外に出るといつの間にか降っていた雨。冷たく薄いカーテンの向こうに緑色を見つけた瞬間、体が飛び出していた。そのまま斬りかかった勢いを止めたのは、何と同じ顔の六神将の1人であった。雫が滴り落ちる前髪の間から、ルークは呆然と目の前に立つ人物を見つめる。ルークが剣を降ろしたと同時に構えるのをやめた相手、アッシュもじっとルークを見つめていた。見えない鏡があるような、信じられない光景に仲間達もただ黙って見ている事しかできなかった。


「!っルーク!」


いち早く我に返ったガイが叫ぶのを切り目に時が動き出す。駆け寄る仲間達、だが、同時にアッシュも動いた。距離的に明らかにアッシュの方がルークに近い。ルークはまだ正気を取り戻していないのか微動だにしない。このままでは、間に合わない!
全力で駆ける仲間達の目の前で今、アッシュの腕がルークに向かって伸ばされ、そして……。


「屑が!傘も差さないで飛び出してどうする!風邪を引くだろうが!」


どこからともなく取り出した神託の盾騎士団の上着(前掛け?)をルークの頭の上に被せ、その上からまるで慈しむようにがしがしと夕焼け色の髪を撫でてみせたのだった。

あれえええええー?


「しかも前から思っていたが何だその格好は!腹を重点的に出して!恥を知れ恥を!」
「なっ……なあ?!」
「隙がありまくる軽装で外を出歩くな!どこに敵(と書いて害虫と読む)がいるか分からねえんだぞ!」


混乱するルークに構わずにアッシュの小言は続く。撤収の準備を進めていた神託の盾騎士団の者達も、駆け寄ろうとしていたガイたちも、思わず動きを止めてぽかんと赤毛の2人を見守っていた。例外といえば、驚いた様子ながらも優しい瞳で2人を見つめるイオンとか、動揺を顔には出さずに静かに眼鏡を上げてみせたジェイドぐらいなものだった。


「それに仲間だからといって気を許しすぎだ屑が!貴様には警戒心というものがないのか!」
「はあ?!」
「特にヴァンだ!盲目的に信じすぎて裏切られたらどうする!お前が傷つくだろうが!」


怒る所が違うと思いますー。片手を上げてのアニスの小声のつっこみはもちろんアッシュには届かない。アッシュの勢いにおされて口をぱくぱくさせていたルークは、ようやく気を取り直したようで、くわっとアッシュに掴みかかった。


「だーっ何なんだよさっきから!お前は何が言いたいんだよ!」
「だから貴様は屑なんだ!」
「何だとー?!」


憤慨するルークに向かってアッシュは素早く両手を伸ばした。それにとっさに肩をすくめるルークの頬に、伸ばされた勢いを感じさせないぐらい柔らかくそっと手袋に覆われた指が触れる。そのあまりにも優しい感触に、思わずルークは無防備に目の前の顔を見つめていた。


「俺はまだ、お前の傍で全てから守ってやる事は出来ねえだろうが」


その声も優しすぎた。目を見開くルークの後ろでは、鮮血のアッシュの知られざる一面を見てしまった一同が思わず絶句。というか2人の間に何があったんですか。
間にあるものを知っている、というか感づいている唯一の存在は、眼鏡を光らせながらどこか面白そうに成り行きを見守っているだけだった。


「お、前は……何なんだよ」


圧倒されたままルークが呟くように言った。もっともな疑問だった。尋ねられたアッシュは、その両手を離さないまま、真正面から笑ってみせた。その場に一瞬戦慄が走る。
アッシュが笑った!


「この世で唯一の大切な半身を守る、聖なる焔の騎士(ナイト)だ」


ぎゃああああ!

あまりに破壊力のあるその一言で、何人ものギャラリーがその場に跪いた。ちなみにルーク陣営はジェイドとナタリアを覗いたメンバーが撃沈している(ナタリアは「素敵……」とか何とか呟いている)。
そんな最終兵器(ファイナルウェポン)を正面から食らってしまったルークはというと、


「俺の……半身……?」


何故だかときめいていた。


「ルゥゥークゥゥゥゥー!戻ってこーい!」
「いやあ、これは予想もしていなかった(面白い)展開になりましたねえ」


飛び出しかける使用人の背中を踏みつけながら、死霊使い殿は爽やかに笑ってみせた。

2人の見つめ合いは、いつの間にか雨が止んで空に綺麗な虹が掛かるまで続いていたという。





   ふたりの再会

06/07/26