2、代わりの箒が無いか尋ねる。
「そうですね、代わりにお渡しできる箒がひとつだけありますけど」
そう言って一度奥に引っ込んだギンジは、1本の箒を手にして戻ってきた。
「こいつはタルタロス号!鬼のように丈夫な箒ですよ」
「へーっ!これ貰っちゃっていいのか?」
「どうぞどうぞ!……でもこいつ、ひとつだけ欠点があるんですよ」
喜んでさっそく箒タルタロス号に飛びつくルークに、ギンジは申し訳無さそうに言った。
「実はこのタルタロス号、超低空飛行じゃないと飛べないんですよ」
「低空飛行か……」
どのぐらい低い所を飛ばなければならないのかはまだ分からないが、今の所無事な箒はこのタルタロス号しか存在しないようだ。仕方が無い、とアッシュもそれで譲歩することにした。
「低空飛行といっても、ちゃんと飛べるんだろう。それでいい」
「本当にいいですか?すいません、おいらの技術が足りないばかりに」
「いや、十分助かった。んな卑屈するな、屑が」
「本当に助かったよギンジ、ありがとな!」
肩を落とすギンジにお礼を言って、アッシュは新たな箒タルタロス号を手に外へと出た。見送りに出てきたギンジに軽く手を振って、箒に跨る。
「よーし、タルタロス号、発進!」
アッシュの肩にしがみついたルークが声をかければ、タルタロス号はふわりと宙に浮いてから、ものすごい勢いで前へと進み出した。地面との間は1mもない。超低空飛行と称したギンジの言葉をアッシュはその時理解した。
「うわーっ木にぶつかるーっ!」
肩の上でルークが悲鳴を上げる。木も飛び越せないほどの超低空飛行なものだから、そこら中に生えている木の幹を避け続けなければならない。タルタロス号は宙に浮く能力を切ってスピードを重視した箒らしい、この速さで何かに激突すれば恐ろしい事になる。アッシュは箒を操って必死の思いで障害物を避け続けた。
そんな事をしていれば回りはいつの間にか真っ白な雪景色となっていた。ここが目的地か、と思っていれば、前方に大きな大きな白い塊が見えた。
「あっ!アッシュ見ろよ、あれがユキダルマンだ!」
体を縮こまらせてただぎゅっとアッシュの肩にしがみついていたルークが前を指差した。
「あれが、ユキダルマンだと……?!」
アッシュは絶句した。その体は確かによく見かける二頭身の雪だるまだ。しかし体の大きさが桁外れだった。おそらく10mは軽く越えているだろう、超巨大雪だるまがそこにあった。
「おや、ようやく正義の魔法使い様のご登場ですか。待ちくたびれましたよ」
しかもそんな妖怪ユキダルマンから発せられる声がものすごく恐ろしいものだった。何故、ここで某眼鏡の大佐殿の声が聞こえてくるのだ。思わず箒を止めたアッシュもルークもガタガタと体を震わせる。この中の人でこの外見は、卑怯すぎる。
「どうしたんですか?そんなに震えて。私を倒しにきたのではなかったのですか?」
「そっそうだっ!やいユキダルマン!サンタさんを返せ!」
勇敢にもルークがひょいと飛び上がって巨大なユキダルマンへと指を突きつけた。アッシュよりも例の大佐殿に耐性があるためだろう。ユキダルマンは左右に突き刺さった巨大な木の棒を器用に振りながらドシンとひとつ動いて見せた。
「取り返したければ、私を倒す事ですね」
ユキダルマンの動きと共に、その頭の上に乗っていたこれまた巨大なバケツがズリズリと動いた。ユキダルマンの体勢が変わったせいでバランスが崩れたらしい。……いや、それが狙いか。
巨大なバケツは、アッシュとルークの頭上に真っ直ぐ落ちてきたのだ。危ない!
1、右に避ける
2、左に避ける