それと同時にイビルマンたちがイーッとか何とか叫びながらアビスシルバーに襲いかかる!ルークは助けようと動いたが、先ほど攻撃を受けた足や腕が痛んで間に合わなかった。変身が解かれてしまった状態であんな大勢に襲われてはひとたまりもないだろう。
しかし、


「甘いな……俺が今まで、どれだけの修羅場を超えてきたと思っている!」


アビスシルバーの声が聞こえたと思ったら、イビルマンたちが一瞬のうちに宙を舞った。鋭いキックや重いパンチで次々と薙ぎ倒されていくイビルマンたち。その様子をあんぐりと大口を開けてディストが、驚きに目を見開いたルークがそれぞれ見つめる。
決着までそう時間は掛からなかった。辺りにイビルマンたちがごろごろと転がる中、その場に立っていたのは一人だけであった。真紅の長い髪を風になびかせながら、その一人がディストに言う。


「さあ……次は貴様の番だ」
「く……!きっ今日の所は引き上げますよ!次に会うときは覚悟しなさいっアビスレッド!アビスシルバー!」


捨て台詞を吐いてディストはすたこらと逃げ去っていった。辺りを埋め尽くしていたはずの戦闘員もいつの間にか姿を消している。ルークは傷を庇いながら、ゆっくりと立ち上がった。今だにこちらに背を向けたままの、変身が解かれたアビスシルバーの背中を見つめながら。


「……アビスシルバー、ありがとう。おかげで助かった」
「ふん、人質を取ったなんて嘘でほいほいと罠に掛かるなんて、相変わらずどうしようもない甘ちゃんだな」
「悪かったな……」


罠に掛かったのは事実なので反論はできない。むくれるように口を尖らせる事しか出来ないルークに、アビスシルバーは笑ったようだった。


「だからお前は、いつまでたっても屑なんだよ」


その言葉は罵っているように見えて、声はとても柔らかなものであった。思わずルークがポカンとしている間に、アビスシルバーがゆっくりとルークを振り返ってきた。
辺りはオレンジ色の太陽の光に照らされた夕陽の中だった。その真っ直ぐ伸びた艶やかな赤髪が、鮮血色に橙を滲ませる。まるでどこかで見たような色だった。そう、毎日鏡の中に写る、自分の髪とそっくりの夕焼け色。
そして……自分とそっくりの、その顔。


「お、前は……?!」


言葉を失うルークに、目の前の生きた鏡は目を細めて笑ってみせた。


「驚くのも無理はねえか。俺の事は、大昔に死んだとでも聞かされていたんだろう」
「そんな……まさか、そんなはずはっ」


そうやって言葉にしながらも、ルークの胸の中には喉につっかえる様な驚きと喜びに満ち満ちていた。どんなにルークの頭が否定しようとしても、身体が、心が、間違いではないと叫んでいる。ルークは震える足で一歩、前へと踏み出した。


「アッシュ、なのか……俺の、双子の兄弟の!」


目の前の顔は返事をしなかった。しかしその表情が答えていた。
父と母に聞かされた、今は亡き兄の話。覚えていないほど小さいときの数枚のツーショット。確かに一緒に生まれ、そして僅かな時を共に過ごしたのだというおぼろげで、温かな記憶。すべてが目の前の顔に重なる。
アビスシルバー……ルークの双子の兄、アッシュは、憂いを帯びた表情で俯いた。


「洗脳されていたとはいえ、俺は今までどれほどの悪事を働いてきただろうか」


その声は後悔を滲ませていた。とっさにルークは何も言えなかった。アッシュの後悔や、痛みは、アッシュにしか分からないからだ。


「ルーク、お前たちとも何度も戦った……このまま洗脳された状態でいれば、お前に手をかけていた可能性もある」
「そんなの!どうだっていいよ、今アッシュが生きて、ここにいてくれれば……」


真っ直ぐ手を伸ばしたルークは、そこにあったアッシュの手に触れ、握り締めた。一瞬反応したアッシュは、しかしされるがままだった。温かいアッシュの手を握り締めたまま、ルークは目を閉じてその温度を感じる。
このぬくもりはきっと、初めてではなかった。ルークの内側にずっと隠れていた記憶が教えてくれる。かつて共にあった存在。もう二度と会う事はないと思っていた相手がここにいるのだ。


「俺は嬉しいよ。例え今まで敵同士だったとしても、アッシュが生きていてくれた事が何よりも嬉しいんだ……!」
「ルーク……」
「アッシュ、これからはずっと一緒だよな、共に戦う事が出来るんだよな」


期待を込めたルークの言葉に、しかしアッシュの返事はなかった。しばらく悲しげに眉を寄せたアッシュが口を開こうとした途端、弾かれるようにルークの手を振りほどいて頭を抱える。


「っく……!」
「アッシュ?!」
「ふ……まだ、完全に解けた訳じゃねえって事か……」


自嘲気味にそう呟いたアッシュは、ステップを踏むように後ろへ下がった。すぐに駆け寄ろうとしたルークを、アッシュの声が阻む。


「寄るんじゃねえ!」
「?!」
「まだだ、まだお前の隣に立つには……時間がかかる」


辺りはもうすでに夜の闇が迫っていた。僅かに除く夕陽の光から逃れるように暗がりに飛びのいたアッシュは、一度だけルークを見つめた。別れを惜しむようなその視線はしかし、すぐに決意の光に取って代わられる。


「俺はしばらく、己に打ち勝つための旅に出る。もし完全に洗脳に打ち勝つ事が出来たその時は……お前に、会いに来る」
「!本当だな、約束だからな!俺、ずっと待ってるから!必ず、帰ってこいよ!」
「ああ……約束は好きじゃねえが、仕方がない。約束してやるよ」


ルークとアッシュの同じ色の瞳が合わさる。若干水を湛えたルークの瞳に笑いながら、アッシュは言った。


「それまで負けるんじゃねえぞ、アビスレッド!」
「はっ、お前こそどっかでくたばんじゃねえぞ、アビスシルバー!」


不敵に笑い合ったのは一瞬であった。すぐに背を向けてしまったアッシュは、ルークが瞬きをしている間にその姿を消してしまったのだった。
しばらくその場にルークが佇んでいると、背後から自分を呼ぶ声が聞こえた。仲間たちであった。


「ルークーッ!無事か怪我は無いか何もされなかったか?!」
「あなたがイビルマンの罠に嵌ったという連絡があって、急いで駆け付けたのよ。無事でよかった……」


真っ先に駆け寄って肩を揺さぶるガイの後ろからティアがほっとした表情をのぞかせる。追いついた他の仲間たちもそれぞれルークの無事な姿に安心してくれているようだった。そんな様子に嬉しさが込みあがってくる。さっきから若干うっとおしいガイをちょっとだけ押しのけながら、ルークも笑ってみせた。


「皆ありがとう、この通り俺は大丈夫!助っ人が現れたからな!」
「助っ人ぉ?一体誰だったの?」
「へへへ、それはまだ内緒!」
「まあ内緒だなんてずるいですわよ、一体誰だったのですか!」


詰め寄ってくるアニスやナタリアをかわしながらルークは絶対に言わなかった。今自分だけが知っているこの事実を、しばらくは独り占めしたいと思ったからだ。教えて!教えない!の応酬をしていれば、パンパンと手を叩いてジェイドが止めた。


「はいはい無事なことが分かった訳ですから、無駄な独占欲に付き合ってないで早く帰りますよ」
「どっ独占欲ってどういう意味だよっ!」
「そのままの意味ですが?」


にっこりと笑うジェイドに実は全部見通されているのではないかという考えに陥って、ルークは心の底で震えた。アッシュの姿は見られていないはずなのにどうしてだろうか。まさか最初から知って……いや、これ以上は考えないでおこう。ルークは考えるのをやめた。もっと恐ろしい答えに行き着く予感がしたからだった。
ジェイドの言葉にそうだな早く帰ろうと歩き始める仲間たち。その後に続こうとしたルークは、最後に一度だけ振り返った。ルークにとって唯一の兄弟が消えていった暗がりを見つめる。

約束をしたのだ。名残を惜しむ必要はない。絶対にまた、会えるのだから。


「ルーク?」
「ああ、今行く!」


元気よく返事をして、星が瞬き始める空の下駈け出した。もう、振り返らなかった。約束を交わした未来を信じ、歩き始めたのだ。


   つづく




次回予告!

双子の兄アッシュと再会する事が出来たルークはとても浮かれていた。一方そのころブラッククリフォト団では忠実な手下であった悪の貴公子アビスシルバーがいなくなった事で、新たな悪の計画を立て始めていた!果たしてアビスマンたちは敵の卑劣な計画に立ち向かう事が出来るのか!

次回!音素戦隊アビスマン 第42話『恐るべき悪の罠!アビスレッド再び大ピンチ!』
来週も、皆のハートにロストフォンドライブ☆







※もちろん連載は嘘です。エイプリルフール小説でした。

10/04/01